冬練の経験でワキガ手術を乗り切った話。
中学生の頃、部活で3年間野球をやっていた。
野球経験者じゃない人の為かに説明をしておくと、冬はボールを投げる練習が無くなる。
雪が降りグラウンドコンディションが悪くなる、肩や肘を労わるなどの理由がある為だ。
その間、野球部は何もしていない訳ではなく、基礎体力向上や足腰を鍛える為に筋トレや走り込みをしている。
稲川淳二が冬に工業デザイナーとして活動したり、怪談のネタ集めをしたりしているのと同じで夏に向けた準備をしているのだ。
僕自身、筋トレや走り込みといった練習は苦手で、筋トレの回数でサバを読んだり監督が見ていないところで歩いたりしてしまっていた。
そんなしんどくて途中で辞めてしまった時、先輩から『この苦しみを乗り越えていけば、卒業した後や社会に出た時に苦しい事が起きても乗り越えられる!だから今は頑張れ!』
みたいな台詞を言われた事がある。(気がする)
誰にいつ言われたか定かでは無いが、言われた時期は恐らく中学生の冬だったような気がする。
それを言ってきた人は『辛い事を乗り越えた実績が自信に繋がる』とか『自分の限界を超えることで、人として成長できる』みたいな意味合いで言ってくれたのかもしれないが、
僕は納得が出来なかった。
プロスポーツ選手や自衛隊、ジムのトレーナーになるならまだしも、多くの人がデスクワークや接客などの仕事に就くこの時代。
運動の時の肉体的な辛さ≠社会の苦しさであり、この経験が役に立つとは思えなかったからだ。
そして僕は自分の予想通り、デスクワーク中心の会社員となった。
会社員生活が3年目を迎えた先日、『ワキガ』の手術を受けてきた。
僕は昔からワキガに悩まされており、周囲からの指摘は勿論あるが、自分でも臭いが気になるほどの時もあった。また白い服の脇の部分が変色したりすることもあって
改善したいと考えていた時に保険適用の3割負担で手術を受けられる事を知り、受けることを決意した。
ワキガ治療にはいくつか種類があり、その中で皮弁法という方法のみが保険適用となっている。
詳細は割愛するが、皮膚を切除して臭いの元になる汗腺を取り除く方法であり、他の自由診療の方法と比較して完了までの期間が長い点や
痛みが伴う場合がある点、傷跡が残る可能性がある点などのデメリットが存在している。
僕が受けた時はベッドに仰向けに寝て脇に部分麻酔をし、脇の皮膚を切って汗腺の取り除きを進めていた。
脇の手術なので、当然のように腕を頭の方に挙げた体勢を維持することになる。
これが案外しんどいのだ。
麻酔の影響なのか、腕を上げ続けているせいか指先が痺れてくるような感覚と、肩甲骨から肘に掛けて筋疲労みたいな感覚に襲われた。
指先の痺れは何とか手をグーパーして乗り切ることが出来るのだが、肩甲骨から肘の疲労感は腕が動かせないので打開策が思いつかなかった。
そんなとき、中学生の冬練の時に言われた先輩の言葉がふと蘇った。
先輩の意図とは全く違っただろうが、あの日の苦しみを糧に僕は社会に出た時の苦しみを1つ乗り越えたのだった。
そして若いうちに藻掻き苦しみ、足掻いた日々は無駄にならない事を学んだのだった。