【短編小説】「Ark」 (1~5/22)
あなたは、人が二人、目の前で死ぬという経験をしたことがありますか?
そんな、一生に一度もないであろう経験を、私はしたのです。ーーー
Ark #1
箱庭の中は、幸せでした
私は、初めて愛し愛されるということを知りました
方舟の中は、幸せでした
どこまでも、どこまでも行けるような気がしていました
永遠さえ手に入れることができるような
けれどそれは錯覚でした
方舟が壊れてしまったのは
外圧のせいでしょうか?
それとも、私の
驕れる無能さ故でしょうか?
Ark #2
確かに僕は彼女を愛していた
永遠さえ願った
けれども、怖かったんだ
彼女が泣くのを見る度に怯えた
このままでは彼女を壊してしまう気がして
彼女を幸せにしてあげられない気がして
僕は、怖かったんだ
愛する人が 幸せになれないかもしれない、ということが。
Ark #3
想い出と言えば
冷たい言葉の雨
けれど、その中に紛れている
確かな愛
冷たい言葉に泣いたのは本当で
でも私は幸せだった
たまに届く愛の言葉
それだけで十分でした
それなのに。
「ねぇ…何故変わってしまったの?
あんなにも 愛し合っていたのに」
最期はせめて彼の為に笑顔でいてあげようと
泣き顔は嫌いだと言った彼のために
私は月光を受けて銀色に輝く
《Arkと呼ばれた物》を 手に握り
精一杯、笑ったのでした
Ark #4
初めてだったんだ。
こんなに本気で人を愛したのは。
僕は弱かったんだ。
僕では幸せにできないと思った。
それでも彼女には幸せになって欲しかった
僕の脆弱な心はついに耐えることができなかった
あの日、僕は嘘を吐いた
Ark #5
「好きな人が出来たんだ」
あの日
彼はいつもより優しい調子でそう言いました。
それが、いつもの冷たい言葉とは違うんだと
私にはすぐにわかりました
いつから彼の心は離れていたのでしょうか
永遠を共に夢みた、
それは彼の確かな裏切りでした
※この小説は、Sound Horizonの楽曲「Ark」内のセリフや単語を抽出して再構築したものです。解釈ではありません。