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JAPAN EXPO PARISにサークル参加してきたレポ④ おまけ

これだけわけて書きたいなって小さなお客さんがいたので。

土曜日、色紙がもう売り切れてしまった午後、サンプルに描いたさくらちゃん(コスプレもいっぱいいたからやっぱりCCさくら人気なんだなって思って選択。私もどっぷりハマったど真ん中世代だし今でも大好きなので)だけ表に出してたんですけど。

小学生の女の子(多分中学年くらいかなぁ)が一人でしばらくこっちを見てて、意を決したように近づいてきて、そのさくらちゃんのサンプルを指さして「カワイイ」って、小さい声だったけど日本語で言ってくれたんです。

もうその時点で顔が真っ赤っかで、可愛いやら嬉しいやら可愛いやらで私もめちゃくちゃ笑顔になってしまって。「ありがと~」って日本語で言ったら通じてちょっと安心したのかさっきよりは大きめの声で”Can you speak French?”と。No、ごめんね。って言った瞬間、それはそれは悲しい顔をされてしまった。(´゜ω゜`)みたいな。

人生で一番、どうして私はフランス語の一つも喋れないんだ?大学まで行って、恵まれた環境でのうのうと生きて、何を今までの人生無意味に浪費してきたんだ??って純粋に自分に対して疑問が湧いたし、罪悪感で胸がキュってなった。ニューヨークで「お前こっちがわざわざ英語で喋ってやってんのに何だその態度は文句あるなら日本語で言えやアンコラ」みたいな屈強な国際精神を身につけたはずの私が、フランス語を喋れないことに身が縮こまりそうなほど申し訳無さと恥ずかしさを覚えた貴重な瞬間でした。

そうして私が一人でショックを受けている間にも、女の子がなんとか一生懸命言おうとして、フランス語でちょっと話して、私ももう全身全霊で理解しようとしたんだけどやっぱりわからなくて、彼女がしばらくうーーんてした後に"Just a minute.... ah, no, two, two minutes."って言いながらたたーっとダッシュしていくのを見送るしかできないあぁなんて無力なポンコツ・ジャポネ。

Just a minuteっていう慣用表現を、正確性を期するためにわざわざ言い換えてくれたその優しさがはちゃめちゃに可愛いくて、思わずこの時点で泣きそうになっちゃった。その後お客さんが来てそっちの対応をしてたので本当に2分だったのかもっとだったのかはわからないのですが、彼女がお友達(か、もしかしたらお姉さんとかだったのかもしれない、ちょっと身体が大きかったので)を引き連れて、手に5ユーロ札を握りしめて、帰ってきた。

おかえり!ニコってしたらニコってしてくれた。可愛い。お友達は英語が得意なようで、Commisionをお願いしたいんだけどって彼女の5ユーロ指さしながら言ってくれた。私はゆっくりこの紙がSold outで、こっちは別の人のやつで…ってことを説明すると、理解した彼女がまたあの悲しそうな顔を…や、やめてくれ…。

お友達が一生懸命説得してくれているようだったので肩をたたいて、サンプルだけどこれでよければいいよって言ったらちょっと話し合って、これをくださいってことに。名前を書くから教えてって言ったらお友達も協力してくれて(やっぱりお姉ちゃんとかだったのかな、日本語で名前書いてあげてとかすごく気を使ってあげてたし率先して名前書いてくれたり励ましたり色々してくれて…いずれにせよ彼女もすごくいい子だった。飴ちゃんでも持ってたら3つくらいあげたのに持ってなかった。今度から飴ちゃん持っていこう。こうして人は大阪のおばちゃん化するんだな)日本語のメッセージも添えて、○○どうもありがとうね、って言いながら渡した。彼女は色紙を受け取って、ちょっとそれを胸に押し当てて、それからもう一回お友だちと一緒に覗き込んで、その後キャーって二人で喜んでくれた。

パリは実は3回目で、初めて来たのが中学生の時で、貴重な家族旅行で、妹が初日から発熱して母親はそちらにかかりきりで、私は申し訳ないながらも一人で美術館を回っていた。18歳以下は入館料無料だから、入場列を尻目にあの巨大な美術館に潜り込めるのが楽しくてしょうがなかった。ルーブル、オルセー、ジャックマール=アンドレ、ギネ…後はなんか記憶が曖昧なんだけど。

その時から絵を描くのが好きで、街中にあれほど彫刻があるのも圧倒的で、どうしても「パリでスケッチ」っていうなんかよくわからないけど圧倒的にカッコよくておしゃれなそれをやってみたかった私は、その日泊まっていたアパルトマンの近くの広場でいよいよスケッチを開始した。

中国人の団体に声をかけられた以外は別に何事もなく、一枚目があまり気に入らなかったので大体全体の形取りを終わらせたところでスケッチブックの次のページに行こうとしたその時。いつの間にか噴水のそばでおばちゃんが小声で多分賛美歌を歌いながらそばに立っているのは知っていたけど、そのおばちゃんが突然フランス語で話しかけてきた。正直警戒心マックスでフランス語わかりません、っていうフレーズだけなんとか覚えていた私が一生懸命そういうと伝わったのか伝わってないのか、少なくとも意思疎通できてないことがわかったおばちゃんが「アングレ(英語)?」というので頷く。片言同士理解したところによると、なんと私の描いたその絵を買いたいと。

今なら「まじで!待ってもうちょっと仕上げるしマダム貴方のお名前は?」くらい余裕で言えると思うけれど、当然日本生まれ日本育ちの中学生が、しかも漫画家になりたいけどちょうど2作目投稿した少女漫画が再び選外B賞だった繊細なお年頃のマドモアゼルが、慣れない海外旅行で、一人ぼっちのパリの街角で、突然そんなことを言われてもスマートに対応できるわけもなく。いくらかと聞かれても自分の絵の価値なんて信じられなかった私は、これは練習で、私はまだ中学生で、だからこれは貴方にあげる、って言うのが精一杯だった。おばちゃんはMerciを繰り返して、この像はSaint-Michelだって教えてくれて、もう忘れちゃったけど彼の逸話を話してくれたんだと思う。それから賛美歌をもう一回歌って、私はどうしていいかわからなかったのでそれを一緒に聞いて、おばちゃんが帰った後、取るものとりあえずダッシュで宿に帰った。心臓バクバクだった。

後で親に話したら、折角言ってくれたんだから1ユーロでも貰えばよかったのに、って。そうか、私の絵でも1ユーロくらいならよかったのかって。お金で交換する価値について考えたことがなかった私は、もし今度があればきっと1ユーロ貰おうと心に決めて、春先パリでの特筆すべき思い出にそれを加えて、帰国した。

約10年後にパリでオフ会だー!なんて半ば無理やり当時も滞在していたタリンから今度は自分のお金でヒィヒィ言いつつ飛んできた私は、記憶通りメトロの駅からあのアパルトマン、それから例の広場まで歩いてこれたことに驚きながら写真を撮って、あまりの暑さに当然スケッチどころの話ではなく、40度近くの酷暑になったパリで友達とカクテルを飲んで、自分がすっかり大人になったことと、あの思い出にほとんど決着をつけたつもりだった。その後別段漫画で賞をとったりデビューしたり華々しいイベントはなかったけれど、高校から大学かけて編集の人に声をかけてもらって担当さんがついてくれたことがあって、そこで話していく中で私は漫画家になりたいわけじゃなくて、ただただ自分で好きに漫画を描きたいだけだなっていうのをよく理解していた。東京で同人活動に出会って、プロじゃなくても漫画を描いていいってこともわかっていて、今はこうして私の絵を好きだってイイねしてくれたり、時に漫画を1ユーロ以上の値段でも買ってくれる変な人たちが、あのおばちゃん以外にも広い世界には少数いたりするもんだっていうことを知っていた。

それから更に3年経って、幸い飽きもせず好き勝手に漫画を描き続けている私はだから多分、これがパリじゃなかったらわざわざ参加しなかったかもしれない。あの日の1ユーロの未回収債権は恐らくめでたく時効を迎えていて、私は同人活動以上に自分のイラストでお金をちょっぴりもらうということもありがたくも経験させてもらっていて、なんかもう、自分の絵に値段がつけられるということに対して不安も疑問も抱いてなかった。

なのに彼女が真っ赤な顔で、きっとすごく勇気を出して話しかけてくれた時、私はあの日、宿のトイレに飛び込んだ自分が心臓バクバクの上、顔が笑っちゃうくらい真っ赤っかだったことを突然思い出した。彼女が笑顔でThank youって言いながらそのまま走り出しそうになって、正直一瞬ためらった。実際リクエストを聞いてあげられたわけでもないし、なんかもうそれだけ喜んでくれたなら色々と十分だったし、たかだか5EURだし。言葉が出なかったので咄嗟に指先で彼女の手をちょいちょいと指差すと、お友達の方が気づいて何か叫んだ。そしたら彼女ははっとして今度はSorry Sorry!って何度も言いながら握りしめた5ユーロ札を渡してくれた。それで二人が笑いながらバイバイってしてくれたので、バイバイして、それでこの可愛いお客さんの話は全部おしまい。

2分待ってもらってスケッチブックに好きな絵を描いてあげればよかったし、なんならキーホルダーくらいあげてもよかったし、通訳してくれた子も実は首筋が真っ赤になってたことに最後の最後に気づいて、本当に彼女にも何かしてあげたかったし、とにかく色々色々と後悔があるんだけど、私は実に10年以上経って、相変わらずフランス語の一つもできないまま、やっとあの日の1ユーロを回収できたんだなって思った。そりゃ物価もあがりますよ。

全然見ず知らずのおばちゃんのツケを払わされたまだ小さい彼女はちょっとかわいそうだったかもしれないんだけど、でもあそこで折角握ってたお金を渡せなかったら彼女はラッキーって思うんじゃなくてきっと後悔したと思うし、よくわからん日本人から貰った絵より、自分で対価を払って手に入れた絵の方が後々気持ち悪くないと思うし。そのしわくちゃの5ユーロを私は大事にしまいこんで、とか別にそんなことはなくお釣りとかで多分渡しちゃってて、5ユーロでもっと素敵で効率的な買い物ができるようになるであろう彼女もきっと、数年後の大掃除の時にはあんな絵ぽいって捨ててしまうと思う。是非そんなふうに成長してほしいと思う。

私が勝手に色々考えて勝手に納得しただけの、とある小さなお客さんの話でした。

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