新社会人応援企画 来たれ!新入社畜ども!
2011年6月12日発行 ロウドウジンVol.2 所収
新入社畜、言うまでもなく社畜のタマゴですが彼らにもニワトリ同様有精卵と無精卵があり、孵化するのをやめて新たな生へと歩みだしていく人もいますが、多くがそのまま飼い慣らされて育っていってしまいます。
まだ学生という殻に守られているタマゴたちを、社会は同調圧力で加熱し無理矢理に孵化させ、食べきれないほどの仕事という餌を与えブロイラーとして促成させようとするのです。
ブロイラーとしての生き方は残酷です。
手間隙をかけられることもなく、入社して初めて見た上司への刷り込みだけで生き方を覚えなくてはなりません。最初こそ動きの自由もある程度あり、周囲を観察することもできますがすぐにたくさんの仕事を与えられ、身体が大きくなって気づいたときには首を回すことも出来ず、ただ窒息しないように仕事を消化するだけの存在となってしまいます。それほど会社というオリは窮屈に出来ているのです。
しかし、まだ身体がオリにはまりきらないうちであれば、餌の避け方戻し方を学び、身軽な身体を維持したままオリから飛び立つ可能性を探ることも不可能ではありません。出荷される悪夢から逃れる事ができるのです。
社畜たちは自分達の小屋から誰かが出荷されてしまうと、二度とは戻ってこないことを経験的に知ってしますのでそういう時は大きな声で鳴きます。しかし、鳴くだけです。
そこで小屋から逃げようと思ったりだとか、出荷された人の行く末に興味を抱くような感性の人だけが、ループから外れて反社会人へとなりうるのです。
社畜牧場も注意して見ていれば、反社会人的目覚めのチャンスはそこかしこにあります。
例えば喫煙所……弾圧が進んでこそいますが吸う人にとってはパラダイス、給料を貰いながらにして合法的に実働時間を短縮できる理想的なスペースです。喫煙所では鬱陶しい先輩社畜に会話を強要される事も少なくありませんがそれも悪いことばかりではなく、上手く相手を乗せることにより自らの立場をいくらか保つ役に立ちます。会社では先輩や上司を共犯から主犯に祭り上げる事を念頭において過ごすのが賢明と言えるでしょう。また、銘柄についてもタールの弱いものを吸い、少しでも喫煙所にいる時間を延ばそうとする賢者もいます。
われわれ反社会人サークルの緻密な調査の結果、絶望という名の希望に膨らむ新入社畜が反社会人化する決定的瞬間をとらえることに成功した。Twitterという文明の利器がその一部始終を記録し続けていたのだ。ここで本人の承諾を得た上でその全記録を公開する。
身体が弱いフリをするのも良いでしょう。とはいえ、仮病や病欠を繰り返すのは、社畜に一気呵成に攻め立てる機会を与えるようなものですから感心できません。さりげなくおなかが弱いアピールや、小便が近いアピールをするのが得策です。
そのような改善不可能で、なおかつ心身の本質的な弱さを想起させない程度の特徴を認識させることができれば、労働を回避したいときや眠気に耐えかねたとき、生活のあらゆる場面でリフレッシュすることが出来るでしょう。トイレという自分の土俵で戦えば、社畜ライフも恐るるに足らずです。
これらの方法は社畜に紛れ、秘密裏に反社会人としての意志を貫くスタイルといえますが、よりオープンに、小規模の対立は辞さずに暮らしていくスタイルもあります。むしろ若く血気盛んな新入社畜にはこちらの方が容易であるかもしれません。
ズバリ、世代間ギャップに便乗し、新人であることの免罪符を恒常化する方法です。
付き合いが悪い、とか上司だからと神聖視しない、といった性質は個人差による所が大きいですが世代間の問題にも集約されやすく、なにより「近頃の若い者は……」といった説教は加齢した人間とっては最高のごちそうですので、適度なエサをやって満足させてやれば良い訳です。草食系だのダメだのと罵られるだけで貴重な人生の時間を奪われずに済むのなら、こんなに安いことはありません!
上司が丈夫で良く食べる社畜を選び出し肥育しようとしているとき、反社会人もまた将来の候補生を見出そうとしています。我々はいつでも待っていますので、一時の気の迷いで誤って職に就いてしまってもあきらめずに脱出の機会を見つけ出していきましょう。
コラム 汝、転落に注意せよ
人生には山あり谷ありとは言うものの実際にはなにもない。しかし完全に平滑な平面は存在しない。目に視えないちょっとした凸凹。そんなものでも転落の可能性は秘めている。転は簡単、起は難関。七転八起のつもりが七転八倒になるのはよくある話。注意してしすぎることはない。新入社畜ならなおさらだ。すでに転落中の可能性すらあるのだから。