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アリアドネの糸

死ぬまでに食べたい料理の話で、岡山のお茶漬け話を彼にした。
そうしたら先日いきなり「その話が忘れられない」と連絡がきて、日曜日にも会うのに今日お茶漬けを食べることになった。正直、旅行の支度もしたいし1日中寝ているつもりだった。けれど、そんな自分を奮い立たせそのデートに応じた。
彼は銀座の鯛茶漬けを希望していたが、私は会食恐怖症を発症すると困るので新宿のチェーン店にセッティングした。

当日、1時間前にLINEしたが返信がない。
イヤな予感がする。

案の定、彼は30分遅刻してきた。
すみません、と軽く謝って。

正直もう帰りたかった。この人は優しいし、一定の基準を許せる位置にいる。しかし、毎度遅刻してくるのはなんなのだ。立地は彼のほうが近い。自分が大切にされていないと毎回一人で待たされている間に思い知らされる。

笑顔で許す。

売れ残りはこんなことで怒ってはいけないのだ。
でも会話の中で「婚活のモチベーション」の話になり、低下は否めないがアプリは続けるそうだ。その話を私にして何になるのだろう。

付き合ったら、結婚したら、たらればの話でも引っかかる点が出てくる。この人が考えていることがわからない。

「毎日まめにご連絡頂き、ありがとうございます」
「そうしないとフェードアウトされちゃいそうで」

それは間違いないです、と笑った。この人の中では努力しないと、私が何かのきっかけでフェードアウトしかねない危うい存在ではあるわけだ。なのに遅刻はする、アプリは続ける。なんだ、キープか。それはお互い様。
だから、何度も同じ話をするのだ。誰に何を話したかも忘れる。

「私はモチベーションが下がってますし、アプリは辞めようと思います」
「きっと、たらみさんならすぐ見つかりますよ」

それは自分以外の、ということだろうか。

彼のあくびがひどいので「お疲れですか?とても眠そうですし、そろそろお開きにしましょう。日曜日もお会いしますし!」ともっともらしい理由をつけ、バレンタインチョコレートを手渡し解散した。色々このあとのプランを考えてはいたが、これで良かったのだ。

「最近不眠で夕べも3時に寝てしまって」

1つだけ空いた席を譲り、素直に座った彼がなんだか言い訳をしていたので、とても心配そうな顔で同情しておく。心の中では心底どうでも良かった。

もうやめよう。

私に結婚は難しかった。

駆け引きなんかしたくない。好きなら付き合う、脈がないならもう会うことを辞めたい。大事にされないなら結婚なんて意味がない。ずっとずっと私が私を大事にして一人で生きていく。

ホワイトデーのお返しなんかいらない。欲しいのはもっと別のもの。

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