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おやじパンクス、恋をする。#072

 ジャカジャーン、カズの弾く下手くそなフレーズ。しかもアンプを通してねえからすげえ貧弱に聞こえるエレキギターのメロディが、言葉の重みを取り去ってしまう。もう何十年もバンドでギターを弾いてるやつの腕とは思えねえが、まあこの状況下では、妙な救いでもある。

「乗っ取り? なんだよそれ」俺はタバコに火をつける。

「パ……いや、親父の会社は、乗っ取られようとしてるんです」

「会社が? 誰に」

 当然のように俺が聞くと、雄大は何となく辺りを伺うように肩をすくめて、黙った。

「おい、なんだよ。何黙ってんだよ」俺がせっつくと、雄大は「あのう」と妙な低い声を出した。

「本当に手伝ってくれるんですか? 俺、他に頼れる人いないんすよ」

 俺はキョトンとしてしまった。手伝う、だって? コイツ何言ってんだ?

「もうここんとこ、俺、あいつらにいいように使われてるんですよ。親父ももう長くなさそうだし、このままじゃウチの会社、本当にあいつらのものになっちまう」

 雄大は泣きそうな顔で俺を見上げて、まくし立てた。薄暗いから分かんねえが、マジで泣いてたのかも知れねえ。

「ちょちょちょ、ちょっと待て。お前、何言ってんだよ。手伝うって何の話だよ。むしろ手伝ってもらうのは俺の方だろうが」

「え? 俺、会社を取り戻すのを助けてもらえるっていうから、来たんですけど」

「はあ? 何言ってんだよ、おいカズ、どういうことだよ!」

「カズさん、どういうことですか!」

 俺たち二人は、カウンターの隅でビールを飲みながら気持ちよさそうにギターを掻き鳴らしているカズに言った。

「だからよ」テキトーな事言ったのがバレて焦るかと思いきや、カズはいつもの呑気な口調で言った。

「梶さんの会社は、とにかくそういう状態なわけだ。それまでのまっとうなやり方じゃない、売上至上主義っつうか、とにかく儲かりゃいいじゃねえかっていう考えの奴らに、乗っ取られつつあると。しかも梶さんは胃ガンで先が長くねえ。もしここでポックリ逝っちまうようなことがあれば、要するに会社はその”儲りゃいいじゃねえかグループ”のものになっちまうんじゃねえかと、雄大は心配で心配で仕方ねえわけ。分かる?」

「分かる? じゃねえよバカ。そりゃ分かるよ」

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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