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Thesis — Game Industry 3.0 (再掲)
ブロックチェーンを活用したゲームジャンルを「Web3 ゲーム」とここでは呼ぶことにする。
本論文では、過去1年半ほどでブロックチェーン界隈で起きた事象を、約30年間のデジタルゲーム史の変遷に照らし合わせることで、来たるゲーム産業の未来「Game Industry 3.0」にて何がおきるのか、を予想してみたい。
ゲーム産業の現状と課題
PC/コンソールゲーム:
F2P化 & Eスポーツ化 → ユーザーベース伸び悩み
最もハードコアなゲーマーが属するジャンル。年齢層は高め(30代+)
ハードウェアの要求ハードルは青天井であり、ハードウェアを用意するユーザー側も、開発側もハードルが高いため(一タイトル開発期間数年、費用数百億)そもそものリリースタイトルの少なさからか、ユーザー層が伸び悩んでいる。
結果として、開発企業の淘汰が大きく進み、AAAゲームスタジオのみが生き残った。
モバイルゲーム:
ソーシャル(パチンコ)ゲームの誕生 → 競技化の失敗
一人一台のゲーム機、といえば、コンソールを販売する企業からすれば眉唾ものだろう。
スマートフォンの普及とそのスペック向上、F2Pというビジネスモデルの登場により、上記は現実のものとなった。
最もカジュアルなゲーマーが属するジャンルであり、タッチパネルの視認性の低さや操作感の悪さにより、ハードコアゲーマーは敬遠するものが多い。若年層が多く、従来パチンコに通うようなユーザー層が、ソーシャルゲームに鞍替えした、というのが業界の通説である。
一方、ハードウェアの制約が大きいため、競技化が難しく、ゲームとしてのライフサイクルが短い。
結果として、多産多死が常套手段となっており、「とにかく本数をこなし、初動で回収」という、どこかで聞いたような特性の開発陣営が多い印象。
BCG:
Poor UI/UX pregame → Poor game design on browser
トークン、NFTという新たな「おもちゃ」が現れたことで、昨年突如として勃興した。
ゲームそのもののクオリティは90年代のブラウザゲーム以下のものが大半だが、トークンエコノミクスの実装により、ユーザー側の裁量が大いに拡大したことで、様々なメタ環境が生まれ、ゲーム外での所作(トレード、Bot開発、WL争奪戦など)や、SNSでのやり取りのほうが圧倒的に面白いという、本末転倒な状況が多く生まれた。
ゲームクオリティよりも、エコノミクスの真新しさが志向され、超短期の開発期間で、バンバン新規タイトルが並ぶため、パチンコ台的に移り変わりのババ抜きを楽しむ環境であった。
仮想通貨の冬が到来し、草も生えなくなった今、やっとユーザー・プロジェクト双方が、「面白いゲーム」という原点回帰を志向し始めている。
Gamefi:
Ponzinomics → User centred heavily on “Earn” but not “Fun” aspect
Axie InfinityやStepnなどに代表される「トークンによる外的動機づけを軸に設計されたゲーム」である。
その名にFiを冠することから分かる通り、金融領域との親和性が高く、その爆発的な投機性と普及力は「触れるな、キケン」と呼ぶに相応しい大相場を作り上げた。 これら先例の野心的な取り組みにより、ゲーム経済は国家経済に例えられるほど複雑化。
エコノミクスの重要性は然る事ながら、Web3ゲームにおいては「良いゲーマー(与えるもの)」と「悪いゲーマー(奪うもの)」が存在することが浮き彫りになった。
Fun Facts:
コロナ禍の影響もあってか、ゲーム産業全体としては安定的に拡大しており、中でもF2Pモデルによる売上がゲーム業界を席巻している。
これまでで最もDAUが多いWeb3ゲームのひとつであるSTEPNのDAU(Daily Active User)は、PCの1/20、Mobileの1/200程しかないが、22Q2に稼ぎ出した売上はあの「原神」の約1/3にものぼる。
ユーザー数の差異を鑑みると、Gamefiがかつて類を見ない程の収益力を兼ね備えていることが見て取れる。
Gaming industry revenue will reach $175.8 billion by the end of 2021.
Steam had 30,000 games to offer in 2019.
Available gaming stats indicate that there are 3.1 billion gamers across the globe.
Free-to-play games bring around 85% of the revenue for the industry.
One of the most successful game “STEPN” accrued 40K DAU & 700K MAU at the highest day/month (1/20 of a successful PC game or 1/200 of what a successful Mobile game accrue)
One of the most successful mobile game “Genshin” Average quarterly revenue is around $400M USD, while Stepn had $122M on 22Q2 (about 1/3)
ゲーム史まとめ
Game 1.0: コンソール/PC全盛期 (1990 ~ 2010)
MMORPGの誕生
競技ゲームの確立
「ソフトにハードが追いついた」時代
Game 2.0: モバイルゲーム全盛期 (2011 ~ 2020)
誰もの手のひらに一台ゲーム機(スマホ)
パチンコ層から「ガチャ」層への転換
「だれでもいつでもどこでもパチンコFlex」時代
Game 3.0: BCG/Gamefi Era (2021 ~ ???)
農業経営シミュレーションゲーム「Axie」
シンプルポンジゲームの乱立「The BSC Chain」
サンクコスト効果主導型習慣改善アプリ「Stepn」
共通点「外発的動機づけ(インセンティブ)による内発的動機の発見」
Thesis: 「Game industry 3.0」では何が起こるのか?
ゲーム開発環境の変化
1/ マネタイズモデルの変化
Game Industry 1.0(コンソール)は、マネタイズがシビアであった。
数年の開発期間を経て、フィジカルな流通経路を確保し、「定価且つ買い切り」で販売する。 如何に原価率の高いビジネスモデルか、一目瞭然だろう。自然と資金力とブランド力を賭けて企業淘汰が発生した。
Game Industry 2.0(モバイル)は、ソーシャルヒエラルキー構造(F2P vs P2W)を活用し、「Flex」や「射幸心」を根源価値としたDLC型のマネタイズ手法が確立された。
必要な流通経路はすべてPFにより整備されており、ゲームの出来とマーケティングリソースが主戦場のため、原価率は1.0よりも格段に抑えることが出来た。
また、商品価格に上限はなく、支払いたいだけ支払える課金構造のため、小さくローンチし、初動の売上が良ければ、実弾をどんどん打ち、更にユーザーを獲得することでFlex価値を訴求する、という戦略が流行った。
比較的低リソースでもメガヒットの可能性があるため、多くのソーシャルゲーム企業が誕生した。 しかし、これら手法も現在ではやり尽くされ、市場は勝者と敗者を明確に分けつつある。
Game Industry 3.0(ブロックチェーン)におけるマネタイズは、「場代」である。
ゲームをプレイするための初期費用や、バトルパス等サブスク型を導入することを否定しないが、アクティブユーザー数1/200のSTEPNが1/3の売上を実現したことから見て取れる通り、ゲーム内アイテムの売買手数料が最も大きな収入源となる。
そして、場代を最大化するためには、ユーザー間アクティビティの拡大、すなわち流動性の最大化が最重要な運営指標となるだろう。
2/ 計画型ゲーム経済管理の手法確立
まず、これまで何度も言ってきた話ではあるが、ゲームNFTは「通貨発行権」をユーザーに委ねる仕組みである。
そして、ブリーディングという機能は、その「通貨発行権」の発行権すら、ユーザーに委ねる仕組みである。
ユーザーは、多くの場合において個人の利益最大化が目的であるため、ゲーム経済圏全体のことを考えて行動してくれず、すべて委ねてしまうと結果としてハイパーインフレーションを引き起こすため、NFTの無制限な発行を許してはいけない。
実在する国家では、通貨発行権を保持するのは、中央銀行ただ一人である。
日々の発行量に制限があるとはいえ、だれもが通貨を発行出来るようになれば、その通貨の信用や価値がどうなるか、容易に想像出来るはずだ。
このため、計画経済型のゲーム通貨発行システムが必要となるだろう。
要は、ゲーム内に流入した資産 > 流出する資産である状態を常に保つ仕組みである。
このため通貨発行権は、永続的に付与してはならず、付与したとしてもいずれ取り上げなければならない。
次に、NFT/FTの価格について、ボラティリティを一定圏内に納める施策が必要となる。 通貨価格は、急速に上がりすぎても、下がりすぎても実経済にとって「害」があるのである。
よって通貨は「安定的」且つ「上昇傾向」であることがベストである。
ソーシャルゲームでは、みんなが課金してる=盛り上がってるゲームであったが、 Web3 ゲームでは、価格が上昇している=盛り上がってるゲームとしてユーザーに受け取られるのである。
すなわち、ゲーム内の様々な機能を駆使し、インフレ率をコントロールする施策を導入せねばならない。
このため、NFT発行量や、ブリーディングロジック、消費の仕組みなどはすべてダイナミックに変更できる柔軟性をもたせる必要がある。
最後に、私はゲーム外に持ち出せない通貨をベースレイヤーとして用意することを提案したい。
無限インフレ型トークンはあらゆる意味で持続性を持っておらず、換金の的になりやすいが、一方でユーザー数の急速な成長に対する受け皿を用意しなければ、投機の的となりゲーム性を毀損してしまう。
「インフレ率が計画されている発行量有限のトークンや、デフレトークンを同時に発行し、そちらを基軸通貨とする一方、ゲーム内のベース通貨はゲーム活動からのみ獲得できる」とすることで、一定程度投機性を薄めることが可能と考えている。
3/ リーンなゲーム開発手法の確立
おそらく読者の関心とは少し乖離する点であるが、インディゲーム開発コミュニティの醸成には触れておきたい。
ここでは、1 ~ 5人以内の開発チームをインディゲームと定義したい。 これまでこれら開発チームは、主に開発原資の抽出や、インディプレイヤー層へのリーチが課題であった。
SteamやApp storeのような流通プラットフォームは、それら開発コミュニティの維持・拡大に一定寄与しているが、一方で課題も多く存在する。
例えば、セールスランキングやDLランキングを基軸とした検索アルゴリズムや、非常に高い手数料(30%+)であり、昨年Steam上で販売された3万ものゲームの殆どが日の目を見ることなく電子の藻屑となっただろう。
Game Industry 3.0では、クラウドローン類似型(NFTプレセ、IDO、など)資金調達や、ミニマムフィーのプラットフォーム(DEX、Marketplace、Launchpad)の存在により、これらインディゲームプロジェクトがよりサスティナブルに開発する環境を用意できる可能性がある。
また、コミュニティのサポーター活用によるローカライズやカスタマーサポート、リクルート、マーケティングなど、メガヒットとはならずもコアなコミュニティを形成し、持続的にゲーム開発する土壌が出来ること期待している。
4/ オンチェーン vs オフチェーン
先駆者による数多の実験的取り組みにより、既にゲーム本体はオフチェーンであることが最適解、というコンセンサスが業界に生まれていると信じている。
オフチェーンであることはUI/UXの改善だけでなく、以下オンチェーンゲームの直面する課題を回避することが可能となり、本質的に意味のない以下のような問題を抱える手間が省ける。
Botterの存在(直コン、複垢、監視)
ハッキングリスクの増加
開発速度への影響(Audit リードタイム)
一方で、明らかにオンチェーン化すべき点が存在する。
それは、ユーザーのプレイ時間や、アチーブメント、戦績などだ。
なぜなら、冒頭でも記した通り、Web3におけるゲームユーザーは、明確にゲーム経済にとって「優良的」なユーザーと「害悪的」なユーザーに分かれるからだ。
運営側目線では、エコシステムに長く滞留し、継続して消費やソーシャルアクティビティをするユーザーを歓迎し、投機的であったり、経済圏外に資産を持ち出すのみに特化したユーザーを排除すべきだからだ。
また、それらプロフィールを活用し、On Chain化によるあらたなプロモーション体験を提供することも可能である
Txを軸としたベータテスト権のエアドロ(X2Y2ケース)
プレイ履歴に応じたWL獲得 (ロイヤルゲーマーの選出)
5/ インセンティブ経済を活用したFunの創出
トークンをゲームに導入したことにより、最も革新的であったのは、「人々がやりたくなかったコトをやらせることが可能に」なった点だと考えている。
そしてこの仕掛けは、多くの新たなユーザー体験をもたらす起爆剤となりうるものと考えている。
このことを「運営が奨励する行動への外発的動機づけ」と、「実行によるユーザー自身の内発的価値発見」と呼んでいる。
以下にて実例を見ていきたい。
農業経営シミュレーション「Axie」
AxieというゲームはスカラシップというYGGがあと付けで用意した機能が有名であるが、この機能は「ゲームをプレイしたくない人が、自らの代わりに他者にゲームをプレイさせるコト」に成功した。
この文面だけ見ると、全く本質的な価値があるように思えないが、実は副産物として「マネージャー」というゲーム内にありもしない役割を生み出したのである。
マネージャーとは、要するに地主であり、「スカラー」とは小作農家である。 この関係性が生まれたことで、Axie上に擬似的な農業用地経営シミュレーションゲームが誕生した。
もちろんこのゲームのプレイヤーはマネージャーであり、マネージャーを体験(内発的価値発見)する対価として、小作農家やゲーム本体に対し消費する結果となった。
Rizap式ヘルスケアアプリ「Stepn」
STEPNは本来歩く・走ることでゲーム内アイテムを育成するカジュアルRPGゲームとして始まった。
その中でSTEPNは、始めるからにはNFTを購入しなければならない、という制約を設けた。
これにより「歩くべきだと感じているが、面倒で歩く事を怠っていた層に対し、歩かせるコト」に成功した。
そして実際に歩いてみることで、健康習慣を身につける喜び(内発的価値発見)を感じ、急速な価格下落後も、習慣化のための消費として正当化することができた(人もいた)
ゲーミングギルドの役割の拡大
1/ NFT板取引マーケットプレイスの出現と、マーケットメイカーによるゲームアイテムの流動性提供
FTのマーケットメイカーは、証券に造詣が深い読者であればイメージがつくものだが、あえて説明し直すと、板取引における流動性提供者である。
ゲームアセット(NFT)は適切な板取引マケプレが存在しないことや、売買を促進する仕組みがゲーム側に欠如している、裁定参加者が少ない、などの理由から、現状非常に流動性が低く価格が十分に安定しづらい
ゲームを実際にプレイし、資産をプールしており、NFTの価値基準に一定の確信を持つゲーミングギルドのみが、NFTにおける板取引をマーケットメイクするに足るプレイヤーとなる。
2/ シームレスなユーザー間エコシステムの形成
Web3ゲームが、これまでのゲームと最も異なる点は、ユーザー間の双方向性である。
これまでユーザーは、主にゲーム内の仕組みを通して「交流する仕掛け」により交流してきた。勝つために必ずしも交流する必要はなく、ゲームの楽しみ方の一つとして存在していたのである。 そのため「一緒にプレイしたい」以上に他者に自分がプレイしているゲームを勧めるインセンティブはなかった。
一方で、Web3ゲームでは、人々はゲーム内で優位に立つために交流することが必須となる。 そもそものゲームを見つけるところから、仕手相場を仕掛けたり、数の暴力でWLを奪取したり、攻略情報を身内で共有する、資産を集め共同で競り落とす、など、徒党を組まなければ、Web3の総合バトルロワイヤル環境で生き残ることは至難である。
そして、ユーザー層の拡大こそがゲーム経済の寿命を延ばし、既存ユーザー自らの保有するNFT/FTの資産価値を高める性質から、既存ユーザーは新規ユーザー獲得に善意的である。
その最たる例がゲーミングギルドとなると筆者は考えている。 彼らは現状のUI/UXの障害点や初期投資的なハードルを運営に代わり説明し、新規ユーザーをOnboardingしてくれる、Web3ゲームには欠かせない存在へと転換していく。
3/ ゲーム外部のソーシャルコミュニケーション
また、ゲーミングギルド内での構造も更に変化していくことが予見される。 それは以下のような相互関連性と利害関係がコミュニティ内部に包括され、ギルド内における経済活動が広がることになる。
攻略班 <> ツール提供者 <> 一般ユーザー
配信プラットフォーム <> 配信者 <> 視聴者
大会開催者 <> プロプレイヤー <> サポーター
モバイルゲームが最も苦労している「競技性」が、上記でふれたような熾烈な競争環境により保持されるため、モバイルの乏しいUI/UXでも十分に視聴コンテンツとして成り立つと考えている。
ギルド運営側は、強固なコミュニティの形成が必要であることからも、コミュニティコンテンツを必要としており、スター配信者や、プロプレイヤーの育成などのマネージメントをも包括する組織へと成長するであろう。
4/ Eスポーツ大会経済圏の確立
Eスポーツが、サッカーや野球と同格のスポーツへと昇華できない現状最大の技術的障害点は、UGCでの大会企画・実施が容易にできるプラットフォームが存在しないせいだと考えている。
勿論IP元やパブリッシャー側が厳正に制限しているケースも多いが、トラストレスにオンラインで(草野球ならぬ)草ゲーム大会を実施し、視聴者による協賛や、プレイヤー参加費などを募り、報奨としてゲーム内資産を獲得する、等の活動を実施するための土壌が単純に存在しない。
これまでの話の流れを踏まえると、ゲーム側と結合し、オンチェーン化・スマコン化による運営手数料の健全化や、トラストレス化を担うレイヤーは遅かれ早かれ出現することになるだろう。
ゲーミングギルドから出現する可能性もあるが、全くの第三者がこのレイヤーを担う可能性も否定しない。 また、プラットフォームの確立後は、スポーツベッティングなども盛んになることが想定される。
5/ ゲーム運営陣とギルドの協業
このように、これまでのゲーム産業における様々な楽しみ方(攻略、交流、配信・視聴、競技・応援)を包括し、一つの組織に昇華したものが「ゲーミングギルド」となり、ゲーム開発・運営陣は本当の意味でギルドとのパートナーシップが求められることになるであろう。
どこのゲーミングギルドが参加しているか、がゲームエコシステムの発展に大きく影響するようになる可能性すらあるかもしれない。