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おやじパンクス、恋をする。#037
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
「あんた、誰なんですか?」
俺がそう聞くと、バカはその小せえ眼球がボロリとこぼれちまいそうなくらいに目を見開いて、口をパクパクさせた。
わかる。わかるよ。本来なら自分が投げるべき言葉が、逆に相手から発せられたんだ。混乱するよな。
あんた誰ですか、じゃねえよ。てめえこそ誰なんだよって話さ。で、バカはその通りの返事をした。
「て、てめえこそ誰なんだよ」
俺は思わず笑った。
笑いながら、さらにムカついてくるのを感じた。
あれ、なんなんだろうな。面白くて笑ったんだけど、笑ってる自分がまたムカついてくるっていうか、自分を笑わせた相手がムカつくっていうか、まあ勝手な理屈なんだが、関係ねえ。
俺は笑いながら扉の間に手を突っ込んで、バカの襟首を掴んで一気に引き寄せた。あのバカのデカイ顔がグッと近づいて、シャンプーなのかボディソープなのか分かんねえが、やけに甘ったるいにおいが漂ってきた。クソ、こいつ、風呂入ったのか? 彼女の部屋で? 何のために? クソ、もう我慢ならねえ。
「いいか」俺は言った。
「一旦扉を閉めて、キーチェーンを外して、扉を開けるんだ」
「なんだよ、あんた、なんなんだよ」
下で見た時はそれなりにツッパった野郎にも見えたが、なんてことはねえ、こうして見れば単なるガキのチンピラだ。
肩口から鎖骨あたりに入ってる刺青も、筋彫りだけで放置されたみてえな貧弱なやつだった。身体だって、あのレストランから見た時はそれなりに厳つく感じたが、こうして間近で見るとブヨブヨしただけのデブじゃねえか。
なんなんだよじゃねえんだよ、バカ。てめえはなんなんだよ。なんでてめえみてえなのが彼女と一緒にいるんだよ。俺は何だか悲しくなってきた。
どうして彼女はこんなバカを部屋に入れたりするんだろう。歳だって思った以上に若い、下手したらコイツ、二十代前半とかなんじゃねえのか。
「いいか、もう一回言うぞ、一旦扉を閉めて、キーチェーンを外して、扉を開けろ。ビビってんのか?」