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おやじパンクス、恋をする。#156
何か、よく分かんねえ気持ちが沸き上がって、思わずその手を取った。
「コラ、離せ」
彼女は笑って言ったが、俺はなんでか笑えなかった。けど、同じくらい、そのまま彼女を引き止めていることもできなかった。
手を離して、「ごめん」とかアホなことを言った。
「どうしたの、マサ」
「いや、なんでもねえよ、ちょっとふざけただけだ」
「嘘」
「ああ嘘さ。嘘だけど、いいんだ」 彼女は少し目を細めて黙り、やがて「そっか」と言った。
「じゃあ、行ってくるよ。マサも仕事でしょう」
「ああ、気が向いたら来いよ」
「バカ言わないで。付き合ったその日に職場に顔出すほど、不躾な女じゃないよ」
「そういうもん?」俺は肩をすくめた。
「そう。そういうもん」彼女は俺の言い方を真似して言った。
「わかった。梶さんによろしくな」
「うん、伝えとく」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。