おやじパンクス、恋をする。#069
カズが俺の店に現れたのはそれから一週間後だった。
まだ客が来ないような早い時間。カズはいつもの革ジャン姿で、コンビニのフライドポテトをもしゃもしゃ食いながら現れた。
よお、と口を開きかけた瞬間、俺はカズの後ろからついてきた男の顔を見て、思わずあっと声を上げた。
ずんぐりした体つき、ストライプのスーツ、坊主頭――
それは間違いなく、彼女の部屋で見た”あのバカ”だった。
「てめえ! 何だってこんなとこにいんだよ」
あの日はキレ気味の涼介をどっちかっつうと抑える役回りだったが、俺がこいつに対してムカついてる事に変わりはねえ。
「よお、落ち着けよ」カズはそう言って、後ろのバカに「まあ入れよ」と席をすすめた。
「おいカズ、どういうことだよ。何でてめえがコイツと一緒にいんだ」
「だから落ち着けって。曲がりなりにもマスターだろうがよ、まずはお客様に注文を聞いて、話はそれからだ」
カズはニヤニヤしながら言って、ポケットからタバコを取り出すと、火をつけた。耳の穴に指を突っ込んでグリグリとかき回し、耳クソのついた指先にフッと息を吹きかける。クソ、客っつうのはもっとお行儀のいいもんだぜ。
イライラしながら冷凍庫からジョッキを二つ取り出してビールを注いでいると、「あ、俺、ウーロン茶で」とバカが言いやがった。
「はあ? 何でだよ」と俺。いや、何でだよってのもあれだけど、何だよウーロン茶ってよ。何かいちいちムカつくんだよなコイツ。だいたいコイツは嫌がる彼女に無理矢理キスして、多分乳も揉んで……
「よお、例の話だけどな」
カズが枯れ草みたいなにおいの煙を吐き出しながら言う。何かよく分かんねえ銘柄の巻きたばこ。マリファナだと誤解されるからやめろっつってんだけど、やめねえんだよなコイツ。
「つうか、コイツの前でその話すんのかよ」
俺はカズの前にビールを、バカの前にウーロン茶を置きながら言った。
「いやお前さ、少しは想像力ってもんを働かせろよ」とカズ。
「想像力? なんだよそれ」
「いやでも、やっぱり説明しないと分かんないんじゃないかと」とバカが口を開いて、俺はほとんど反射的にカッと目を見開くと、「てめえは黙ってろ!」と叫ぶ。バカはそのでけえ図体をビクッとさせて俯く。ああイライラする。この腰抜けが。
「だからよ、俺がコイツと仲良くデートしにきたとでも思うのかよ。んなわけねーだろ」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。