箱蔵剣の一句鑑賞
KADOKAWA「俳句9月号」より
波白く骨よく撓(しな)ふ日傘かな
岸本尚毅(天為•秀)
季語は「日傘」。夏である。
明るい空と海が果てしなく広がる。
作者の技は形容詞の連用形の使い方の巧みだ。
掲句では「白し」「よし(良し)」と言う形容詞がある。国語の先生に聞いた話では、古文では連用形の後に体言を持って来ることはないそうだ。
掲句
「波白く」と言う「白し」の連用形の後
「骨」と言う体言を持ってきている。
この「白く」と言う形容詞連体形が掛かる先はない。
つまりこれは「切れ」である。
一般的な俳句であれば「波白し」と明快に切るところを、敢えて背景に滲みを与えるように連体形で切っていると考える。
波白く骨よく撓ふ日傘かな
波白し骨よく撓う日傘かな
まるで日傘の「撓(しな)り」によって海が白波を立てるかのようなドラマを挿し込むことが出来る。「日傘」の主にひとかたならぬ憂いを持ち、それを強い潮風に洗わんとする雰囲気が生まれる。
作者の心象に、連用形の後に体言を用いる方法がとても馴染んだのだろうと思う。それぞれの句作の方法は、分析によって出来るのではなく、心象の追求によって作られると考える。