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【書評】コンラッド『闇の奥』②

ロッシーです。

コンラッドの小説『闇の奥』について前回記事を書きましたが、まだまだ素人目線で色々と書いていきたいと思います。

今回は、この小説の舞台となったコンゴの歴史について書きます。

コンゴの歴史

『闇の奥』の歴史的背景を無視して読んでもこの小説の面白さは色褪せませんが、それはそれでちょっと危険かもしれません(理由は後述します)。

そもそも、『闇の奥』には、「コンゴ」や「ベルギー」などの具体的な地名・国名は出てきません。

しかし、コンラッド自身がコンゴに行った経験に基づいてこの小説を書いていることを考えれば、それとは無関係であるというわけにもいかないでしょう。

その前提に立つと、この小説の舞台は、19世紀後半頃の中央アフリカのコンゴ河です。ヨーロッパ列強によりアフリカ分割争奪が行われていた時代です。

当時その地域は、ベルギー国王レオポルド2世の植民地(実質は私有地)になっていました。その広さは、ベルギー本国の約80倍以上あったそうです。

コンゴ河流域に「レオポルドヴィル」という地名があるのはまさに国王の名前からとったものでしょう。(※クルツがいたと思われる奥地出張所は「スタンリーヴィル」という地名です。これはコンゴ河流域を発見したヘンリー・モートン・スタンリーにちなんだものでしょう)

レオポルド2世は、「文明化という光をもたらすため」という建前のもと、コンゴの開発にいそしみました。まあいわゆる偽善ですね。

本音は、先住民たちに過酷な奴隷労働を強制し、ゴムや象牙などの資源を採取して莫大な利益を上げることでした。ベルギーは、他の列強よりも植民地の開拓に後れを取っていたので、コンゴは貴重な存在だったわけです。

そもそも、なぜゴムがそんなに儲かるようになったのか?

それは、スコットランド人獣医師で発明家のジョン・ボイド・ダンロップによるタイヤの発明がきっかけです。

当初は自転車に使っていた空気入りゴムタイヤですが、普及を始めていた自動車にも使用されるようになりました。その結果、ゴムに対する需要は飛躍的に増大したのです。

そして、なんとコンゴはゴムの産出に適していたのです。レオポルド2世にとっては幸運、現地の先住民にとっては悪夢の始まりです。そうして、苛烈な収奪が始まったのです。

もちろん、国王が自ら開拓するわけではありません。儲け話に乗った民間の会社に委託するわけです。小説でマーロウが船長として仕事をするのも、そういった民間会社です。国王は、その民間会社から収益の上前をはねるわけです。

先住民の黒人達に奴隷労働させるので人件費はタダ。そしてゴムの需要は増大。レオポルド2世は儲かって笑いが止まらなかったでしょう。

このようにして、コンゴ河流域の住民に奴隷労働をさせてゴムや象牙などの富を収奪しまくっていたわけですが、当然先住民だって抵抗します。

しかし、抵抗する者は当然暴力で鎮圧します、コンゴには軍隊も駐屯していました。また、同じ黒人に奴隷労働の管理をさせたりしていたわけです。よくある統治方法ですね。

このような容赦のない搾取の結果、先住民の大量虐殺がなされ、その数は数百万人規模であったとのこと。まさに植民地主義、帝国主義の典型みたいな所業をしていたわけです。

さて、本当にざっくりではありますが、当時のコンゴの歴史的背景について書きました。

歴史を知る意義

チニュア・アチェベ氏というナイジェリアの小説家は、1975年に

「あるアフリカのイメージ: コンラッドの『闇の奥』にみる人種差別主義」

という講演を行い、コンラッドを "a bloody racist" と一刀両断しました。

確かに、列強各国がアフリカに加えた過酷な収奪の歴史を鑑みれば、アフリカ側の視点に立って『闇の奥』という小説を見た場合、人種差別主義をそこに見出すのは当然といえば当然です。

「当時は帝国主義だったんだからそれが当然であり、現在の常識から過去を断罪してはならない」

という反対意見もあるかもしれません。

ただ、現在でもそのようなアフリカからの収奪が無くなっていないのだとすれば、果たしてそのような意見が妥当なのかどうかは疑問は残ります。

そのあたりの議論は今後もなくならないとは思います。

アフリカから収奪したヨーロッパ列強は、自分達の過去の行為を正当化するためにあらゆる理論武装をするでしょう。それは、アフリカだけが特別ではありません。我が国だって同じような問題が残っていることは自明の事実ですし、いまのところどの国もそのような問題を解決する方法を持っていません。

私も、そのような論点については立ち入る気はありません。

ただ、『闇の奥』という小説を読む際には、そういう歴史的背景があることを踏まえておいたほうが良いとは思います。

アフリカの人に、「私は『闇の奥』が愛読書なんです」と言う機会があるかどうかは分かりませんが、歴史的背景を知らないでそういう不用意な発言をするのは結構リスキーですからね。


ということで、今回は『闇の奥』の歴史的背景をざっくり書いてみました。小説の具体的な内容についてはまた別の機会に。

Thank you for reading !


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