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自分の中のタイムマシン

いのうえのぞみx福島裕二写真展 - I/F Y/N- パート3

二人の本気と本気がぶつかり続けて生まれた究極の2冊の写真集 I/F と Y/N。
その作品が撮影時期順に4つのパートに分けて、北村写真機店で展示されている。二人の写真にじっくり向き合うことができる幸せな夏。

そしてパート3は、いのうえのぞみが魅せる様々な姿で構成した「一人十色」。

「一人十色」は2021年3月にAtelierYでの展示のタイトル。たった1日の中での彼女の変化に衝撃を受けたことは今でも忘れられない。パート3では「一人十色」を撮影時期を広げて再構成し、新たな魅力が詰まった展示になっている。

初めて見る人にとっては、いのうえを10代20代30代で撮った写真で構成されているように見えるかもしれない。しかし、展示のブックレットを手に取って確認してみると、2019年の8月から2020年の9月までの写真であることに驚くのではないだろうか。約1年の中でなぜこんなに様々な面がと。

内にある、記憶に刻まれた存在としての自分

2020年2月のライブシュート。2人が世界に入る時、一瞬で一気に深いところまで潜る。さっきまで話をしていた彼女とはまったく別の人がそこに浮かび上がる。福島のシャッターに応えるように、いのうえの感情がよりリアルで複雑なものになっていく。

純粋な眼差しににハッとした後、確信と不安、求めるが手に入らない激情、矛盾する感情の中で揺れ動き、戸惑い、挑む。自身の人生の波の中で経験した感覚だけでなく、旅するいのうえは、旅で出会った人の記憶も表現ににじむのではないか。

「20年の思い」という、いのうえの言葉。彼女の中にあるその時その時に感じた思いとその時の自分。福島との撮影の中で、まるでタイムマシンにのって過去の自分や、パラレルワールドにいる自分に会いにいくように、別の層にいるいのうえが目の前に現れる。

人は複雑だから美しい

福島セレクトのモノクロ作品集『I/F』は、世界に通じる普遍的な「女性の美」が詰め込まれている。いのうえのことや福島のことを全く知らない人が見ても、女性の複雑だからこその美しさに惹き込まれるのではないだろうか。
タイトルの『I/F』には、いのうえ/福島の頭文字の他に、複数の意味が込められている。その中の1つにinterfaceがある。内側の顔に触れるというような意味もあるかもと勝手に想像する。

福島の見つめる力の深さと、いのうえのモデルとしての凄さが詰まった写真集。会場にあるので、見ると欲しくなってしまうかもしれない。今回の展示の中に、この写真集の最初の写真がある。手に取って会場の中に探してほしい。

自分を解放する

パート1ではいのうえの瞳に引き込まれたが、パート3ではそれに加えて、肩から腕、指先へのラインの美しさが印象に残った。ラインの美しさと、瞳の中に込められた感情を読もうとして、どこまで深いんだろうと、白い椅子に座りながら考える。この先の未来、10年先、20年先のいのうえも見たくなってくる。

最後の写真は次への入り口。ラストの写真は海岸でふりかえるいのうえ。ここまでをふりかえり、次に進む彼女。
パート4、最後の展示もどんな展示になるのか、楽しみだ。

いのうえと福島が作り上げたポートレイトの高みと向き合う時間。

新宿 北村写真機店 6F イベントスペース 10時~21時
パート3:7月25日~ 8月7日
パート4:8月8日~8月21日

*トップの写真は、写真集プロジェクトのクラウドファンディングの撮影会から。撮る機会をいただき、感謝しています。

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