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【書評】カフカ『変身』を読む。変身したのは主人公だけじゃない。

ロッシーです。

カフカの『変身』を読みました。

上記の文庫で約100ページくらいの分量だったので、すんなりと読めましたし、内容も他の長編作品とは異なり、非常に分かりやすい内容でした。

しかし、その内容はこれまで読んだ『城』『訴訟』よりも、非常に鋭くかつ重いものであり、色々と考えさせられました。

役に立たない存在

この小説は、主人公の グレゴール・ザムザがある日突然巨大な虫になってしまうわけですが、この虫というのは何なのか?

人それぞれ解釈がありますが、私は、虫は「役に立たない存在」の象徴だと思いました。

グレゴールは、それまでは家族の暮らしを支えるために一生懸命働いていました。

嫌な仕事であっても、貧しい家族のために我慢している描写などは、同じサラリーマンとして非常に共感を覚えました。

そんなグレゴールは、家族にとっては「役に立つ存在」だったわけです。

しかし、ある日虫に姿が変わったため、彼は一気に「役に立たない存在」になってしまいます。

その結果、食事の世話をする妹を別として、家族は彼を避けるようになります。

そして、時間が経つにつれ、徐々に家族全員がグレゴールの存在を邪魔だと思うようになり、最終的には、グレゴールが死ぬことで、家族は悲しむどころか、解放されることになるのです。

「なんてひどい家族だ!」

とも思いましたが、でも、これはある意味凄いリアルだなとも思いました。

家族の絆って何?

私達は、「家族の絆が大切だ」と思っています。

そして、その絆はあらゆる人間関係の中で最も頑強なものだと思っています。

しかし、本当にそうなのでしょうか?

例えば、自分の家族が重病や障害を抱え、一生何から何まで面倒を見なければならなくなったらどうでしょうか?

親が高齢になり、重度の介護が必要になったらどうでしょうか?

子供が引きこもり、ずっとその世話をしなければならなくなったら?

認知症になった親の面倒を見なければならなくなったら?

「大丈夫だよ。家族なんだから寄り添い続けるよ。」

と言えるのでしょうか?

「役立つ存在」という条件付き

「家族の構成メンバーは、家族というシステムにとって役に立つ存在でなければならない」

もしかすると、誰だってそういう風に少しは思っている可能性があります。

「いや、私はそんなことは一切思っていない。家族なんだから、役に立つ存在という条件付きではない。」

という人もいるでしょう。

でも、あなたの家族ではなく、あなた自身が「役に立たない存在」になったら・・・と想像してみてください。

例えば自分が回復の見込みがない重病や障害を抱え、家族にとって物凄く負担となる(精神的にも金銭的にも)存在になったと想像してみてください。

そう、まさにグレゴールと同じ状態です。

あなたのおかげで、家族は日々休まることもなく働きずくめ。

家計はボロボロで、子供には満足な暮らしをさせることはできない。

しかもこの状況は、あなたが存在する限りずっと続くとしたらどうでしょう?

「家族なんだから役に立たなくたっていいんだ。」

と本当に思えるでしょうか。

グレゴールの妹のセリフ

グレゴールの妹は、最後のほうで、家族に対して以下のような趣旨のセリフを吐きます。

「このへんな生き物を兄さんなんて呼ばない。もう縁切りにしなくちゃ。人間として出来ることはしてきた。面倒をみて我慢したわ。誰にも非難されるいわれはないわ。もしこれがグレーゴルなら、人間と一緒に住めないことにとっくに気がついているし、家族に対して思いやり深くあるのなら、自分から出て行っているはずよ!」

とうとう、グレゴール対して一番優しかった妹ですら、このようになってしまったのです。

その後、グレゴールは死にます。

この妹のセリフをひどいと思うでしょうか?

「そう言いたくなる気持ちも分かる」と思うのでしょうか?

そこは人によって考えが異なるでしょう。

でも、いずれにしても、この妹のセリフには、非常に何かリアルな部分があるとは思いませんか?

結局「変身」とは?

この本のタイトルは「変身」です。

この「変身」は、普通に考えれば、グレゴール・ザムザが虫に変わったことを指しているのだと思うでしょう。

しかし、それだけではないと私は思うのです。

グレゴールが虫に変わったことで、彼の家族もまた「変身してしまった」のではないでしょうか。

そして、その変身を私達は否定できるでしょうか?

家族もひとつの人間関係

家族であっても、突き詰めれば一つの人間関係である以上、そこには「役に立つ存在」であることが求められているのかもしれません。

普段は、「家族の絆」というベールによってそういうものを私達は見なくても済みます。

しかし、そのベールが剥がれ落ちたときに見える人間関係のリアルさについて、この『変身』という小説は、私達に否応なく突き付けてくるように思います。

【蛇足】カフカを読む順番

以下は蛇足です。

私は、これまでカフカ作品を

①『城』

②『訴訟』

③『変身』

という順番で読んできましたが、これは一番やってはいけないコース取りだったと今では思います。

この逆のほうが、カフカに挑戦する人にとっては読みやすいと思います。

というのも、「ページ数」と「内容の分かりにくさ」は、それぞれ以下のようになるからです。

①『城』⇒ページ数☆☆☆ 内容の分かりにくさ☆☆☆

②『訴訟』⇒ページ数☆☆ 内容の分かりにくさ☆☆

③『変身』⇒ページ数☆ 内容の分かりにくさ☆

だから、③⇒②⇒①という順番で読むほうが良いです。

私はそれを真逆にやってしまったので、非常にしんどかったわけです。

ぜひ、これからカフカを読もうとする人はご参考にしていただければと思います。

Thank you for reading !


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