
200年の伝統をミライへつなぐ―棚倉秋まつりで見えた地域活性化のヒント
こんにちは、NTT東日本 地域循環型ミライ研究所の宇野です。プロジェクトマネジメント業務の傍らダブルワークとして研究所に所属し、地域の活性化を目指して地域内外の人をつなぐ取り組みを行っています。
2024年秋、福島県棚倉町で200年以上の歴史を持つ「棚倉秋まつり」に参加し、地域外の人として地域の方々と交流する機会に恵まれました。この体験から感じた地域文化の魅力や地域活性化のヒントについて、皆さんにご紹介します。
棚倉秋まつりとは?
棚倉町は福島県南部に位置する自然豊かな町。毎年秋に開催される「棚倉秋まつり」は町の象徴の1つでもある伝統行事です。江戸時代、棚倉藩主の内藤信照が領民と共に「宇迦神社」で五穀豊穣を祈り、毎年10月に盛大な秋の例大祭を開催したのが祭りの始まりと伝えられています。

宇迦神社での神事に始まり、歴史ある屋台が町中を巡り、地域の人々が一体となって盛り上がるこの祭りは、200年という時を超え地元住民に愛され続けています。
地域交流の概要
今回の活動は福島県ふくしまぐらし推進課の関係人口施策とコラボレーションし、棚倉町の住民有志で結成される「祭事 新町組」の皆様にご協力をいただいて開催することができました。
秋まつり準備のお手伝い、当日の運営サポート、祭り後の対話会まで、新町組の皆さんの輪に入りながら地域と関わることで、秋まつりの文化や地域への理解を深め、地域外の視点を活かして新しい可能性を見つけることが目的です。
活動レポート
1. 祭りの準備:地域の力はどのようにして成り立っているのか
祭りの準備では、歴史ある屋台を町に曳き出し、1年分の埃を払い、華やかな飾り付けを施しました。作業中、新町組の方々が和気あいあいと阿吽の呼吸で作業を進める姿が印象的でした。
対話を通じて、新町組は1期3年、3期(=9年)が標準の在任期間であり、20代後半〜40代のメンバーが仕事や家庭と両立しながら地域活性化の活動を行っていると教えていただきました。年間を通じて様々な伝統行事があり、近年は地域の花見山(赤館山)を保全する目的で「特定非営利活動法人花見山赤館を創る会」を起こすなど、精力的に活動をしています。
新町組には棚倉町出身者だけでなく、転入者も参画しており「棚倉町で暮らすなら、活動を通じて顔見知りが増えるメリットもあるんだ」と教えていただきました。脈々と続く文化継承の仕組みを教えていただき、地域の奥深さを実感しました。
2. 祭り当日の活気:世代を超えたつながり
祭り当日、町は大勢の参加者で賑わい、活気にあふれていました。
宇迦神社では中学生が巫女として「浦安の舞」を奉納します。この舞は高校生から中学生へ、代々受け継いでいるのだそうです。

大屋台興業が始まると、町は一気に活気づきます。新町組が見守る中で10代~20代の若者たちが屋台を曳き、掛け声を揃えて町内を練り歩きます。小学生がお囃子担当として笛や太鼓の生演奏を披露し、沿道ではおじいさん・おばあさんが椅子を出してゆったりと談笑します。
地域全体が家族のように祭りを楽しみ、支え合う様子にどこか懐かしさを感じました。また、小さな子供たちが大人に混じって楽しむ姿も微笑ましく、世代を超えた絆を感じる瞬間でした。

祭りは2日間にわたって開催され、千秋楽は参加者の笑顔と運営者の達成感が溢れます。我々も微力ながら運営をお手伝いし、多くの笑顔と活気に触れて元気を持ち帰りました。
3. 対話会で見えた地域の知恵
祭りを終えて1ヶ月ほど経過した頃、新町組の方々との振り返りを目的とした対話会を実施しました。対話会では、祭りの記録映像や写真を見ることで視点を合わせ、ミライの祭りに向けて変えたいこと・変えたくないことを話し合いました。その中で出た意見には、地域を支える知恵や秘訣について多くの学びがありました。

若者を無理に集めたりせずとも、自然と友達を呼んでくる
子供心に憧れた祭りの世話方のように、今は自分も振る舞っている
以前は男性のみが屋台を引いていたが、数年前からひとりでに女性も参加するようになった
時代に合った変化は必要なので、拒まないよう気を付けている
子が上京する際も、『秋まつりには帰っておいで』と言って送り出した
さらに、地域外の人との協働や祭りのミライ像についても、以下のような声がありました。
脈々と伝承してきた運営は新町組にとっては当たり前だったが、改めて説明する機会に直面したことで目的や意味を考えるきっかけになった
運営者の「地域への想い」を理解できる人にサポートしてもらいたい
単発の交流だけでなく、継続的な関係を希望する
ミライに向けて変えたいのは財政難の現状や運営サイドの人手不足
ミライに向けて変えないのは心意気
これらの意見は、地域のミライを考える上で非常に示唆に富むものでした。
また、地域循環型ミライ研究所初の試みとして、対話会ではグラフィックレコーディングも活用し、対話会の雰囲気や意見を可視化・記録しました。

NTT東日本の参加者へ実施したアンケートでは、「祭りの運営に参加した人」の方が「祭りの視察のみ参加した人」と比較して地域への関心や理解、接点を持ち続ける意向が高い結果となり、地域交流が観光とは異なる心情の変化をもたらす可能性を示唆しました。
地域活性化のヒントと学び
棚倉秋まつりを通じて、伝統を守りながらも時代に合わせて変化することの重要性を学びました。また、今回は「写真や映像」というツールを活用したことで言葉以外でも外部の視点を共有することができ、地域を見つめる時間が生まれ、地域内外の協働による相乗効果を実感しました。
特に印象的だったのは、「来るものを拒まない」地域の柔軟な姿勢。こうした考え方が、200年の伝統をミライへつなぐ力となっているのでしょう。
おわりに
今回の活動を通じて、地域の文化や人々の温かさを深く感じることができました。各地域に根付く文化や伝統に着目した地域交流は、地域循環型社会を目指す上で欠かせない取り組みです。このような活動への参加は、地域外の人にとっても新しい視点を得るきっかけになります。皆さんもぜひ一歩を踏み出し、地域の魅力を発見してみてはいかがでしょうか?
地域循環型ミライ研究所では地域の伝統とミライをつなぐ活動を通じて、新たな可能性を広げていきます。棚倉町での経験を糧に、さらに多くの地域とのつながりを築いていきたいと思います。
Credit
写真撮影:NTT東日本 坂内 歩美
動画撮影・編集:NTT東日本-東北 福島支店
グラフィックレコーディング:NTTテレコン 本園 大介