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【SF短編】地球内蔵コタツ

そろそろ寒くなってきました。

コタツの季節です。

お父さんもお母さんも僕もあたしも、休日の朝はベッドからコタツに直行。

ごろごろだらだらしながら、ご飯を食べるのも、テレビを見るのも、パソコンいじるのも、小説を読むのも、ゲームするのも、お昼寝するのも、すべてコタツで。

できるなら、他のどんなことをもコタツの中で行いたい。一蓮托生、我が人生コタツと共に……。

近い未来には、洋服ダンス内蔵コタツ、冷蔵庫内蔵コタツ、トイレ内蔵コタツなんて物が発明されるに違いない。私たちのように、「ごろごろだらだら」の大好きな、この上なく面倒臭がりの発明家の手によって。

いやいやそれどころか。

ついに家の物「全て」を内蔵する事に成功した新進コタツ発明家たちの想像力は、その興味の対象を屋外にまで伸ばしていった。マンション内蔵コタツ、町内蔵コタツ、県内蔵コタツ、日本内蔵コタツ……

「この世から、外をなくそう」のスローガンのもと、果たして地球内蔵コタツが実装される。

「ごろごろだらだら」を、全ての場所で享受できるようになった人類は、それまでのように寒さを言い訳に外出を避けることができなくなった。

面倒臭がりが生み出した面倒臭がりのための商品だったはずの地球内蔵コタツのせいで、その実装前に比べ何倍も「行動的な冬」を過ごさざるを得なくなったのである。

常に暖かい温度の保たれた世の中からは長袖の服が消滅し、基本的には唯一のデイリーウェアとなったTシャツ産業が爆発的に業績を伸ばした。

一方、世界中の氷山が解けた事で海面が数十メートル上昇、多くの島国が海に沈み、主に東南アジアからの数十万人規模の難民が日本に流入した。

ーそんなある日のこと。

地球内蔵コタツを発明し巨万の富を得ていた元ニート・面倒臭(めんどうくさし)博士は、しばらく前から宿にしている高級ホテル最上階のスイートルームで"冷房"をかけ、着ぶくれのように防寒具を重ね着した状態で、既に過去の遺物となりつつあった一般家庭用ノーマルコタツの中に潜ってテレビを見ていた。

トイレや洋服ダンスが内蔵されていない為、時々はどうしてもコタツを離れなければならないが、凍えるほどの冷風で満たされた部屋、急ぎ足で用を足し、再びこのぬくぬくの空間に潜りこんだ時の幸福感は何にも増して格別なのであった。

テレビの中では一様にTシャツを身に付けた肌の黒い難民達が、自分達の国を奪った地球内蔵コタツの発明者と企業、つまり面倒博士とそのアイデアを採用し実際に製造・設置を行った会社に対するデモを行っていた。

彼らの要求は単純なものだ。

「今すぐ地球内蔵コタツのスイッチを切れ!」彼らはそう言っているのである。

拙い日本語でその主張の書かれたプラカードを持ってデモ行進する何千・何万の難民の集団を見て面倒博士は苦笑いする。

「なんともまあ、お元気なことで」

そしてコタツの中で寝返りを打ち、壁のコンセントに差し込まれた「二つ」のプラグを眺める。一つは今自分が潜っている一般家庭用コタツのプラグ、そしてもう一つは、難民達が血眼になって探しているはずの、地球内蔵コタツのメインプラグなのである。

面倒博士はそしてもう一度笑う。このプラグが差し込まれているからこそ、自分はこのような「豊かな生活」を送れるのだ。誰が抜くものか。

そして面倒博士は、ゆったり現れた眠気に抵抗する事なく、惰眠の世界に落ちていった。

その数日後、地球内蔵コタツはその運動を突然中止した。

何かしらの理由により地球内蔵コタツへの電力の供給が断たれた事が原因だと考えられると、数時間後に開かれた記者会見で企業は発表した。

実のところ、企業側にも地球内蔵コタツの電源コードがどこにあるのかを知っている人間は一人もいなかった。それを知っているのは、地球内蔵コタツの発明者である面倒博士のみだ。

しかし、その肝心の面倒博士と連絡がつかないのだった。


 
記者会見から二日後、都内の高級ホテルで面倒博士の死体が発見された。

死因は凍死。

面倒博士の死体が発見される前日に掃除の為に部屋に入った清掃スタッフのSさんによると、面倒博士の部屋の中は驚くべき寒さだったと言う。

余りの寒さにSさんは急いで部屋を後にした。以下はインタビューに応じたSさんの話である。

「照明もついていなくて、部屋の中は真っ暗でした。テレビはついていたから、何となく部屋の様子は分かったけど、でもとにかく寒くてね。私はあの日が初めての出勤で、何もわからなかったのよ。でも、こんなにも寒い部屋を掃除させられるなんて聞いてなかったから、すぐ部屋を出て、そのまま辞めちゃった。寒いところなんてまっぴらゴメンだからね」

メモを取りながら話を聞いていた記者は、ふと、Sさんの右ひじに張られた絆創膏に気付いた。

「ところでその絆創膏はどうしたんです? お怪我でもされたんですか」

「ああ、転んだのよ、その、寒かったっていう部屋を慌てて出る時にさ。暗かったからあんまり分からなかったけど、何かに引っかかったみたいでね。多分、なにかコードみたいなものに。それで転んじゃって。まだ痛いのよ、ほんと怒れちゃう」

なるほど、と記者は頷きながら、久々に袖を通した長袖のジャケットの中で数回震え、このインタビューが終わったらどうにかしてダウンジャケットを手に入れなければ、と思った。

おわり

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