体育座り
先輩はいつも体育座りをしていた.
人より長くて細い手足を器用に折り曲げて,膝頭にあごを乗せて.
高校の演劇部のダメ出しを聞きながら,そのしなやかな生物をわたしはうっとりと見ていた.
あるとき,生物は言った.
「怒りは捨てた.怒りは何の得にもならない.」
感銘を受けたわたしは,ほえーと思ってしばらく実践した.
そのうち忘れた.
メロスほどではないが,わたしは激怒しやすい.
激怒までいかなくても胸の中で悪態をついていることが多い.
でもしなやかな生物と生物の言葉を今でもときどき思い出す.
ダンゴムシみたいになりながら膝頭にあごを乗せてみたりする.