おやじパンクス、恋をする。#103
「機嫌悪そうっていうか、何かに耐えてるみたいな顔してた。ごめんね、私が手振ったりしたからだね」
「いや、だからんなことねえって」俺はムキになって否定した。
「私もさ、まずったかなーって後で思ったんだけどね」
俺はカーっとなって、「だから違うつってんだろ!」と声を荒らげた。
彼女は俺を、何ていうか、また眩しそうな感じで見上げた。こんな薄暗い店内で。
俺はやべっと思いながらビールを飲んだ。何キレてんだよコラ、頭冷やせバカが。
俺は深呼吸をして、ゆっくりと言った。
「いや、だから、そういうのに対してよ、俺が何にもできねえのが嫌だったんだよ……手を振り返すとかよ」
「うん。だからそういうことだって」彼女は言った。
「はあ?」
「だから、マサは、私の変なお願いを受けちゃった以上、友達として振る舞わなきゃって、私が友達だと思えるような態度を取らなきゃって、そう思ってたんでしょ。でも、お父さんやお母さんの手前、ううん、それ以前にあの年頃だもの、女子と仲良くするなんて恥ずかしいわけでしょ」
「……」
「けど、マサは私のために何とかしなきゃって、でも何にもできなくて、そういうことに、苦しんでたんだ。私にはそれがよくわかったよ。私は、そういう気持ちが嬉しかった。だから、ある時から突然現れなくなって、悲しかった。レストランだけじゃない、キミは学校からも、いなくなっちゃった」
「……転校したんだ。家が引っ越して、だから」
「わかってるよ、もちろん。でも、理由なんて、何だって同じわけでしょう」
彼女の言葉に俺はハッとする。
理由なんて何だって同じ。確かにそうだ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。