ばーちゃんと3兄妹の奇妙な物語〜『トイレット』
ママが死んだ後に残されたのは、三人の兄妹と猫の「センセイ」、そしてママが死ぬ直前に日本から呼び寄せた「ばーちゃん」。
長男のモーリー(デイヴィッド・レンドル)はパニック症候群でひきこもり状態にある元ピアニスト。次男のレイ(アレックス・ハウス)はロボットのプラモデル・オタクで他人との付き合いにはとんと興味を示さない。リサ(タチアナ・マズラニー)は文学部で詩の創作に励む勝気な女子大生。
企業のラボに勤めるレイはアパートで気ままなシングルライフを満喫していたのですが、ママの死後、アパートが火事にあい、やむなく実家で兄妹やばーちゃんたちと一緒に暮らす羽目になります。
日本人唯一の登場人物である「ばーちゃん」(もたいまさこ)は、朝のトイレタイムが長く、トイレから出てくるときまって深いため息をもらします。英語を理解しているのかいないのか、とにかく画面に登場してからなかなか言葉を発しません。というわけで、観客は始まってまもなくこの映画のみどころの一つを容易に了解することになります。
──ばーちゃんは、いつどのような場面でどのようなセリフを誰に向かって発するのか?
モーリーがママの残した古いミシンを引っぱり出してきて、ばーちゃんに修理してもらい、何かを縫い始めるあたりから、話は転がりだします。まさにバラバラの家族を一つに縫い合わせるかのように、黙々とミシンに向かうモーリー。
で、出来上がったのは、自分が穿くためのスカートだった。材料の布を買うために久方ぶりに外出して弟の助けを借りたモーリーでしたが、今度はピアノコンテストに出場することを決意します。どうやら以前に出たコンテストでの失敗が引きこもりの原因になったことが明らかになるのですが、さて、今回は……?
物語の展開としては、性格も生き方もバラバラな三人の兄妹がばーちゃんとの奇妙な生活を重ねていくなかで、兄妹の絆を深めていくというお決まりのパターンを踏みます。途中、家族の秘密が明らかになったりもするのですが、後半のクライマックスに向けてセリフなしで存在感を示し続けるばーちゃんのあり方に関しては好悪がわかれることでしょう。もたいまさこの演技はさすがに悠然としたものだけれど、荻上直子の脚本・演出には例によって思わせぶりなところがないとはいえません。この風変わりな人物造形を映画の妙味とみるか嫌味と感じてしまうか。
ついでに記せば、レイとインド人同僚によるトイレ談義などの対話場面は、いつになくセリフもカメラワークも説教調で、今一つノリきれませんでした。
『かもめ食堂』や『めがね』にみられた荻上流のユーモアやノンセンスな滑稽味は本作においても充分に発揮されているとはいえ、同時に自己模倣のサイクルに嵌まりつつあるようにも感じられました。それは、みずから脚本を書いて演出する手法を採る映画作家につきものの課題といえるかもしれません。
*『トイレット』
監督:荻上直子
出演:もたいまさこ、アレックス・ハウス
映画公開:2010年8月
DVD販売元:ポニーキャニオン