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もう何も恐くない

昨年10月マッチングアプリに登録した。
理由はお世話になった人に花嫁姿を見せるため。

昨年7月にシングルマザーだった妹が、彼氏と結婚式を挙げた。
妹はちゃらんぽらんだし、決して美人ではないが男が切れたことがない。男に影響されるタイプのメンヘラ女。はっきり言って男を見る目がない。前の旦那もクズでどう仕様もなく未だに養育費も払わない。
そんな妹が最後(になるかどうかはわからんが)に選んだ相手が、私より一回りも上の奥さんに浮気されバツイチになった男。見た目は歴代の男とは違う、安心感のあるタイプ。妹の子供の面倒も、妹含めよく見てくれる。今はちゃらんぽらんな妹に代わり、仕事をしながらも家事育児に精を出している。男を見る目がない妹が選んだ、それ以上に女を見る目がない男。イヤなホコタテである。妹と子供を支えてきた、私たち親子に代わる人身御供とも言える。

話が逸れた。
前の旦那とはできちゃった婚であり、また金銭的にも余裕がなかったため叶わなかったが、今回は借金をしてまで挙げた見栄張り結婚式。
私は未婚なので振袖を希望したが、やんわりとしかし確かな意思を持って妹のプランナーに止められ訪問着となった。

その妹の結婚式の写真を見た恩人がぽろりと零した。

「私が見たいのは訪問着ではなく、ウェディングドレスを着たあなた」

自分自身はおろか、身内でさえも諦め口にしなかった私の結婚をまだ望む人がいる。それがなんとなく心に引っかかった。

私と似ているが故、不仲な父は昭和気質で母の苦労を35年間目の当たりにしてきた。妹の1度目の結婚の失敗もある。身内の男たちは皆、女性に立てられることを前提の浅はかで横暴を体現した者ばかり。社会に出れば、そんな男たちがゴロゴロいる。

結婚に全く魅力を感じない。
そんな男に媚び諂い、生きていくくらいなら一人でも構わない。

類友とはよく言ったもので。幸い、変わり者ばかりの友人たちも20代で足掻いたうえにそう悟ったのか結婚ラッシュも落ち着いていた。

この友人らと、今流行りの「多様性」を隠れ蓑に生きていくのも悪くない。なに、今は少子化に警鐘を鳴らしつつ行政も「おひとりさま」向けのシステムを構築し始めている。老後にはもう少し独身が生きやすい世界になっているはず。

そうと決まれば気ままな派遣社員を辞め、7月には小さな会社の正社員へと転職。実家暮らしに甘え、ろくに貯金もなかったが資産運用を始めた。さらなる飛躍を求めて資格取得に努めた。

未来は明るい。
これは前向きな撤退だ。

生活に少しずつゆとりができると、心にも余裕が生まれる。そこへ、あの恩人の一言。

「私が見たいのは訪問着ではなく、ウェディングドレスを着たあなた」

私は今まで婚活というものをしてこなかった。結婚に魅力を感じないし、まして趣味の追っかけが忙しかった。
正社員になり、忙しくなると急速に趣味への興味が薄れ、ひたすら仕事をこなし、資産運用で増える数字を眺めるだけの毎日。

刺激が欲しくなった。

ついでに恩人の望みを叶える。

婚活はその2つを満たす最高の暇つぶしだ。
メンタルに影響を与えるほど必死にならない。
嫌ならすぐ辞めればいい。
この先も友人らと楽しく過ごすために、淡々と老後に備える元の生活に戻れる。

「他人の願いを叶えるなら尚のこと自分の気持ちを はっきりさせなくちゃ… 美樹さん、あなたは彼に夢を叶えて欲しいの? それとも、彼の願いを叶えた恩人になりたいの?」

私の夢も恩人の夢も同じであれば問題ない。これにはマミさんもにっこりだろう。

かくして、10月。
私はキュゥべえと契約(マッチングアプリに登録)したのであった。

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