DOKI DOKIしながら生きている。#3
「まだ2年目だと思ってるから、このバンド」
曽我部 交流ってほどじゃないかもしれないけど、対バンは多いかもしれないね。
──若手に声をかけられることは、嬉しかったりする?
曽我部 嬉しい嬉しくないというよりも・・・。
あのね、いつの頃か、サニーデイのギャラはこれぐらいって決めた時期もあるの。それは、みんなの生活もあるし、どんどん下がっていったら困るし、これでご飯を食べてるわけだから。
でも、ダイクくんが入るときに、もうライブの本数やらないとうまくなんないし、演奏がまとまんないから、ギャラが安いとか関係なく受けようよって田中とかにも言ったのね。だから、俺らがちっちゃいライブでもおっきいライブでも関係なく出るのは、そういう理由。
サニーデイ・サービスっていう名前はずっとあるけど、まだ2年目だと思ってるのね、このバンド。それで、とにかくやってかないとダメだと思ってんの。会場がちっちゃくてあんまり儲からないけどって話も、スケジュールが合えば受ける。そういう面はあると思うよ。若いバンドとの対バンが多いのは。
──とはいえ、若いバンドと一緒にやることで刺激を受けたりはするわけだよね。
曽我部 みんな、すごいなーと思うよ。昔は自分で聴いていいなーって思う日本のバンドってそんなになかったけど、今は対バンしていいなーって思うことが多い。
’90年代に一緒に頑張ってたバンドって、どっかでメガヒットを狙ってたのね。だから、ちょっと商売くさくなったりとか、ちょっとだけじゃなくてものすごく商売くさくなったりとか(笑)。バンドの音じゃなくて、プロデューサーの音になったりとかあったのよ。
でも今は、例えば東京初期衝動もそうだけど、素直に音楽やってていいな、単純に曲がいいな、演奏がいいなと思えるんだよね。そういうの、あんまりなかったかも。
京都の猫戦とかもそうだし、Laura day romanceとか、みんな20代だけどすごい音楽がちゃんとしてる。技術的にもすごいから、たぶんけっこう練習してて個人練もたくさんしてるんだろうし、いろいろ研究してちゃんと良くなってるっていうかね。
昔さ、「日本のバンドは全然ダメだな、UKとかアメリカのインディーバンドはこんなにいいのに」って文句言って洋楽ばっかり聴いていたころの洋楽に、今の日本の若いバンドは近い。存在感として。
素晴らしいと思うし、自分たちも頑張ろうって思う。彼らに比べたら、自分たちはまだヘタだから。だからうまくなりたいっていう気持ちは、めちゃくちゃあるかもしれない。
うまさがすべてだと思ってないけど、問題なくスムーズに演奏したいし、やりたいことをやりきりたいな。
「ロックってパッションでしょ、って言い訳もある」
──うまくなることが目的ではなく、あくまでやりたい音楽をやるための手段っていう。
曽我部 そうそうそう。ミスったとか嫌だから。歌もそうだけど。一方ではさ、岸田くんとか向井くんとか(鈴木)慶一さんを見ると、年輪のすごさもあるわけよ。そういうのもいいよね。俺にも、それがあったらいいなと思う。
──年輪のすごさは、サニーデイにもあると思うけどね。年輪のすごさと、新人バンドのような勢いやフレッシュさがあるのが、今の魅力というか。
曽我部 なのかなあ? 自分たちがどう見えてるのか、自分たちではわからないから。とにかく、今は練習を欠かさないように。
昔は、ツアー前になったらスタジオに入ってアレンジを固めていく感じだったけど、今は定期的に入る。ダイクくんは、空き時間にパッドで練習したり、個人練もしてるだろうし、うまい人には理由があるんだなって思う。田中の練習方法は聞いたことないけど、家でやってんじゃないかな?
3人でスタジオに入るのは、週1回。本当は週に2回入りたいんだけど、俺の予定がダメで2回できないことが多い。だから、2人には迷惑かけてるんだけど。
俺が一人でスタジオに入るのは、ごくたまに。うまくなりたいけど、練習はあんまり好きじゃない(笑)。
ロックってパッションでしょって言い訳もあるから(笑)。でも、うまくなりたいと思っている一方で、技術を信用してない部分、技術じゃないよって思ってる自分もいる。ヘタなのがいいわけじゃなくて、“足りてない”ってすごく大事な気がする。それは、“まだ完成してない”ってことかもね。
「情熱や魂が自分を上回ったときが、いちばんヤバい」
──未完成であり続ける。
曽我部 むずかしいんだけどね、すごく。(ピアニストの)山下洋輔さんも言ってた。むちゃくちゃに弾くんだけど、猫が鍵盤の上を歩いてむちゃくちゃな音が出たのとは違うんだって。
未完成というよりも、情熱や魂が自分を上回ることだと思うんだよ。それが一番ヤバいことだと思う。
『GANTZ』っていうマンガがすごい好きなんだけど、最後のほうは作者を超えちゃってる感じがするのね。作者の中のコントロールできない何かが疾走しちゃってて、すごく不条理なものになってる気もするんだけど、そこにとんでもない迫力を感じる。そういうことかなあ・・・。描こうと思ってたもの、能力、技術の先に行っちゃったときがすごいなーと思うんだよね。
音楽でも、どっかでそれを目指しているのかもしれない。
──そういう感覚になったことはない?
曽我部 ライブではある。ライブは、そこまで行かないと自分で納得できない。
──音源ではない?
曽我部 かもしれない。音源でそこを目的にしちゃうと、『THE CITY』とか『THE SEA』みたいなものになっていくんだよね。混沌、というか。
でも、混沌とした作品になるのは聴く人を選ぶような気がして、今はなるべくシンプルにいい曲、ライブで絶対にやりたくなる曲、みんなが楽しんで気に入ってくれる曲が作りたい。『いいね!』から、それが自分の素直な気持ちになってきた。
どっかで『GANTZ』の終盤みたいになるのは、いつか自分の人生そのものを俯瞰で見たときにそうなってるのかもなとも思うし。
「俺たちが一番輝いていたい」
曽我部 キャリアとかって関係ないから。この歳になってくると、記念日をやり出すじゃん?(笑)。 30周年だ40周年だって。昨日からサニーデイを聴き始めた人には、そんなの関係ないことなのにさあ。
俺はむしろ、精神的なサバを読みたい。精神サバ(笑)。昨日からバンド始めました、みたいな感じでやっていたいのよ。そのほうがなんか楽。「よろしくお願いしまーす!」みたいな。
だから、ファンの人には30周年とか忘れてほしい(笑)。
──ビートたけしさんの本で、『(ザ・知的漫才)結局わかりませんでした』っていう対談集があるんだけど、「結局わかりませんでした」って言って死ぬような気がするんだよね。
曽我部 結局わかりませんでしたって、いい言葉ね(笑)。
──でも、人は年齢を重ねるとまとめに入りたがるし、わかっている自分でいたいと思うようになるのは確かだよね。みんな、「よろしくお願いしまーす!」とは言わない。
曽我部 「レジェンドで」とか言われると、本当にこそばゆい感じなの(笑)。そういうところにいるのが恥ずかしいのよ。
ボクシングで例えるなら、3回戦ボーイでいたい。だから、どのバンドにも勝ってやろうと、そのつもりでやってる。みんなもそうだと思う。それは、一生そうでありたい。
対バンしたら、相手がもうバンド辞めようと思うぐらいのライブがしたい。お互いにそうやるのが真剣勝負だと思うから。それは敵意ではなくて、相手をリスペクトしてるからこそ真剣勝負がしたい。その上で、俺たちが一番輝いていたい。
時には負けることが勝つことにもなるから、答えが出ないところもある。だけど、とにかく本気でやるっていうことだよね。
そういう意味では、負けのほうが実は多いのかもしれない。だからこそ、まだやってるっていうのはあるかもしれない。また負けたよ、って思うもん。
──どこで負けたと感じるの?
曽我部 自分の心に聞けばわかる。
あとは、この人たちのほうが大きい会場でやってるんだ、売れてるんだって思って、負けたと思うこと、くやしいなと思うこともある。
別に信念を持ってやってれば人と比べなくていいと思うし、あんまりいいことではないってこともわかってきたけど。でも、もっともっと大きいところでライブしたいなと思うし、もっと売れたいと思ってる。
俺、絶対にいい音楽は売れると思ってるのね。プロモーションがどうこうじゃなくて。
昨日、新宿のラーメン屋さんに入ったら、スピッツの「チェリー」が流れてて、ああ、いい曲だなあ!と思った。自分もこういう曲を作らなきゃって思った。ラーメン屋で響くようなヒット曲がほしいな。そうすれば、いろんなことが楽になるから。
「レコードやライブの価格はできるだけ安くしたい」
──いろんなことが楽になるというのは?
曽我部 ライブのチケットが安くできるし、メンバーやスタッフの生活も楽になる。アナログ盤の値段も、もっと安くできる。今、サニーデイのアルバムのアナログ盤を出すときは基本3,000円台にしてるんだけど、それ以上は上げたくない。物価とか資材とか上がってるけど、なんとか頑張りたい。5,000円とかのアナログ盤を見て、それは人それぞれだとは思うけど、「中学生はどうやって5,000円払うんだろう?」って思っちゃう。
クラッシュが『ロンドン・コーリング』を2枚組で出したとき、絶対に1枚の値段で出したいって、自分たちに入ってくる印税を前借りしてレコードのプレス代にまわしたって聞いたことがある。
みんな、レコードが好きだ、アナログ盤っていいですよねって言うけど、そういうところは真似しない。プレスすればするほどコストが下がるから、もっともっと売れるんだったら、俺はもっともっと安くしたい。
それから、お金がない人はただで聴いてくれたらいい。だからサブスクもやるし、アルバムをフルでYouTubeにもアップする。
人のやり方に文句を言うつもりはまったくないけど、自分は絶対にそこは曲げたくない。ライブのチケット代も「コロナ禍以降は、みんな上げてるよ」って言われた。でもなんとか、頑張りたい。
──お金がない人がライブを見れないことに、理不尽さを感じる?
曽我部 中学生のときの感覚が拭えないんだろうかね。昼食代を削ったりして2,800円の新譜を買ったり、レンタルレコード屋に行ってバズコックスを探すんだけど、置いてないから仕方なくデュラン・デュランを借りたり(笑)。それはそれで良かったりさ(笑)。その感覚が拭えないし、染み付いちゃってるのかな。
安けりゃいいってもんじゃないけど、音楽ってそもそもタダなわけじゃん。コンビニやラーメン屋でいい曲が流れてても、お金を置いていかない。風みたいなもんなんだからさ。いい風だなーって思っても、風にお金を払うことはないでしょ。
──確かに、古来の音楽、本来の音楽は、歌うことや楽器を奏でることを楽しんで、それをその場で聴いたり見たりした人も楽しむというものだったはずだからね。そこに、お金が発生するのは、音楽が生まれてからだいぶ経ってからなんだろうし。
曽我部 だいぶ経って蓄音機ができて、音楽を繰り返し聴けるソフトを売るレコード会社ができて・・・。とにかく、俺は音楽の値段への問いは常にある。
「駅前でチラシを配ったら、一人来てくれた」
曽我部 ツアーはね、まずは主要なところに行って、まだ決まってないけど発表されている街以外のところにも行く形で続けていきたいと思ってる。
希望としては、本当にちっちゃい街で、100人も入らない会場でも。それが経験だし、単純に楽しいじゃん。忘れられないし。
前にさ、ソカバン(曽我部恵一BAND)で北海道の北見にライブをしに行ったときのことなんだけどさ。売れたチケットが、46枚だった(笑)。会場に行って、スケジュールを見たら、HAWAIIAN6はソールドアウトしてたの。俺らは46枚(笑)。
あと、東北のどっかでも動員がやばそうって言って、駅前でチラシを配ったもんね。「今晩、ロックのライブがありまーす!」とかって言って(笑)。それで5〜60枚配ったらさ、一人来てくれたんだよ!ツイッターでつぶやいても、それで来てくれる人はゼロだったりするのに。一人来てくれたっていう。
──やっぱり、人から人に手渡しするのは効くからね。
曽我部 そう言えば、あなたはその道のプロでしたからね(笑)。
──29歳の終わりから32歳の初めまで、新宿や渋谷、川崎、蒲田、横浜・・・いろんな街で一日10時間テレクラのティッシュを配って生きてましたから。家も追い出されてたから、蒲田の12時間のナイトパック1,200円でカレーライスがタダのマンガ喫茶で寝泊まりして(笑)。めちゃくちゃ楽しかった。
曽我部 その状況をネガティブに捉えなかったあなたはすごいと思いますよ。「俺の人生なんてもう・・・」って思ってもおかしくないのにね。
──渋谷のマークシティのところで配ってるとき、くるりの岸田くんとバッタリ会って、「早く戻ってきてください」って言われたんだけど、あれは励みになったなー。
曽我部 いい話だね(笑)。経験することは、いいことしかないからね。だから、お客さんが少なくても全然楽しいんだ、結局。
若いとネガティブなことをいいことだと思えないけど、歳を取ったら何でもプラスしかないと思えるのはいいよね。それが、歳を重ねる唯一のいいことかなあ。
北見、また絶対に行こう。46人、越えられるかなー。
「ドキドキは心臓の音だからね」
曽我部 3人の写真があがってきて、こんないいバンド写真はもう撮れないかもしれないなって思ったんだよね。それで、みんなにこれがジャケットでもいいんじゃないって聞いたら、いいっすねって賛成してくれた。で、3人の写真をジャケットに使うんだったら『ペンギン・ホテル』はないなって思って、何かいいタイトルはないかなって考えてたら降りてきた。DOKI DOKI。シンプルだし、いいかなって。
──言い得て妙というか、このアルバムそのものを表したタイトルだと思う。それが、今のサニーデイの、今の曽我部くんのモードなんだろうなとも思ったし。
曽我部 そうかもね。ドキドキしていること……ドキドキは心臓の音だからね。それを言い換えるとロックのリズムかもしれないし。そんなこと、何も考えずにつけたけど。
アルバムのタイトルって、いつもむずかしいのよ。アルバムが完成して最後にタイトルをつけるのは、絵に最後の一筆を入れることで、今回はいい一筆を入れられたなと思う。
ジャケットも気に入ってるし、丁寧に作ったから達成感、満足感はあるかもしれない。今までは一作ごとに死ぬんじゃないかって自分を追い込んで作ってたけど、今回は冷静に落ち着いて、メンバーとケンカをしたり仲が悪くなったりもせず(笑)。
植物やメダカの世話をするのもそうだけど、そういうモードに向かってるのかもね。バンドを落ち着かせて進んでいくっていう。最近、カリカリしてないもんね。(とマネージャーに問う)
マネージャー そうですね(笑)。
──「ドキドキは心臓の音」って言ってたけど、つまり「生きている」っていうことだよね。
曽我部 そうだね。実は、「生きている」っていう曲もあったんだよ。残念ながらアルバムには入らなかったんだけど、完成はしてるからいつかどこかで出したいなと思ってる。「生きている」って曲、すごくいいんだよ。その曲も、いつかみんなに聴かせたい。
──「生きている」、早く聴きたいですね。楽しみにしてます。
曽我部 このあと、カレー一緒に食べていかない?
インタビュー・文 大久保和則
写真 水上由季 石垣星児(モノクロ&ライブ)
第1回「また3人でできる曲が増えたなっていう感じ」
第2回「長ーい戦いの途中にいるから勝負はまだわかんない」
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