事件がなくても面白い映画は出来る〜『歩いても 歩いても』
人がただ食事をしているシーンなど映画で見せるには及ばない。そのようなことをアルフレッド・ヒチコックは言っていたらしい。あらゆるカットがスリルとサスペンスを盛り上げるために撮られたといっても過言ではないヒチコックのフィルムにあっては、人が家族や来客とともに世間話をしながら食事をするなどという日常的で凡庸な光景は、非映画的なものとして斥けられたのです。仮に食事風景が映し出されることがあっても、それはたとえばナイフやフォークがいつ凶器に化けるかもしれないという緊張感を伴って描かれる