おやじパンクス、恋をする。#134
「元気そうに見えたけどな。梶さん」
俺は、目の前に建つ病院を見上げた。
どこが梶さんの病室なのか分かるはずもなかったが、いま梶さんは、息子が出て行った病室で、ほっとしているような気がしてならなかった。
それは、この出来の悪い、丸っこい輪郭をした、ちょっと精神的に不安定な感じのする唯一のせがれ、雄大に対する愛情とは全然矛盾しない。
梶さんは、そこに本人がいるからだろうが、雄大の話はほとんどしなかった。「君らみたいな兄貴分がいると、安心だ」って話だけ。でも、梶さんが雄大のことをすごく心配してることはよく分かった。
雄大は俺の言葉を無視して、言った。
「マサさん、どうするんですか」
「ん、なにが」
「なにって……」
「……」
俺がとぼけた顔で黙ると、雄大は不貞腐れたように俯いた。雄大が、彼女のことを話したがっている、いや、話したくはねえんだが、話したい、みたいな複雑な気持ちの中にいるのは俺にも分かった。
でも、変だな。
俺、雄大のためにはどうしてやるのが一番いいんだろうって、そんな風に考えてた。
変な感じだった。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。