どっちつかずのせい①
黒色
今は冬。未だ花弁が姿を見せぬ季節。
白と黒を基調とした部屋にいる。目を移せば、明滅を錯覚する配色だ。
外は小雨が降っており、窓を眺めると部屋が透過しているように反射している。僕はそれを眺めていた。
「クオンはどちらの性が良い?」
肩まで伸びた髪をなぞりながら、その子は問う。この子はリツ。最近のトレンドは性であるようで、よく質問をしてくる。僕の周りで一番前向きなのかもしれない。
「性は勝手に決まるものだよ。考えるより、どちらにも備えるほうが現実的だ。」
朴訥に返す。リツは不満に満足したようだった。続けて、僕の隣にいるカイネにも同じ旨の質問をしたが、こちらも同様らしかった。それもそのはずで、僕とカイネは双子である。似ていないというほうが似気無い。三度目の矛先は読書中のリンへ向いた。リンは眼鏡の位置を直しつつ、答えていた。内容は聞き取れなかったが、リツの表情を見るに、収穫なしだろう。
「3人とも関心がなさすぎるよ。今が一番多感なはずなのにね!!」
語尾を強調して言い放ち、その場を去る。雨の日特有の湿気が幅を利かせていた。
次の日もリツが狂言廻しをしており、話題は生物学的な性についてらしかった。
「私たちはまだ性が決まっていません。これから先、男性にも女性にもなる可能性があります。なら、中性ではなく両性が相応しいのではないか!」
面持ちを見るに、雄弁な雰囲気を押し出しているようだ。さながら演説のように。しかし、随所で甲高い声が露わになり様になっていないと、僕は感じる。
沈黙を破ったのはカイネだった。
「一理あると思うよ。けれど両性類などがすでにあるから、混乱するよね。あとは気持ちの問題だけど、両性を呼ばれると自分がカエルとかと同類のように感じる人もいるだろうね。」
曖昧模糊の権化のようなカイネが今回は割とはっきりしているのが驚きだった。同じような疑問についてすでに熟考していたのは間違いない。でもなぜそれについて考えていたのだろう。単なる探求心?それとも、僕が知らないカイネは多感なのか?脳が散乱してきたところで、本に目を落としたままのリンも返事をしたようだった。
「自他を何かに喩えることはあるけど、無条件で両生類はいただけない。」
今日は僕だけが発言をしていない。焦る。特にカイネに虚を突かれた。
逃げることを自覚して、その場を去る。
12~18歳の間に子供は性別が決まる。それまでは中性と分類され、身体の構造としては中性器が存在する。それが一晩で決まった性別の性器に変わり、それに伴いホルモンなども寄っていくこととなる。人間は生まれてから性別が決まるまで施設ーー性的な影響が極度に少ない環境下ーーで過ごす。
基本情報はもちろん知っている。だが施設で育てられることは、性との乖離だ。性別が定まった人間が作った法則。考えさせないようにしておいて、考えろだなんて矛盾している。矛盾を孕んだ思考はしたくない。気づけば汗が頬を伝って机に滴っている。集中が途切れたタイミングでカイネが部屋に戻ってきた。
「一人で先に帰ってしまわないでよ。リツが興奮して、ブレーキが故障しちゃってたから質問を捌くのが大変だったんだ。」
汗が異常なことは一目でわかるが、カイネは指摘してこなかった。いつもは心地良い気遣いも今日ばかりはおぞましさを覚える。僕から決して見えない位置になにかがある、そんな不安感。また汗が垂れる。この汗は過集中と緊張と嫌悪感によるものだ、と言い聞かせる。だが、暖かくなっているのは認めなければならないとも思う、春が近づいている。