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反社会人アイドル探訪記 おちゃ

2014年11月24日発行 ロウドウジンVol.9 所収

今回の反社会人アイドルは、内省的なブログとコミカルなTwitterで人気を集めるおちゃ( @syocir )さん。家族からの自立を目指す彼女に、これまでの人生の辛みを振り返ってもらった。

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――今の身分と活動内容は?

大学4年で、活動はインターネットしかしてない(笑)

――大学4年間で身に付いたことはある?

大学の勉強とかでは全然無くて、人間性の獲得というか。大学入学したときはモノの味とかも全然わかんなんくて、人とも話せないし色々大変だったんですけど。今はインターネット活動によって、だいぶ人間性を獲得できました。

――何だかSFっぽい。インターネット活動は大学から?

中2くらいからやってたんですけど、やっぱり高2から始めたTwitterが大きな契機で。まず私が始めたタイミングがよくて、5年前くらいなんですけど、当時はあんまり女子高生でやってる人とかいなくて、それでイヤでも注目されて、フォローされて絡まれるじゃないですか。オフ会とか呼ばれたりして。

――出会い厨の力が。

そうそう。出会い厨の力が働いて。

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――学校とかのコミュニティだと、飯食いに行こうとか言われなかったの?

言われるんですけどなんかやっぱり……チヤホヤされたのがよかったのかなあ。私はもともと褒められるのとかホントにイヤで、褒められると鬱になってたりしてたんですけど、ずーっとそれをされてるうちに慣れてきて。

――家では褒められるの?

全然褒められなくて、父親にひたすら貶されるんです。

――どんな感じに?

親は働いてないし、あんまり外に出て行かない人だからサンプルがなくて、アニメとかマンガと比較されるんです。鉄人28号とか。鉄人28号ですら正太郎少年の言うことを聞いて動くのに、お前は操縦桿の壊れた鉄人28号だ!って。

――なるほど! 酷い!(笑)

それと「ルフィとか好きだろ?」って言われて。あいつらはあんなに頑張って戦ってるのに、お前は何も頑張ってないって。

――キャラクターを引き合いに出されるんだ。

そうです。リアルの小学生、中学生の生態がわからないから。そういう子と比べたら私はそこまでヘンテコでダメではなかったと思うんですけど、適切なサンプルがないから。

――それは全部お父さん?

そうです。母親は交流無いんで。居るけど働いてて、あとあんまり子供が好きではないので。

――すごく満足して働いてるのかな。

母はすごい働くの好きで、もともと父と共働きで超稼いで余裕で悠々自適の老後を過ごすって人生プランがあって。だからもちろん自分も働くし夫にも働いてもらって、ってのがあったんだけど、夫が働いてくれない。自分が働く事自体は不満は無いんだけど、二人で働きたかったから現状には不満がある。

――基本はお父さんに育てられたの?

完全に。私途中まで母親いないと思ってて。家に女の人がいるのは知ってるけど、あれがみんなの言うお母さんだってわからなくて。小さい子ってみんなお母さんお母さん言うじゃないですか。お母さんだって思ってなくて、名前で呼んでた。

――すごいね。父親みたいな人生を歩みたい。父親はどういう経歴なの?

大学出て院に行って、院で教授の補助みたいなことやったりとか、塾講とかパソコン教室とか、法律の知識生かしたみたいなバイトもやったり。弁護士の資格とかはないんだけど、「昔は裏っぽいこともやってた」みたいなことドヤ顔で言ってた。

――お父さんの大学院も法学系?

多分。父がずっと言ってるのは、俺は今こんなクズみたいな人生だけど、大学でめちゃくちゃ法律の勉強をしたから今こういう生活ができるんだ、って。なんかこう、彼は母のヒモってわけじゃなくて、自分でやっていこうと思えばやっていけるらしくて。株とかで。

――ちゃんと株で儲けてるってこと?

最近知ったんですけど、私の養育費とか全部父が出してるらしくって。この間「私が家出て行けばその分養育費とかかからなくなるからお金とか楽になるでしょ」って母親に言ったら「全部父親から出てるからそれは関係ない」って。

――ただのヒモじゃなくて稼いでるって余計すごい話だ。ちなみにそれだとお金に余裕があるのでは?

父親の金は父親の金であって、家に入れていないんだと思う。この前家族会議があって、これは辛い記憶すぎてちょっと抹消しちゃったんですけど、「老後とかもどうすればいいか分からない」って母親が言ったら、「俺は一切あてにするな」みたいな。もし一緒に住んでたとしても、我々の財布は別だからみたいなことをすごい言ってて。

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──去年引っ越したそうだけど、もっと家賃の安い所にとかいう、そういう意図が?

そう。色んな意図があって。前の家は、とても良くない家族関係の色んなものが染みついていたんで、それを清算する。父親も、あの人引きこもってずっと家にいるんで、同じ環境にいると、どんどんドヨドヨしたものが溜まってくるから。あと家賃が少し安い方がいいみたいな。

──それは誰の意思で?

母です。母はずっと引っ越したがっていて。

──やっぱりお父さんが働かないから?

多分そう。このままここには住めない。でも今の家も、このまま父が非協力的だったら住めないからって。

──年金だけで生きていけるもんじゃないんだねえ。

私も父も人生諦め人間なんで、別にそれでダメになっちゃったらホームレス暮らしすればいいじゃんみたいな感じで。母はすごい必死で「今の環境を、今の家族でこれからも過ごしていくために、父に声掛けして欲しいし、私は早期退職して他の道を見つけるか、最後まで残るか今迷っているんだ」みたいな相談があったんですけど、別に私たちは、死ぬときは死ぬし、どうでもいいよ、好きにすればいいよみたいな。

──そういう意味だと父派なんだ。考え方とかは。

そうですね。母の考えは良くわからない。母は本当に普通の女の子で、普通に大学出て普通に就職して普通にこの男の人と結婚して。

──よく父親と結婚したよね。

そうなんですよね。しかも何十年も一緒にいて、まだ父に更生の余地があると思っていて。いつか私の気持ちを分かって働いてくれるだろうってずっと思って、まだそれを捨てきれないって。理性ではもうダメって分かっているけど、感情として捨てきれないって。

──なるほどねー。でも子育てとかちゃんと父親がやっていて偉いよね。

父は子育てを言い訳にしていて、「子供が生まれたから俺は働かないんだ」って。主夫が必要だろって。でも父親のクソな所は、例えば母親の母親、私のおばあちゃんが理想の女だって言ってて。おばあちゃんはおじいちゃんに、すごいへこへこしてるんですよ。ちゃんとした亭主とその嫁みたいな感じなんですけど、そういう女じゃないとダメだって言うんですよ。なんでそういう関係性が成り立つかっていうと、亭主が金稼いで、大黒柱やってるから。なのにあの男は自分が稼いでいないくせに、母にそれを求めてるっていう。

──それは母親もイヤだよね。

そう。母はこの前すごい泣いてて、「事あるごとにお前はあのお母さんみたいにならないからダメなんだよって言うんだけど、それは違う、私が稼いでいるのに」って。

──そういうのはお父さんに指摘したりするの? だからお前はクズなんだって。

いやぁ、もうなんか最早できるかもしれないんですけど、十二歳くらいから高校卒業ぐらいまで、何か言おうものならぶん殴られるというのがあったんで、父には何も言えない。

──じゃあ単純にお父さんが一番偉いっていうか。

偉いって言うか、自分が偉いと思ってないんですけど、理詰めで相手を言い負かす人なんで。

──だから反論しなくなる。しかも鉄拳も飛んでくる。

そうなんですよ。でもそれこそ法律大好き人間だから、「二十歳になると親権が無くなる、だから二十歳までは殴りまくるけど、二十歳を超えたら殴らない」と前から宣言してて、実際そうだったんで。それもあって、大学生になってから人間性を取り戻したみたいな。

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──今回の家族会議のきっかけは?

母はまだ家族に理想を持っていて、みんなでご飯食べに行ったりしたいので、ご飯食べに行こうという感じで集まった。うちの家族三人なのに、ご飯とか家で一緒に食べたことないし、全く集まらないので、この際だからと退職早めにするかとか老後の話とか母が切り出したのが、その家族会議のきっかけになったみたいな。

──母親と父親は一緒にご飯食べないってこと?

食べないですよ。父親は晩御飯作るんですけど、鍋にボーンって作っておいて、勝手に取ってね、みたいな。

──一応家事はしてるってことか。

家事はしてるんですけど、父親は例えばカレー作っておいて、自分は勝手にパスタとか作って食べてる。それで、母親が帰ってきたら、「カレーだよ今日は、自分で掬って取って」みたいな。私に対してもそう。「カレー鍋にあるよ」って。物心付いた時から一人で勝手に。

──すごいな。

鍋とかも、みんなで囲って食べるものだって知らなくて。鍋も、コンロに置いてあるから自分で勝手にとって食べるみたいな。

──父親としても、責務だから作ってるだけで、本人はパスタが食いたいんだよね。

主夫だからご飯を作るのは一つの仕事だけど。それでしかないみたいな。コミュニケーションみたいなそれに付随する価値は求めてない。

──家にいるのに一緒に飯を食わないのは、仕事する、しないのおかしさじゃない。てか家族なのか? みたいな。飯を食うって結構重要な人とのコミュニケーションなのに。

だから私、人とごはん食べたりするのができなくて困ってたんですけど、それもTwitterでオフ会とかだったらやっぱり飲み会とかになるじゃないですか。だからだんだん慣れてきて。

──ちなみにお母さんは?

そうですね、父親も私と一緒で朝方までパソコンしてる人なんで、母が起きる時間みんな寝てるし、母は一人で起きて一人で適当にご飯食べたり食べなかったりして、一人で家を出ていき、夜は八時くらいに帰ってくるんですけど、鍋にあるその日のおかずを一人でよそって、一人で食べて。

──八時だったら普通の時間だ。

そうなんですよ、待てるじゃないですか。でも待つ気ないし。父親も部屋にずっと閉じこもったまま「おかえり」とかだけ言って。特に出てこない。

──父親は部屋に籠って何やってるか全然わからない?

小さい頃は、お父さんの仕事がどうみたいなこと小学校で言われるから聞くじゃないですか。無邪気に、お父さん何してんの? みたいな。そしたらキレるんですよね。「そういうことは聞くもんじゃない!」って。あ、これ聞いちゃいけないことなんだ、みたいな。

──キレるってことは、本人は後ろめたかったのかなあ。

本人はプライドも高いし、不本意だと思う。司法試験受けたかったんだけど、学生運動で試験受けられなくなっちゃって、そのせいで俺の人生は狂ったとか言って、いっつもそのせいにしてる。それでもう俺は一気にやる気をなくして、なにもできなくなって、酒ばっかり飲んじゃったとか、そんな話を聞いてもいないのにたまにしだす。

──そういうコミュニケーションはリビングで起こる?

父と私でコミュニケーションが起こるのは……最近はなんか寂しいみたいで話しかけてくるんですけど、昔は、私に対しての説教の一環で、言い出したら一時間二時間話し続けるんで、ネタ尽きるから、自分の過去の話とか一通り言うんですよ。すっきりするまで。

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──父親が何歳の時に生まれたんだっけ?

今父親が61なんで、私が22だから……。でももともとあの両親は子供を作る予定じゃなくて、母の姉夫婦が子供ができなくて困っていたから、お世話になってるし、うちらは健康だから、作って養子に出すかみたいな感じで作った。それなのに、生まれちゃったら可愛かったみたいで、父親がダダこねて、姉夫婦の旦那さんが煙草吸っていることに目を付けて、「子供が生まれたのに煙草をやめないなんてそんな家にやれるわけがない」って理由付け出して。

──すごい聞きたくない出生の秘密だよね……。可愛くて手放さなかったという、というのはいいエピソードかもだけど。

私のことはすごい好きだと思うんですけど、ちょっと育て方が歪んでるだけで。ただ、母親としたら、ダブルインカムで悠々自適のはずが、父親のわがままで子供がいるうえに父親働かない。しかも子供を理由にして働かない。

──そういう思想の下なのに、父親はちゃんと子供を育てたいというのがすごい。

父も司法試験受けられなくなったりして、結構人生絶望マンなので、自分の人生がもうダメだからこそ、子供に希望を託したくなるみたいな。だから私の教育に熱を入れちゃって、熱が入りすぎて鉄人28号とか。

──親に勉強見てもらったりしてた?

ずっと教えてもらっていて。でもその教え方がめちゃくちゃキレてるというか厳しいというかスパルタなんで。親に勉強教えられて毎回泣いてて、泣くと怒られる。

──娘なのによくそんな教えるよね。

あの人、娘だと思ってないんですよ。私、19歳くらいの時に、「私、女の子なの知ってた?」って言ったら、「あ、ごめん気付かなかった」って言われて。私その時精神が回復してきてたんで「殴るのとかひどくない?」って言ったら、「そういえば確かにお前は女の子だし、男の子ならまだしも女の子なら世間一般的にはあんまり殴るものじゃなかったかもな」みたいなことを言われて。

──すごいな……。今まではお父さんの期待には応えてきたのかな?

父の期待は客観的に成績が良いとかそういうことじゃなくて、成績だけだったら昔は少なくとも良かったんですけど、父はちゃんとやって欲しいんですよ。

──プロセスってこと?

プロセスが欲しいんだけど、私はプロセスゼロだったんで、それがなんか嫌だったみたいですね。テストが全部百点でもそれは嬉しくなくて、プロセスが欲しかった。

──簡単にいうと、ちゃんとやる、みたいなのがお父さんの求めてることなのかな。

すべてそう。生活態度ともかも。「愚直になれ」ってすごい言われて。父の標語みたいな感じで。多分俺の言ったことに愚直になれということなんだけど、彼にとって俺の言ったことっていうのは世間一般的なことだから、自分の中では普通のこと。例えば大学生は学生なんだからアルバイトもしちゃダメだし、友達と遊んじゃダメだし、勉強だけしてればいい、っていうのが彼にとっての普通なんで、それを実行することが愚直。それはちょっと極端では? と思うんだけど、彼にいくら言ったところで、普通だ、と。

中学の時も高校の時も、友達と遊ぶのも禁止だったんですよね。そんなの大人になってから遊べるから、みたいな。でも周りの子はみんな遊んでるじゃないですか。それについてはどう思うの? って言ったら、「周りの子は遊ぶに値する人間だからで、お前はそういう子達とは全然次元が違うゴミクズなんだから、遊んでる暇なんかないだろ。他の子と同じレベルで遊んでたらお前はどんどん塵みたいになっていくんだから」みたいな感じで、他の子を引き合いに出すと怒られるっていう。

──最大限に謙虚なのか謙遜しているのか何なのか。

そこまで言わなくてもいいのに、ってすごい思うんですけど。ゴミとか、ミミズの方がお前より頑張って生きてるとかそういう言い方をいちいちしてくるんで、プロセスをちゃんと大事にして欲しいって伝えたいにしても、ミミズ以下ってそんな言い方しなくてもいいなのになーって。

──じゃあ全然部活とかもできない?

中高一貫だったので、中学入ったときはサッカー好きだったんでサッカー部だったんですけど、二年以降は門限に間に合わないんで続けられなくて。それも、「周りの子が部活やってるのはなんでかわかるか? お前と違って人間だからだろ」みたいな。

――ひどい。お母さん何か言わなかったの?

母は気付いてなかったらしくて。私が一人で毎日ごはん食べてることも知らなかったとか。

──母親は基本的に無関心なのかな。

そうですね、もともと欲しかったわけではないから……。小さい頃は、「あんな子、生まなきゃ良かった」みたいなことをずっと言ってて。私もそれ聞いてるから、知らねーよなんだよあのババアみたいな感じで。お互いもう無関心。

──どういう状態の時にそういう話を?

夜、母が叫んでるのが聞こえてくる。多分人生辛いみたいなことを父親に言ってて、あんな子がいるから!みたいに言ってるのが、私はその場にいないけど家の中だから聞こえる。母がそうやって人生辛いとか言ってたら、じゃあ死ぬ? とか言って『完全自殺マニュアル』をプレゼントする父親。

──それはマジレスすぎる。母親にはもうちょっと普通の人生があったんだろうね。

そう、可哀想なんですけど、でも選んだのはあの人だからっていう。

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――そんなに悪い親だったとは思ってなかったりもするの? それともクソ?

クソだなとは思うんですけど、嫌いじゃなくて、何なんだろ、親だから、ずっと育てられた親に対してなかなか嫌いになれないじゃないですか。そういうのもあると思うんですけど、変わった人って面白いじゃないですか。そういう魅力もあるなあとは思うんだけど。唯一の父親だから、そう思って、良い面を頑張って見ようとしてるだけなのか、本当に魅力的な人なのかはよくわからないんですけど。

――父親は友達とかはいないの?

いないいない。引きこもってるし、人のことを馬鹿にするんで、友達できないんですよね。学生時代は飲み屋とか行って議論友達が居たみたいな自慢をされるんですけど、そういうのって所謂友達じゃないじゃないですか。愚痴言う相手とかもいないし。私が唯一の話し相手みたいな感じ。

ケータイも、去年引っ越しの時に買ったんですけど、それまで持ってなくて。自分が友達いなくて引きこもってるから、ケータイ必要ないじゃないですか。それと同じ理論で、私にもケータイ必要ないって言って、私も高2……Twitter始める半年前くらいまでは持ってなくて。

唯一父親の友達と言えそうな人は、向こうから積極的にクリスマスパーティやるとか言ってくれる外国人がいて。でもこっちからは一切連絡しないし。たまに、「してあげなよ」みたいなことを言うと、別に求められてない、みたいな。そんな無駄なことを俺はしないとか。

――人間関係は無駄。

そう無駄無駄。人間関係の大事さを分かってない。だから私にもそんなもの必要ないから勉強しろって言うし、人間関係ってものから何か得られるものがあるっていうことを知らない。知るきっかけもなければ知ろうともしてないから、多分死ぬまで知らない。家族間のコミュニケーションにも言えてて、みんなでご飯を食べるという文化で得られるものがあるってことを、知ろうとしてないし知る機会もない。

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――今は家を出ようと思ってるんだよね?

そうなんですよ。今は、殴られないし、引っ越したし、門限もないし、すっごく今居心地が良くて出たくないんですけど、出ないと、私はあの親と住んでる限りことあるごとに鬱になるんですよ。

――それは何故?

やっぱり思い出すから。ちょっときっかけがあるとうわーって。

――それはどういう記憶?

鉄人28号とか、罵られ殴られたりとか、惨めな気持ちになってしまうので。現実にそれがもうないのに、思い出して惨めになって何もできないとかバカバカしいじゃないですか。だからそれをどうやったら脱却できるか。

――思い出すきっかけは少ないほうが良い。

家を出てみて一人になってみても、なんか鬱になっていたら、それはもう病院行けって話で。今の状態じゃ、22年間ずーっと同じ家にいて、何が原因なのか全然わからないから。今は逆に、殴りコミュニケーションがなくなって、普通のコミュニケーションが発生してきて、だからどんどん状況が良くなってるんですよ。早く逃げないと逃げられなくなると思って。それもちょっと懸念事項です。

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――残された2人はどうなるんだろう。

2人にとっても、環境が変わって何かしらの変化があると思うんですよ。別れはしないと思うんですけど、私としては、仲良くなるんじゃないかなってちょっと思うんですよ。私がいなくなったら、母親が唯一の父親の話し相手になる。彼らは話す度に衝突してるけど、それも回数を重ねて行けばなんかうまくいくようにならないかなぁ。崩壊してもいいし、仲良くなってもどうでもいいんで、ただ何か変わってほしい。私は仲良くするか別れるかどっちかにして欲しくて。今の状態がイヤだから。

――一人暮らししてやりたいことある?

一人暮らしっていうか、ぶっちゃけ二人暮らしになる気がするんですけど、私はすごく勉強がしてみたくて。したことがないんで。

――すごい。

勉強はしてみたいし、なんだかんだでずっと実家でのうのうと暮らしてきたんで、自分をあまり追い詰めたこともないし、一週間のうち5日間家にいて、だからこそ死にたいとか考える余裕があった。そういうのがない自転車操業みたいな生活の中で、自分のメンタルがどう変わっていくかみたいな。もしくはそれに潰されて死ぬのかみたいな。

――人は忙しい方が安定する。

そう、忙しい方が何だかんだでいいから、段々元気になっていけるのかなっていう。それに二人暮らししたら、これまで住んだことのない他人の監視下にあるみたいな状況になる。今だったら昔のように手首切ったりはしないけど、髪の毛抜きまくったりとか、そういうことをしてしまうけど、人が見てるとしないんで。それはある種ストレスだけど。

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――二人暮らしをする相手は家にいる感じなの?

そうですね。彼氏なんですけど、彼氏も自営業で。普通の会社員のような社会との関わりがないんです。あれ、これ、もしかして……やばいかなー?っていうのもあって。ちょっと楽しみです。

――とりあえず、部屋数の多い家だとまずいね。引きこもられる可能性がある(笑)

そう。絶対そう。親と違う人生歩みたいって言って法学部に行って、自営業と付き合って、あれ?みたいな感じが。

――ループものだ(笑) でも普通に考えたら、母親にはならないわけじゃん。母親と似てると思うところとかある?

顔は似てる。精神的、性格とかは母親には一切似てない。全部父親。父親の劣化コピーみたいな。

――劣化したほうがいい(笑) 社会に寄り添ってる。

そうそう、父親の完璧性から考えたら劣化だけど、それは社会的に見たらいいのかもしれない。

――改善されてる(笑)

彼氏は自営業だけどキチガイじゃない。至極まとも。金銭的には余裕ありそうだから、まあ大丈夫みたいな感じな気はするんですけど。でもうちの父親も弁護士になるから大丈夫って母親と結婚したんで。将来私が必死に働いて辛いみたいになるかもしれない。

――いつか働いてくれるんじゃないかって。

そう、いつか働いてくれる日を待ちながら、50、60、70歳という可能性も無きにしも非ず、っていうのもある意味楽しいですよね。

――父親と母親からちゃんと受け継いできてる。

受け継いでる。あっやっぱりこうなったかって自分が死ぬときに思うのは、それはそれで面白いかなみたいな。

(11月16日カフェ・ド・巴里 池袋西口店にて)

アセット 9@4x

Photography by @2tar
Interviewed by @noir_k, @2tar, @Nerd_Arthur

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