日々の中で 2
そろそろ、足も疲れ、お腹も空き…喉も渇いた……
「おい。腹ペコだ。オレ。」
「私も!」
「僕も、腹ペコだよ。喉も渇いた!――売店で買って来るよ。待ってて。」
僕は、一人で行こうとしたが…凜が一緒に行くと聞かない……
混み合っているし…手を繫いだままでは…運べない……
そう、言い聞かせるが…凜は、聞かない……
仕方なく、睦美に席を確保させ、凛を連れて買いに行った……
注文の品を受け取り、下を見ると……凜が居ない!
「凜!」 僕は、大きな声で呼んだ。
が……居ない……慌てて、睦美の所に戻るが……
凜は、居なかった……
「凜が戻るといけないから、睦美は、ここに居て!僕、探してくるッ!」
僕は、言って……走って探しに行く。
「ゴメン……宜しく!」
睦美も、大きな声で言った。
「凜!――凜!」
僕は、大声で叫ぶ。――もし……誘拐でも、されたら…怪我をしたら……
嫌な事ばかりが、浮かんだ……
「ワーンワーン……連。ワーン、連。」
小さく、凜の声がした!
周りを見回し、「凜!――凜!」 大声で又、叫ぶ。
睦美の居る方向から……凜が泣きながら、走って来た……「連!ワーン……連。」 と……
慌てて、駈け寄り、凛を抱きしめた。
「連。ワーン……連。」
まだ、泣き止まない凛を抱き、睦美の所に、急いで戻った。
「あーあ、良かった!……良かった!」
睦美は、胸を撫でながら……言う。
凛を下に降ろし……
「凜っ!どれだけ、睦美と僕が、心配したかっ!今度、僕が駄目って言った事を聞かないなら、僕、一緒に居ないよっ!」
安心したら、腹が立ってきたんだ…
腹が立つほど……心配だった。
僕は……知らずに泣いていた……
まだ、泣いていた凜は……益々、大声で泣き……
「ウワーンッ……嫌だ……ゴメン……連と居る……嫌だ……言う事聞く……連と居る……ゴメン……」
又、僕に抱き付き、泣き続ける……
人前で、怒鳴り…怒ったのは…初めてだった。
滅多に、僕は……怒らない人間なのに……
睦美は、僕達の様子を……困った様に見ていた……
「……すっかり、冷めちゃったけど……食べよう!お腹空いたよ!私。」
と、言う。
「あ…ああ、そうだね。食べよ!凜、食べるよ。」
僕も、言った。
「エグっエグっ……連、居るよね?……連?」
まだ、泣いて…訊く。
「居るよ。大丈夫。――男は、泣かない!でしょ?」
と、凜を撫でた。
「お…おう。食べようぜ!連。」
ニッコリ笑った。
堪らなく、可愛くて……ハンカチで凜の涙を拭きながら……笑っていた……
ぶらぶら歩いて行くと……
キリンの前で……凜は……キリンを見ずに、――子供が、お父さんに肩車をして貰い見ている様子を凜が羨ましそうに見ていた。
「ボーッとしてるなよ。凜!――ほら、乗って!」
と、凜の前に腰を落とした。
「お…オレ、子供じゃないぜ!し…仕方ないなー!」
言葉とは、裏腹に……超、嬉しいそうに肩に足を掛けた。
僕が立ち上がると……
「うわー!高いぞ!おい。睦美!高いぞ!連。キリンと、同じだー!ハハハッ。」
大はしゃぎだ……
「良かったねー。凜!高いねー。ハハハッ。」
睦美は、自分の事の様に喜んでいた……
「ハハハッ。高いか!凜!ハハハッ。」
僕も凜の喜びが、肩から伝わる様に感じていた……
帰り道……凜は疲れたのか……眠そうにしていた。
そうか…幼稚園って…お昼寝の時間が、有るんだよな……
僕は、凜の前に腰を又、下ろした。
「僕、おんぶってしてみたかったんだ!凜、おぶらせてよ!」
と、言った……
「おい。子供じゃないぜ。……仕方ないな。」
又、一言、文句を言い…凜は僕の背中に、おぶさった……
「よいしょっ。――温かいなー!凜は、ハハ。」
僕は、歩き出す。
「良いなー!凜。私もおんぶして欲しいよ。ハハ。」
睦美は、言い、笑う。
「次な。次は睦美に譲るよっ。」
凜は、言い……暫くすると…眠っていた……
僕は、睦美に……
「寝た?」 と、訊いた…
「うん。すっかり、眠ってるよ…。本当に有難う。姉達が居なくなってから……こんなに楽しそうな凜は……初めて……連のお陰だ…サンタさんからのプレゼントだったよ!今日は!ハハ。」
睦美が……空いている方の僕の手を取り……
「私にも……サンタさんのお裾分け!ハハ。」
と、手を繋ぐ……
「こっちは……僕に、サンタさんからのプレゼントかも知れないな!ハハ。」
と、照れて笑った。
「ハハハッ。酷いサンタさんだねっ!私をプレゼントじゃ、連が可哀想だ!」
睦美は、笑って言った。
「……最高のプレゼントだよ!しかも、オマケ付きだ!ハハ。」
僕は、凜の方を見て言う。
「ハハ。嬉しい事、言ってー!大き過ぎるオマケだよ……責任もね……ああー。連が帰った後が大変だぞー。肩車も、おんぶもキツいな。頑張るぞ!」
繫いだ手を上に振り、睦美は言った。
家に着き、睦美は、夕飯の支度や、家事を始め……僕は凜を下ろそうとしたら……起きた……
「オレ、寝ちゃったんだな。温かくて……うん。睦美、オレ、サンタさんに、お願いを決めたよ!」
凜は、言った。
予め、用意して有ったらしいカードに凜は、書き込んだ。
「睦美、必ず!サンタさんに渡してくれ。」
真剣な顔で、お勝手の睦美に渡す。
「うん。解ったよ!」
睦美は、受け取り……手を止めた……
「凜、これは……無理だ。――サンタさんはね……うーん。大きな荷物は運べない……皆のプレゼントが有るから……ね。もっと……違うのを書きなよ!これは……無理だからさ……」
睦美、困ってるな……高い物なのかな…?
僕が買ってあげたいけど……駄目かな……?
躾だったら……口を挟んじゃいけないからな……
「オレ、これしか欲しく無い。」 凜は、首を振る。
睦美も、首を振り……
「無理なんだ……サンタさん……困るよ!……これ以外なら、聞いてくれるから。ね!」
凜の書いたカードをゴミ箱に捨てた……
えっ……何も……捨てなくても……
「じゃあ、要らない!オレ、これしか無い!」
凜は……顔を真っ赤にして、泣きそうなのを一生懸命、堪えている様だった。
僕は、何も言えず……様子を伺っていた……
凜が、ダダダッと、二階に走って行った。
泣く為だろう……
僕は、睦美に、プレゼントを買っちゃいけないかを訊く為に……お勝手に入り……
まだ、手を止めたままでいる睦美を見ながら、ゴミ箱の中のカードを拾っていた。
睦美が……
「いくら……サンタさんでも、無理だ。」 言った。
カードには…幼い字で――「れん」と、書いてある。
僕は、睦美に訊く。
「睦美は……何をサンタさんに、お願いするの?」
睦美は……僕を見て……
「ハハ。私は……何が欲しいのかな…?凜の笑ってる顔かな……これも、サンタさん……無理だな。」
下を向き……
「参った……昨日から、楽し過ぎた……から。サンタさん……困るよなっ!ハハ。」
僕は、凜と同じ物を睦美も頼んでくれないかな……と、思っていたんだ……
僕は、部屋に戻り、メモ帳に……書いた。
それを持ち、お勝手に戻った。
「睦美……僕も、サンタさんに渡して欲しいんだ。」
メモ用紙を睦美に渡した……
「睦美と凜」 と、書いたメモ用紙を……
睦美は……首を振り……
「有り得ないよ……昨日の今日だ……もっと……良く考えて……」
僕は、首を振り、
「今、始めないと……明日、後悔するかもよ。だから、僕は、サンタさんにお願いするよ。――これできっと、睦美の欲しい物も、サンタさんは、くれるだろ?」
睦美を抱きしめる。
「私も……凜と同じお願い……サンタさんにしても良いのかな……?明日、後悔したくないよ。」
「勿論。良いよ!クリスマスだもん。きっと、サンタさん叶えてくれる!さー。少し早いけど……凛にプレゼントを届けよう!」
僕は、睦美にキスをして、言った。
「凄いな……一生分のプレゼント貰っちゃったよ!」
と、睦美もキスを返してくれる。
二人で二階に向かった……凜の部屋からは…悲しそうな、泣き声が聞こえる……
睦美が凜の部屋に声を掛ける…
「凜、サンタさんが、クリスマスと間違えて、もうプレゼント持って来ちゃったよ!」
そっと……扉が、開き……泣き顔の凜が顔を出す。
「男は、泣いちゃ駄目だろ。凜。プレゼントだよ。」
僕が、言った。
「連!本当に!連!ウワーンッ……連。」
凜は、僕に飛び付いて来た……
「言う事を聞いたら、一緒に居るって言っただろ?男は、嘘を付いちゃいけないんだ。」
僕は、言い。――凜を抱き上げた……
睦美は、少し泣きながら……
「ちょっと!凜っ!私も、サンタさんに同じお願いしたんだからねっ!私にも、サンタさんはくれたんだからね!半分こだよ!解った?」
半分こって……睦美……
「後ね、凛に妹か、弟が出来たら、お兄ちゃんなんだから、その子にも分ける事!約束ね!」
「お…オレ、オレが、お兄ちゃんに、なるのかっ!いつ、いつだ?ねえ、睦美!いつだ?」
目をキラキラさせて、凜は訊く。
僕は……
「ハハハッ。当分、先だよ。凜。――でも、そうなったら、こーんな抱っこもしてられないんだぞー!お兄ちゃんだからさ。」
凛に言った。
凜は、ギューッと僕にしがみ付き……
「……お兄ちゃんは……まだ、良いかな……」
と、言った。
「ハハハッ。いきなり、甘えん坊だな。凜は!――じゃあ、プレゼントと、お風呂入って!私、夕飯の準備しちゃうから!」
睦美と、僕達は、一階に向かった……
全員が、サンタさんから望みを叶えて貰って……
お風呂に入りながら……凜は僕に訊く……
「連。……絶対に、居なくならないよな…?睦美も連も……絶対に居なくならないよな?」
凜は、きっと……居なくなった両親の事を思い……
不安で堪らないのだろう。
「凜……世の中に、絶対。は、無いんだよ。でもね。絶対と、言葉にしたい思いは、有るんだ。だからね、絶対に居なくならない。って僕は、凜と、約束するよ。」
少し、難しいだろうか……?
でも…僕は、強い思いを伝えたかった……
「そうか……絶対は、無いんだな。でも、連はオレと、居るんだ。じゃあ、一緒に居られるんだ!」
やはり……難しかった様だが……凜は納得した。
「うん。昨日や今日みたいにずーっと、一緒に居るのは、ほんの少しだけ、後だけど…出来るだけ、逢いに来るし、その先は、ずーっと一緒だよ。凜は、男だから、待てるよね?」
明日から、ずーっと一緒だと思っていて、僕が帰る時、嘘つきだと思われるのが嫌で、説明した。
「……うん。待つよ、オレ。我慢するよ。男、だからなっ。」
「それとさ。僕もサンタさんにお願いをしたんだ。」
「連は、何をお願いしたんだ?」
「睦美と、凜だよ。」
「じゃあ……サンタさんは、連の願いも叶えてくれたんだな!」
「そうだよ。……だからね。凜、睦美も僕と半分こだよ。――僕が結婚して良いの?」
「うん。オレ、連となら睦美も半分こするよ!睦美とは、結婚しない。男だからなっ。」
「よしっ。男の約束だね。」
僕は、小指を出した。
「約束だ。」
凜は小さな小指を僕に絡ませた。
「凜は……妹か弟が、欲しいの?」
「う…ん。解らない……お兄ちゃんって……カッコいいって思ったけど……今は、オレ、連と沢山、居たいんだ……だから……」
僕は、そんな凜が、愛おしくて……
この、小さな存在の為なら…何でも、頑張れる!
そんな、力が沸いてくる気がした。
「僕も同じだよ。凜と睦美と、沢山、一緒に居たいんだ。――さあ。睦美が、鬼にならない様に早くしよう!ハハハッ。」
「うん。睦美の鬼は、怖いからな!ハハハッ。」
お風呂から上がり、お勝手に、手を繋ぎ行くと……
「何だか、楽しそうだったねー。何を話したの?」
睦美が、訊く。
僕と凜は……又、目を見合わせ……
「ハハハッ。」 と、大笑いした。
「しっかし!気分悪いわっ!私、サンタさんに断ろうかなー。」
と、剥れる。
僕は、焦って……
「だ…駄目だよ。サンタさん困るよ!一度お願いしたんだから。睦美のご飯が早く食べたいね。って凜と話してたんだよー。ね?」
凜も焦って……
「そ…そうだよ!腹ペコだって、話しだ!な。連!」
二人で頷き合う……
「ハハハッ。調子良いのっ!私も……お風呂入っちゃいたいんだけど…冷めたら、勿体ないから。」
凜と僕は、二人で言う。
「冷めたら、勿体ないから、入って来て。ハハ。」
「じゃあ、ビールと、リンゴジュースだねっ!」
睦美が、言い…
「うん!」 二人で頷いた……
僕は、凜と飲み物を持ち、部屋に行った……
凜は、仏壇に行き、手を合わせる……
長い間、そうしていた…
「よしっ。話してきた、連と睦美とオレで、居るからってな。」
凜は、言う。
「そっかー。いつも、報告するの?」 僕は、訊く。
「まあ…嬉しかった時とか…楽しかった時はする。」
凜は、僕の膝に乗り…言った。
「おい。連、動物園で…お父さんって言われたな…
連はオレのお父さんなのか?」
僕は……凛に、何て言えば良いのかな……?
睦美……助けてよ!
いやいや、もう、僕は、凜と暮らすんだ。
自分の言葉で伝えられずにいてはいけないんだ!
「難しいんだ……」 と、言い。――
僕は、凛に説明する……
僕と睦美は、結婚する。そこにいる凜は、僕達の子供になるんだよ。――
でも……凛には、本当のお父さんと、お母さんが、居るだろ?
だから、僕や睦美に、お父さん、お母さんと、呼べと、凛に強制……言う事は、出来ない。
「だからね。凜。――凜が、考えて、呼びたいなー。って、思ったら、呼べば良いんだよ。」
と、教えた。
「ふーん……オレが……決めるんだな?」
凜は、解ったのか、解らないのか……?
そう、訊いた。
「そう。凜が、決めて良いんだよ。――凜が、決める事なんだ。」
と、僕は答え……訊いた。
「睦美は……何て言った?凜は、睦美って呼んでるけど……」
「……多分…睦美だよ。って言われたから…睦美って呼んでる。」
そうだよな……3歳に成り立てじゃあ……
覚えて無いよな……
しかも、睦美にすれば…お姉さんが、お母さんだったんだ……お母さんと、呼ばせる事は、お姉さんの存在…?が、消える事になる訳だもんな……
「そうか。正直ね。睦美は…どう考えるかは、僕にも解らないんだ……でも、呼び方じゃないんだよ。凜が、何て呼ぼうが、僕と睦美が、凜を大好きで、自分達の子供だと思ってる事に、変わりは無い!」
僕は、凜をギューッと抱きしめた。
「……そうか…大好きか!オレも、連と睦美が、大好きだぞっ!」
凜は、照れて、大きな声で言った。
「お待たせー!」
睦美が、部屋に戻り、言う。
凜は……
「おい。睦美、長風呂だな?――お洒落か?」
又、凜の言い方に笑ってしまう。
「ハハハッ。お洒落って……」
「そ…そんな事、ないよ!私、凜が来る前は、長風呂だったの!」
睦美は、怒って言った…
「夕飯にするよ!運ぶの手伝って!」
「はーい。」 凜と二人で言った。
今夜は、ハンバーグカレーと、サラダだ。
「凜のは、辛くないからね!」 睦美が、言う。
「えー。オレ、同じので大丈夫だ。子供じゃないからなっ!」 凜が、怒る。
僕は、凛に……
「ねえ。凜、僕は思うんだ。――子供も悪く無いって…子供の時だから、一杯、甘えて良いし…肩車も、出来るだろ?」
僕は、凜を、持ち上げ……
「子供だから、甘いカレーも、美味しいんだ。大人になっちゃうと、美味しい甘いカレーも、食べられないよ。凜、子供は、特なんだよ。」 言った。
「そうか……大人は、肩車も出来ないか……オレ、得だから、甘いカレー食べる!」
睦美も……
「そーだよ!今日も、凜だけ、おんぶ、してさー。子供は、良いなー。って羨ましかった!今度から、凜も大人なら、半分こだよ!」
と、言いだした……
凜は、モジモジと、下を向き……言う。
「え……。オレ、子供だから、肩車も、おんぶもしなきゃ駄目だ。――睦美は、大人だからなっ。半分こは、ちょっとな……」
「ハハハッ。」
睦美と、僕は笑い出してしまった……
「早くっ!食べるぞ。腹ペコだ!」
凜が、照れて怒り出した。
「食べよ!僕も、腹ペコだよ。」
部屋に運び……「頂きます!」 食べ始める……
「なー。連。少ーし、くれ。」
凜が、大人のカレーを食べたがる。
「辛いよー。凜。少しね。」
僕は、ほんの少しだけ、スプーンで凛にあげた。
「ん?辛いか?……か…辛い!」
慌てて、水を飲んだ。
「ハハハッ。」 又、睦美と、笑った。
「おい。大人って損だな……オレ、子供で居る!」
凜は、真顔で言って……又、水を飲む。
「そーだよ!凜。子供で、居られるのは短いんだから……沢山、得しなよ。ハハ。」
睦美は、凜を見て……言った。
「うん。連、食べてみろよ!」
と、小さなキャラクターの絵が付いたスプーンで、自分のカレーを僕に差し出す。
「えー?あーん。」
僕は、食べてみた。不味い…何の味もしないし…
甘いし……黄色だけで……これが、カレーって……
「うーん。僕は、大人だから……こっちが良いな…ハハ。」
僕は、微妙な、顔をした。
「そうか……連と睦美は、オレのお父さんと、お母さんだから…大人だもんな。」
凜は、言う。
睦美が、驚き……「凜……?お母さんって……」
凜は、モグモグと、カレーを食べながら…
「そうなんだろ?連と睦美の子供だからな、オレ。睦美がお母さんで、連がお父さんだろ?」
と、普通に言った……
睦美は、目に涙を浮かべ……
「そうだよなッ……そうだ。」 と、何度も頷く……
「ねえ、睦美。僕、明日には、帰って…親に話したり、婚姻届け取ったり…して……」
僕は、凛と、睦美に訊く……
「ねえ、凜、父ちゃんと、母ちゃんと、暮らしたこの家に住みたいよねー?――睦美も?」
「オレは……良く覚えてないし…何処でも良いよ。三人ならさっ。」 凜が、答える。
「私は……うーん。一応ね、実家だからねぇ。でも、全て……古くなって来てるしな…」
睦美は、悩んでいる様に言い…
「連は?会社の場所とか…あっ!凜の幼稚園……友達と、離れたくないとか…有る?凜。」
「僕の会社は、近いから問題は無いけど……凜は?今の幼稚園に行きたい?」
僕は、答えて凛に振る……
「オレか?……オレ、友達、つくるの得意だ。三人なら何処でも良いんだ。三人で、ずーっと、一緒ならな。」
凜は、答えた。
睦美が……難しい顔で……
「あのさ……親に話すって…色々有るし…大丈夫?」
凜を気遣いながら……言いずらそうに、訊く…
僕は……
「大丈夫。だけど……ちょっと…睦美は、驚くかも……まぁーさ、明日、帰ってからだよね!家だって、僕のマンションや、実家も見てから決めれば良いんだよ。」 と、言い。
「睦美、嫌かもしれないけど……会社は……止めようよ?――僕は、勿論。仕事を止められないだろ?凜と居て欲しいんだ……」
睦美を伺いながら……
「さっき、睦美も言ったよね……子供で居られるのは短いんだよ…僕は、その時間を凜と沢山、沢山、居てあげて欲しいんだけど……」
と、言ってみた……
睦美は、目を大きく見開き……
「良いの?私……そう出来たら……って、ずっと、思ってた……嬉しいよっ!本当に、嬉しい……」
と、言う。
「そうか。良かったねっ。」
僕は、睦美の手を握り…二人で見つめ合う……
「おいっ!オレも混ぜろよなっ!」
凜が、立ち上がって、苦情を言った……
ですよねー……
「も…勿論。凜も、一緒だよ。」
僕は、言い……三人で、手を繋いだ。
夕飯の後……今夜も、三人で寝よう!と、凜が言い出した。
「うん。良いよ。そうしようね。」 僕は、答える。
「じゃあ、今日は、私が真ん中ね。」
睦美が、ドキッとする事を言った……
「うん!……ん?待てよ……睦美が真ん中だから…オレと連が……だ…駄目だ!睦美、それは駄目だな!良くないぞ。うん。」
凜は、僕と離れてしまう事に気が付いて、激しく反対する。
「えー。半分こでしょ?昨日は、凜で、今日は、私でしょー?」
睦美は、からかっているのか、マジなのか……
凜は、明らかマジで……
「あのな。睦美、それは一緒に暮らしてからだ。明日は、連が帰っちゃうんだぞ!――オレは……子供だからな……可哀想だ。」
終いには、あれ程まで、嫌がっていた筈の子供を盾にし出した……
「……ハハ。そうだね。譲るよ!チェッ。子供は、良いよなぁー?凜。ハハハッ。」
睦美は、言い。凜の頭をクシャクシャにする。
「やったー!真ん中だ。――連?子供って良いな!」
凜は、ご機嫌だ…
「ハハハッ。だろ?凜。人気者で嬉しいよ、僕。」
と、僕も凜の頭をクシャクシャにした……
睦美と、ピッタリ張り付いて眠りたいけど……
この可愛さには…睦美も僕も勝てないな……ハハ。
凜を真ん中に…川の字で横になり……
凜が、眠りに着くと……
「さあ、飲もうよ?」
睦美が、小さな声を掛けてくる……
「うん。飲もうか。」 僕も、小さく、返す。
睦美が、準備にお勝手に行く……
僕は、凜の寝顔を又、見ていた……
本当の父親じゃ無い分まで、精一杯の気持ちで、愛し、育てて行こう……
責任……と、言う緊張感と共に、新たな気持ちで思い返す。
睦美が、酒を持ち、入ってくる……
「ねえ、さっき凜が居て、聞けなかったけど…ご両親、反対するんじゃない?――子持ちじゃ……」
睦美は、凄く心配そうな顔で訊く……
「いや、僕が決めた人なら、それは無い。ただね…睦美、実は…僕の父は……ちょっと…会社をやっていてね……それで睦美が驚くといけないかな…?ってね。ハハ。」
曖昧に……僕は、答えた。
「えーっ!お父さんも、社長さん?」
睦美が、声を上げる。
「しぃー!睦美、声!」 僕は、慌てて言う。
「だって……そんな、大層な所に……身よりも無い様な、私達が……良いのかな……?」
睦美は、すっかり尻込みだ……
「ねー。だから、言いたく無かったんだよ。」
ビールを飲み、僕は続ける……
「僕達の結婚に関係無いだろ?って言いたいけど…
僕は、一人っ子なんだよ。どーしても、関係無いとは、ならないよね?」
「うん……」 睦美は、不安そうだ…
「ねえ、睦美。日々の生活は…自分達で、思うより凄いんだよ。――どんな環境でも、繰り返す日々の中で慣れていくんだ……」
「……うん。」
「始めは……凜も睦美も、「今まで」とは、違って、戸惑うかもしれない……始めだけだよ。これを聞いて、結婚が、嫌になった?止めたい?」
僕は、どうせ、バレる事だから…正直に言い、睦美に訊いた。
「日々の生活……。こんな、事態になると思わなかったから…考えた事も無かったけど……後悔したくないし……もう、連を……好きになっちゃったから…結婚する!」
睦美は、決心する様に答え……
「あの……私。華道、茶道どころか…食事のマナーさえも、解らない……勿論。凜もね……躾や、言葉使いも……ねぇー?」
と、又、尻込みだ。
「睦美、それが、日々の中で変わっていく事だよ。睦美が、やりたくなったら、華道も、茶道もやれば良いし、マナーなんか、自然に身に付くよ。」
僕は言ったが…
「私は、良いんだ……私が何を言われても。でも…凜が……もし、今の自分を馬鹿にされたりしたら…可哀想だと…今まで伸び伸び育て過ぎたからさ…」
睦美は、凜の心配をする。
「僕が、守る!――僕の両親は、元々、普通…?の人だから、大丈夫。でも、それを取り巻く人々の声は、消せないかもしれない……でも、睦美も凜も…僕は、守る。全力でね。」
真剣に僕は、説得…?する。
睦美は……
「はぁ……エラい事になったな。ハクションちきしょー!なんて、クシャミも出来ないな!ハハハッ」
と、笑う。
ああー。ハクションち…って、そー言う事ね……
変わった、クシャミだと思ったよ……
「ハハハッ。僕の前では良いよー。」
「駄目。本当に、連の言う通り!日々の中での事は、人前でも出るよ。――うん。凜と頑張るか!」
睦美は、今度こそ諦めた様だ。
「じゃあ。明日、帰ってから…日にちを決めるから、先ずは、両親に会ってよ。」
僕が、言う。
「あっ。私、ドレスとか持って無いけど……?」
睦美は、訊いた。
「ハハハッ。そんな必要、無いよ。普段通りで良いんだ。凜もね。ただ、会って欲しいだけだよ。――凜なんか、可愛がるんだろうな……」
僕は、答え、呟いた。
「そうだと……嬉しいよ。ハハ。」
睦美は、不安が消えなそうに、一応、笑った。
「これからは…僕がついてるだろ。二人には。」
と、隣の睦美を抱き寄せ、キスをした……
「私、連と二人の時間が欲しい…って考えるけど…やっぱり……」
睦美は、申し訳無さそうに、言葉に詰まる。
「ねえ、睦美。僕が、睦美だけに惚れたと思ってるの?――僕はね、凜にも惚れた。だから、睦美と、結婚するんだよ。」
僕は、言った……
睦美は、嬉しそうに微笑み……
「一番、嬉しい言葉。――だけど…なんか、私だけなら、惚れなかった。って聞こえますがっ!」
少し、怒る。
「勿論。睦美だけでも…惚れたよ。でもさ、睦美。皆で、一緒に眠れる時期は、本当に短いよ。――今は、それを大切にしよう?」
と、思う事を睦美に話す…
「そうだね…連は、本当にサンタさんがくれた、贈り物だよ。――二、三日で、私の人生が、変わった!ハハハッ。」
「ハハハッ。僕も同じだっ。」
二人で笑い。――「しぃー。」と、言う。
又、二人は、ビールの変わりに唇で乾杯した。
その後、睦美の会社を辞める話しや、細かい話しをして、又、早朝、凛に起こされるから…と……
凜を挟み、手を握り合い……幸せな眠りに着いた。
朝、例によって、凜の飛び込みに起こされる……
「連、毎回寝坊じゃ、オレ、遊んでやらないぞ!」
凜が、僕に抱き付き言う。
「ゴメンね。遊んでよー。」
と、僕は、凜を足の裏に乗せ、高く持ち上げる。
「うわー!ハハハッ。――危ないだろー!……ハハハッ。連!高いぞっ!ハハハッ。」
朝から、元気一杯の笑い声が響く……
「よし。凜、睦美の所に行こう。」
僕は、凜を下ろし、言う。
「うん。腹ペコだ!」
「うん。腹ペコだよ。」
僕は、凜を抱っこして、お勝手に向かった……
「お早う!睦美。」
睦美に、キスをした。
睦美は、驚き。――「ちょ…と…」 と、凜を見る。
「睦美!チューされたな。タコになってるぜ!」
凜が、言う。
「お…大人をからかわないの!――連、子供の前で!……全く……」
と、真っ赤になり言う。
僕は、凜のほっぺにキスをして………
「僕は、凜と睦美が、大好きだからキスするんだ!愛情表現だよ。」
凜が、驚き……赤くなる…
「あ…愛情表現だよ。凛。お前まで赤くなるなよ!」
睦美は、凜を見て言った。
凜が、僕に抱き付き、ほっぺにキスをした。
「お…オレも連が大大大好き、だからな!愛情条件だ!」
「……表現だよ…凛。――じゃあ、私も。」
と、睦美が、僕にキスを返す。
「外国の人になった気分だ。オレ。」
凜が、テレビで見た様な事を言いだした。
「全くだな!ハハハッ。」 睦美は、笑う。
「じゃあ、ブレックファーストにしよう。」
僕は、言った。
凜が……
「おい。連。もう一度、言えよ。」 と、言う。
「ブレックファーストだよ。朝ご飯だ。凛、覚えた?」 僕は、繰り返す……
「ブレックファースト…ブレックファーストだな?」
「そうだよ!凛、気に入った?」
「うん。ブレックファースト…英語って、カッコ良いな。連。」
凜が、目をキラキラさせている。
「凛!英語を習おうか?――これから、英語は必要だよ。沢山、世界中の友達が、出来るんだ!」
僕は、凜が、興味を持った事を伸ばしたい……と、考えていた。
「おーっ!じゃあ、私は、凛に教わろうかな?」
睦美も、楽しそうに言う。
凛は……
「えーっ!睦美、覚え悪いからな……」
と、渋い顔をした……
「このーっ!」
睦美が、凜をくすぐる……
「ハハハッ。やめれ!睦美、早くブレックファーストにするぞ!」
凛は、覚え立ての英語を使い言った。
子供は、覚えが、早い……
僕は、凜の事が、楽しみで仕方なかった。
「ハハハッ。ハングリーだよ。」
「ハングリーか?」
「腹ペコだよ!」
「おい。睦美、ハングリーだ。」
「私も、ハングリー!食べよう。」
又、覚え立ての英語を話し、三人で、食べ始める。
食べながら、僕は……
「今日、夜に一旦帰るけど…凛、何をする?」
凛に訊く。
「オレ……ちょっと、待てよ。沢山、有るからな…
うーん。公園で、キャッチボールかな…?」
凜は、散々迷い、言う。
「だって……道具が無いよ…」 睦美が、言う。
僕は……少し考えて、言った……
「睦美、買うよ。――これは、甘やかして、言うんじゃ無いんだ。これから先、ずーっと使える物だ。贅沢では、無いよ。」
僕は、睦美に金持ち発言だと、思われなくないし、
凜を甘やかせる事もしたく無かったので、しっかりと、考えて言った。
睦美は、昨日の夜の話しから、僕が思った事を察したらしく……
「うん。――凛。良ーく見て、連の言う事も聞いてから、買うんだよ。ずーっと使うんだからね?」
と、凛に向けて言う。
凜は、真顔で……
「うん。連の言う事を聞いて、選ぶよ、オレ。」
と、答えた。
「良いなー。凜は!」 睦美が言う。
僕は、さっきから、考えていた事を言う……
「ねえ、デパートに行こう。凛だけじゃ、不公平だよ。睦美、気に入った服が有れば、買うよ。――これも、決して、贅沢じゃない。ずーっと、着るヤツを選びなよ。」 僕は、続けて――
「僕に取ったら、これは、記念日のプレゼントなんだ。特別な日なんだよ。特別だ。」
「そうか……特別だね。有難う。嬉しいなっ!」
睦美は、素直に喜んでくれた。
「やったね!睦美。――連の言う事を良く聞いて、選べよ!睦美、センス悪いから。」
凜が、余分な事を言いだした…が……
大人の様な、物言いに……
「ハハハッ。」 僕と睦美は、笑ってしまった。
睦美は、目が笑って無かったが……ね。ハハ。
「じゃあ、お昼は食堂で、食べて、その足で公園に行こうね!――お昼の事は……贅沢だ。特別ね!」
と、僕は、言う。
そこから、又、凜の「早く、早く!」が、始まり…
僕は、睦美を手伝って……
三人で、デパートに向かう……
デパートに着き、女の服選びは時間が掛かるので、睦美を先に服のコーナーに向かわせて、凜と僕は、スポーツコーナーに向かう。
僕は、詳しく無いので、店員に任せる。
「この、年齢のお子様には、こちらから、お選び頂けますが…」
「凛、ここの中から、ずーっと好きで要られると思った物を、選ぶんだよ。」
僕は、凛に言う。
「オレが選ぶんだな?」
「そうだよ。自分で、しっかりと、はめてみてからね、選ぶんだよ。良い?」
「お…おう。連、緊張するよ。オレ。」
「ずーっとを選ぶんだ、その位の気持ちで良いよ。迷って良いんだ。」
僕は言い、凜は、自分で、真剣に試し、悩み、一つを選んだ。そして、僕も、選び、それを買った。
「ああ、二階堂様!おっしゃって頂ければ……店員をお付け致します!」
このデパートの店長が、慌てて、現れた。
「いや、今日は良いんだ。」 僕は、言う。
「はぁ……さようですか…あの……?」
と、凜を見る。
「ああ、僕の子供だよ。」
僕は、サラッと言い。
「じゃあ、婦人服の方に行くから。」
と、手を軽く上げた……
凜は、手を繋いだ、僕の方を見上げ……
「……エラい人なのか?連は?」 と、訊く。
「いや、エラく無いよ。――お得意様……って言ってね沢山、買う人の事だ。」
僕は、説明した……
「ふーん。睦美の所に行こうぜ!連。見せるんだグローブ!」
凜は、僕の手をグイグイと、引く。
婦人服コーナーで、睦美を見つけ……
「どう?気に入ったの有った?」
僕は、訊いた…
「オレは、買ったぜ。後で見せてやるなっ!」
凜が、ハイテンションで、言ったが……
睦美は、酷く、疲れた…難しい顔をして……
「服なんかさー、久しぶりに見たから……全然、解らない……この、店かな……って思うけど……」
と、目の前の店を指さす。
「うん。睦美、解らない時は訊けば良いよ。その道のプロにね!」
と、僕達は、店に入る。
店員が、走り寄り……
「二階堂様、ご来店有難う御座います。何なりとお申し付け下さい。」
と、頭を下げる。
「彼女の話しを聞いて、アドバイスを頼むね。」
僕は、店員に言う。
「はい。かしこまりました。」
深々と、頭を下げる……
睦美は、唖然としていた……
「どの様な、品を御所望でしょうか?」
店員が、睦美に問う。
まだ、ボーッと僕を見ていた睦美は、ハッとして…
「……あっ。御所望……あの、流行りの関係が無い物で……長く着られる物を……」
と、僕を見て言う。
僕は、睦美に…
「ねえ、睦美。良く、聞いて……自分で、好きな物を選ぶんだよ。ずーっとの物だ、悩んで良いんだから……凜もね。悩んで、自分で決めた。」
と、凛に言った事を繰り返し、言い……
「悩ませて、あげて。」 と、店員に言う。
「うん。解ったよ。」 睦美は、深く頷いた。
店員は、微笑み……
「かしこまりました。では…こちらの品からが、定番と呼ばれ、流行りに左右されない物となりますが…」
説明した……睦美も又、凜と同じく真剣に聞き、悩み、試着を繰り返し、納得した物を選んだ。
僕は、それを買った。
又、店長が、走って来た…
「二階堂様、係の者に運ばせます!」
と、言う。
「良いんだ。自分達で、持ちたいよね?睦美、凛?」
僕は、訊いた。
「オレ、自分で、持つよ。男だからな。」
と、凜が、言う……
「あ……私も。自分で……」
と、睦美も言った。
「今日は、本当に良いんだ。下がって。」
僕は、言い……
「腹ペコだ。食事に行こう。」
と、凜と睦美と、手を繋いだ。
「ハングリー!」 と、凜が言う。
「ハハハッ。そう。ハングリーだね。凛。」
僕は、笑ったが……
「ねえ……連。…どれ程の人なの…?貴方のウチ…」
睦美は、不安が一気に増した様だ。
凜が、「お得意様だってさっ!なっ?連。」 言う。
「そうだよ。なっ?凛。」
と、言い……食事に向かった……
食事のコーナーでは…いつも使う店の店長達が、ウチか?ウチか?と、入り口で待ち構えている。
「凛。何が食べたい?」 僕が訊く。
「オレ、お子様ランチ!――子供にしか、食べられないからなっ。」
と、言った……今度は、「子供」が、得意だ……
「ハハハッ。睦美は?それで良い?」
「凜が、良い所で、いいよ。」 と、答えた。
「じゃあ、デパートでやってる大食堂だね。」
と、待ち受ける。店長達を通り超し……
大食堂に向かった。
大食堂とは言え、侮れない……
凜は、お子様ランチに決定している。
睦美は、多くのメニューから、散々迷い…
エビフライを頼み。
僕は……
「ここの、ハンバーグが美味しいから、睦美にも、あげるよ!」 と、睦美に言い、注文する。
「オレには?」 凜が、苦情を言う。
「ハハハッ。凛のは、ハンバーグも付いてるよ!」
と、笑う。
「そうか!オレのは、色々付いてるんだぜ。」
と、得意そうだ。
「お待たせ致しました。」
店員が、お子様ランチから、持ってくる。
「うわー!凄いだろ?睦美、連!――頂きます。」
目を輝かせ……凜は、食べ始めた。
「ねえ……連、さっきの事だけど……」
と、まだ、店長の態度にこだわる……
「ねえ、睦美。憶測で、考えても仕方ないし、僕が言っても、伝わらない。後、何日かで、実際を知るんだから、今は、特別な贅沢を、楽しもうよ。」
「……そうだねっ!ウジウジ考えるのは、性に合わないや!楽しもう。味わおう!ハハハッ。」
と、明るい笑いになった……
「美味いぞ!睦美。睦美のも美味いけど……別の美味いだ!」 凜が口をソースだらけにして、言う。
「お待たせ致しました。」
睦美と、僕の品も届き。
凜が、じーっと、睦美のエビフライを見て……
「おい。睦美のエビフライデカいな?」
と、不満そうに呟く。
「だって、大人のだもんね!――頂きます!」
と、自慢そうに、食べ始めた。
「そうか。仕方ないな。」 凜が、又、呟く。
僕は、ハンバーグを切り分け、睦美のお皿に置き、「食べてみてよ。――頂きます。」
と、自分も、食べ始める。
「うーん。美味しい!ソースが、美味しいね……ふーん。」 と、研究しながら、食べる……
僕は、微笑みながら、凜の口を拭いてやり……
父親気分を味わった……
皆で、美味しく食べ終えて。
しつこく、頭を下げる店長に見送られ……
公園に向かった。――
新しい、グローブを取り出し、凜は、自慢気に睦美に見せた。
「カッコいいねー!凛。良かったね。ハハ。」
睦美は、凜を撫で、言う……
「うん。オレ、大切にずーっと使う。」
凜は、言った。
「エラいぞ、凛。睦美……こう言う事だよ。――日々の中で、睦美が、凛に、物の大切さや、勿体ない事の大切さを教えてきたんだ。だから、自然に口から出るだろ。――自慢の子供だって思って良いんだよ。」
僕は、睦美に言う。
睦美は、笑顔で…
「うん。自慢の息子だ!」 と、言った。
僕達は、キャッチボールをした……が…
僕も、慣れず、相手が4歳ときては……
グローブを使うよりは…お互いの球を追い回した方が多かったが……凜は……
「楽しいな!連。オレ、又、やる!ハハハッ。」
と、はしゃぎ……笑う。
「楽しいね。凛。ハハハッ。」 僕も、笑った。
「あーあー。見ちゃいらんないねー!ハハ。」
睦美は、ベンチに座り、苦笑していた……
家に着き、睦美は、家事を始め、僕と凜はお風呂に入る……
凜は……
「なあ、連。本当に帰って来るよな?――オレ、楽し過ぎてさ……連が本当のサンタさんで、クリスマスには、忙しくなって……その後は…帰っちゃってさ…居なくなるんじゃないかって……」
と、言ってるウチに泣き出した……
僕は、凜が、そんな事を考え、悩んでいた事にさえ気付かづにいた…笑い、喜んでいる、凜だけを見てきた…
両親の居なくなった恐怖を、本当には、解ってあげられていなかった……
自分の自己満足で、幸せをあげた……なんて思い込んで……
なんて、目出度い人間なんだ!と、自分を恥じた…
「凛、ゴメンね。凜が悩んでるの…気付かないで…――大丈夫。僕は、サンタさんじゃないよ。」
凜の頬を拭い……
「今日のキャッチボール、見ただろ?サンタさんは、何でも出来る。でも、僕は、駄目な所も、沢山、有るよ。」
僕は、凜を撫でながら……
「これから、凜が、カッコ悪いな……って思う事も多いと思う。凜には、カッコ悪い、僕の事も大好きでいて欲しい。」
「オレ……大好きなんだ。カッコいいんじゃ無くても、連が大好きなんだ。一緒に居て、膝に座ったり、肩車したりしてくれる連で、充分だ。」
凜は、又、泣いて……
「だから……ずーっと一緒だって言って……」
僕も、泣いた……この子の想いに泣いた……
「ずーっと一緒だよ。凛。ずーっと一緒。」
「……そうか。お父さんだから、ずーっとだな?」
凜は、泣き止み……考え、言う。
「そうだよ。凜は子供だから、ずーっとだよ。」
僕は、しっかりと、言い聞かせる。
「睦美も、一緒だな?」
「そうだよ。三人で、一緒だよ。――凛、今度ね。僕のお父さんと、お母さんに、会ってね。凜にとっては、お爺さんと、お婆さんになるよ。」
僕は、両親に会う事も言っておいた……
「す…凄いな、サンタさんは……じいちゃんと、ばあちゃんまでくれるのかっ!連。オレ、嬉しい!」
祖父母が、そんなに嬉しいのか……?
不思議に思っていると……
「運動会とかな、皆、父ちゃん、母ちゃん、じいちゃんと、ばあちゃんも、来てるんだ……オレは、睦美だけだろ?――なあ、連。見に来てくれるのかなー?じいちゃんと、ばあちゃんは?」
そうか……そう言う時代なんだな…
知らなかった、僕は……適当な返事は駄目だ。
真剣に答えた。
「あのね。凛、お爺さんは、凄い、忙しい人なんだ……今、僕は、簡単に…行くよ!とは、言い切れない。――でも、きっと、行きたいと、思う気持ちは、有るんだ。解ってあげてね。」
「そうか……忙しいんだな…?うん。解った。連は?……来るか?」
凜は、不安そうに訊く。
「僕は、勿論。行くよ!見たいもん。行くよ!」
僕は、一生懸命に言った。
「そうか。オレ、それで!充分だ!ハハ。」
凜は、嬉しそうに……笑う。
例え、その日に、何億の契約が有ろうとも、僕は、行く!と、決めた。
二人で、お風呂を済ませ……睦美の所に行くと……
「二人、長風呂だな…?お洒落か?ハハハ。」
睦美が、言い笑う。
「お洒落だよ。ハハ。」 と、二人で言い、笑った。
「じゃあ、私も。お洒落してくる!」
と、睦美がお風呂に行った。
夕飯も済ませ…凜が眠るまで部屋のベッドに居た。
一階に下り、睦美に…
「じゃあ、連絡するからね。」
と、言い……
睦美も、僕が考えているより、不安なんじゃないかと…凜で教わった事を思った……
「睦美。僕、睦美と凜に、嘘はつかないよ。――絶対、という思いで、睦美達を守る。」
睦美を抱きしめ……
「何も心配しないで、明日の連絡を待ってね。――愛してるよ。睦美。」
僕達は、長いキスをした……
「私、覚悟を決めたから。大丈夫だよ!連。――素敵な洋服も買って貰った!それ、着て連のご両親に会うの。今は、楽しみなのっ!何の心配も無い。」
明るい睦美の顔に、安心したんだ……
僕は、睦美の家を後に、家路を急ぐ……
やる事は、山積みだ……
家に着き、先ずは両親に電話をする……
デパートで店長に…子供だと言った……
もう、伝わっているだろう。
驚いて居るのが、目に浮かぶ様だ。
早く、知らせてあげないと……と、思っていた。
まぁ、そんな事で動じる両親では、無いがね……
「もしもし?連だよ。」
「ああ、何だ?隠し子が居たのか?」
父は、いきなり言う。
やはり、伝わっているよ……
「ハハハッ。違うよ!あのね。――」
僕は、睦美の事情を話し、結婚する旨を知らせる。
「ほー。おめでとう。しっかりと責任を持って、子供を育てろよ。――私は、じいちゃんだな?」
父は、言い……訊いた。
「うん。凜が、……ああ、子供ね。――じいちゃんと、ばあちゃんに会うの楽しみにしてる。」
僕は、凜の話しを聞かせる……
「そうか…ハハハッ。じいちゃんか……」
満更でも、無さそうに父は、笑った。
「それで……彼女が、凄い緊張してるんだ……言葉使いや…子供の躾とかも…」
僕は、一応、父に聞かせる……
「無用、無用。そんな事は、どうでも良い。私は、お前が、何処ぞの令嬢を連れて来たら、がっかりしただろうが……見直したそ。連。」
父らしい…考えだ。
「母さんは?――何て?」
僕は、母の反応を訊く。
「大騒ぎで、友達に電話しとるよ…孫が出来たってなっ!ハハハッ。違ったら、どうするんだ?と言っても、聞きゃーせんよっ!」
父は、呆れて言う……
「そうか……楽しみにしてて、やんちゃな男の子だよ。凄い、可愛いからっ!ハハハッ。」
僕は、自慢そうに言った……
「もう、親馬鹿か?連。ハハハッ。」
痛い所をついてくるな……ハハ。
「そう。でも……昨日、叱っちゃたよ。僕。」
僕は、動物園の話しを聞かせた。
「気分で叱るのは、駄目だが、心から叱る事は、必ず、子供に伝わるんだ。――だから、凜も謝ったのさ。それで良い。しっかりと父親をやっとって…安心したな。」
父に言って貰い、嬉しくなった…
と…何やら、揉めてる……
「連チャン?」
大きな声で母が出た……
「何で、今日連れて来ないのよっ!楽しみで。首が長くなる程、待っていたのに!――いつ?いつ来れるの?」
「父さんの都合だよ。僕達は、いつでも良い。」
僕は、言う。
「パパっ!明日、家に居なさいよ!」
と、聞こえる……
「明日は……」 父が、言い掛けるが…
「何言ってるの!我が家の一大事より、大切な事なんて、無いわ!孫よ。孫が来るのよ!」
母は、半分…怒鳴った。
「……はいはい。明日と言ってくれ…孫だからな!」
父は、自分も、楽しそうに言ったのが聞こえる……
「ハハハ。じゃあ、明日ね。睦美と、凜を連れて行くからね。じゃあ。」 と、電話を切る。
僕は、父の都合でもう少し先だと、思っていたし…ここまで、両親が、興奮するとも、思わなかったので、慌てて……睦美に電話をした……
「睦美、明日ね。凜を連れて、両親に会ってよ。」
と……
「えーっ!明日?えーっ!明日って……明日?」
睦美が、今度は、パニックだ。
「駄目なんだ……母さんが、凛に早く、会いたくてさ…父さんの言葉も、聞かない…ハハハッ。友達にも、言い振らしてさ……」
僕は、笑って言う。
「ちょ…笑い事じゃないよ!明日……でも…安心した……反対されなくて!嬉しい!明日迎えに来てくれるの?一緒に行ってね……?」
睦美は、安心と不安が一気に来ているようだ……
「勿論。車で迎えに行くよ。凜と待っててよ、ね。何も心配無いからね。睦美の服を見るの楽しみだよ。僕。」 僕は、言った。
「うん。連。お洒落してくから、お楽しみに!」
睦美は、明るく言った。
翌日。――仕事を片付け、僕は、婚姻届を貰いに寄り、父の向けた車で、睦美の家に向かった。
睦美と、凜が外で待って居る。
運転手が、扉を開け、降りた。
凜が、走って来て、僕に飛び付く。
「連。本当に来た!オレ、嬉しいぞ!ハハ。」
と、満面の笑みで笑う……
「当たり前だろ。凛。ハハハッ。――睦美……綺麗だよ。本当に、綺麗だ。」
僕は、見惚れながら…言った。
「嫌だなー!今更?ハハハッ。」
睦美は、覚悟が、決まったらしく、明るい笑顔で、言う。
「さあ、凛、じいちゃんと、ばあちゃんが、凛に会いたくて、待ってるんだ。行こう!」
僕は、凜を抱いたまま……睦美の手を引いた。
運転手が、扉を閉める。
「おい。凄いなー!連。映画の車みたいだな!カッコ良いな!」
凜は、車に興奮気味だ…
睦美は……
「ちょっと…どんだけー。…もう、知らないやっ。」
何故か、やけ気味だ……
滑らかな走りで、実家に着いた……
運転手に玄関で降ろされ……
「おい。連。ふざけてるのか?これ…城だろ?」
凜が、目を剥き言う。
「ハハハッ。じいちゃんと、ばあちゃんの家だよ。凜。さあ、睦美……?」
睦美は、口をポカンと開け……
「いやいや、無理、入れないっ。結婚、止める……酷いよ。連!お父さんが、ちょっと会社をやっててって……レベルじゃ無いっ!」
睦美は、泣きそうになっている……と、……
玄関をメイドが開け……
「まあーっ!凛ちゃん?いらっしゃい!睦美さんよね?まあー!綺麗な方!やったわねっ。連チャン!ハハハッ。凛ちゃん、早く、来て!」
母は、超、ハイテンションだ……
睦美と、凜は、唖然としている…
「母だよ……完全に、舞い上がってる。ハハ。」
僕が、母に……照れて笑った。
「ハハハッ。素敵っ!素敵なお母さん。行こう、凛。」
「お…おう。連。今のは、ばあちゃんだな?」
凜は、まだ驚いていた……
「そうだよ。凜が来て、嬉しくて堪らないんだ!ハハハッ。」
「おう。オレも嬉しいぞ。」
廊下を抜て行く……睦美や凜が、キョロキョロと、見回し……
「おい。連。この家に住めば迷子になるな。オレ。」
凜が、真剣に言い……
睦美が…
「私も……だよ。トイレも行けない……」
深く、頷き言う。
部屋に入ると……
「いらっしゃい。睦美さんと、凛君だね?――連の父です。ハハハッ。可愛いなー!凛君。」
父が立ち言う。
「おい。オレ、男だから……可愛い。は…女だ。」
凜が、僕にしがみ付きながら、父に反発する。
「ハハハッ。凛。可愛いなってね。子供には、男でも、女でも、言うんだ。――好きだって事だよ。」
僕は、凛に言った。
「は…初めまして。睦美です…躾が悪くて……スミマセン。」
睦美が、頭を下げる。
「そうか……好きか…オレも、じいちゃん好きだ!」
凜が、僕の言葉を考え、言う。
「まあ、パパったら、ズルいわね!ねえ。凛ちゃん、おばあちゃんは?好き?」
母が、父に対抗する。
「オレ、ばあちゃんも好きだ!――じいちゃんと、ばあちゃんが出来て。嬉しいんだ!ハハハッ。」
凜が、言い、弾ける様に笑った。
「本当にスミマセン。……自由に育て過ぎて……」
睦美が、又、謝る。
「いやいや、男は、それくらいが、良い。――連は大人し過ぎて……詰まらん。楽しみだよ。凛君が、ハハハッ。」
父は、笑い、言った。
「ねえ、座りましょう。――凛君、こっちに…来る?」
母は、凛に触りたくて仕方が無いらしい……
凜は、僕をチラリと見ただけで…直ぐに、走って行き……なんと!父の膝に……登ったんだ…
「ハハハッ。光栄だな!――ああ、こんなにも……小さかったかな……?子供は……ハハハッ。」
父が、凜を抱き上げ言う。
「ハハハッ。じいちゃん!連より、大きいな!」
凜が、嬉しいそうに言った。
「ねえ、ねえ、凛ちゃん、ばあちゃんの所も……」
母が頼もうとしたが…父が……
「ま…まあ、待ちなさいよ……順番だよ。お母さん!――小さな手だなー!なんて…可愛いんだ。」
と、凜を離そうとしない……
「オレ、ばあちゃんの所も、行ってみる!」
凜が、言い母の膝に移った……
「ハハハッ。可愛いわねー!まあ、本当に小さな手ねー!凛ちゃん、――連チャンよりも、可愛いわねー!ハハハッ。」
母が、さり気なく…失礼な事まで言い出し……
嬉しくて、笑いが止まらない様だ。
「凛、人気者だなー。ハハハッ。」
僕が、言い……睦美を見た…え?泣いている……!
「ど…どうしたの?睦美!」
僕は、焦って訊いた。
「う…嬉しくて……凜が、こんなにも、お父さんと、お母さんに…可愛がって貰えて……幸せ過ぎるよ。私。ハハ。」
睦美は、安心したのだろう……泣き笑いになった。
「当たり前だろ?凜は、本当に可愛いんだからね。ハハハッ。泣かないでよ。睦美!」
僕は、睦美の手を取った。
メイドが、扉を開け、ケーキワゴンとお茶を持って来た。
「さあ、凛ちゃん、好きなケーキを食べてね!――睦美さんも、沢山、選んでね。」
母が相変わらずのハイテンションで言う。
「お…おい。今日が、クリスマスなのか?連。」
凜が、僕に訊き。
「ハハハッ。ハハハッ。」 全員で、笑った。
「違うよ。凛君。クリスマスは、もーっと、大きなケーキだ!――遊びに来るかい?」
父が言い……
「大きなケーキ…これより沢山か?――オレは、子供だからな。…食べきれなくて、勿体ないぞ。」
凜は、父を見て言う。
「ほーっ。凛君は、立派な考えを持っておるな。」
父は、子供なら、ただ喜ぶと思ったのだろう。
僕も、そうだったから……
「睦美なんだ。睦美が、日々の中で教えた事なんだよ。――僕も、感心した。」
僕は、自慢そうに言う。
「そ…そんな、大層なものじゃなくて…一人暮らしで、身についた…只の、ケチです……ハハ。」
睦美が照れ臭そうに…笑う。
「あら…解るわ。私もケチが抜けないもの…でも、ケチじゃなくて、節約よね!睦美さん。」
母が、睦美に言う。
「節約……そうですね!節約です。ハハ。」
睦美が、深く頷く。
「連。オレ、迷ってさ……朝に、なりそうだぞ。」
凜が、色々な種類のケーキをガン見して言い…
「睦美は、決まったか?――内緒で教えろよ。」
と、睦美を見る……
「ハハハッ。」
大人の会話に興味の無い凜を皆で又、笑う。
「笑い事じゃ無いぞ。重要な事だ。」
重要……って。凛。……
「ハハハッ。」 又、笑ってしまう。
睦美は……
「凛、一番を選んで、頂いてから食べられたら、二番を選ぶんだよ。一度に沢山は、駄目だ。残ったら、勿体ないからね。」
睦美は、真剣に自分も、選びながら、凛に言う。
「うん。解った。一番だな?うーん……」
凜は、迷う……
「睦美は、大人だから……ここのモンブランが、美味しいよ。」
僕は、睦美に勧めた。
「うん。私も、モンブランかなーと、思ってた。はぁ……凛じゃ無いけど、素敵過ぎて…迷う!ハハハッ。」
睦美は、モンブランを選び、僕と両親もモンブランを選んだ。
「おい。連。子供には?オススメは?」
「凛ちゃん。連チャンはね。子供の頃、この…下がプリンになっているのが好きだったわよ。」
と、母が言う。
「そうか。ばあちゃん、オレ、それにする。」
凛が、それを食べて……
「うわー。美味いぞっ!ばあちゃん!これ、最高だ!――じいちゃんも、食べてみろよ。美味いぞ!ハハハッ。」
凜は、目を丸くして言う。
「こらっ!美味しいでしょ?食べてみろってね…召し上がれ……じゃなくて…」
睦美が凜を嗜め……自分も、訳が解らなくなり…と、父が……
「まあ、良いじゃないか!凛君は、男だもんな?ハハハッ。美味くて良かったな!」
すっかり、凜のトリコで……目尻が下がる……
「所で…睦美さん、私は、厄介な事に、ホテルチェーンや、その他の会社もやっておるんだよ。」
父は、言いずらそうに……
「連は―― 一人っ子だからな…このまま、結婚してました。では、済まないんだ……窮屈かもしれんが…お披露目会だけでも、付き合って欲しいんだがね……」
と、睦美に、訊く。
「本当、窮屈なのっ!でもね……連と結婚するとなると、付き物なのよね……私も着いてるし、大丈夫。――あんなモノはねー。慣れよ!慣れ。」
母が口を挟む。
「はい。それは、勿論。構いませんが……大丈夫でしょうか?私……」
睦美が不安げに訊く。
「なに、会社の関係者だけだ。気を遣う事は無い。」
父は、軽く言う。
「あら、会社の関係者だから、気を、遣うんじゃない。ねえ、睦美さん。――」
母は、顰めっ面をして…
「私も初め、気を遣って、厭でねー。そのウチ……もう、いいや。美味しいお料理が食べられる!って思う事にしたわ。」
睦美に言った。
「ハハ。解りました。悩むのは…性に合わないんです。カッコ付けても…これまでの人間ですから!私、もう一つ、ケーキを頂いて良いですか?体力を付けておかなきゃ!ハハハッ。」
と、弾ける様に笑って言う。
「うん!気に入った!母さんの若い頃に似てるな…連。良い人と、巡り会ったな!しかも…こんなにも可愛いオマケ付きだ!ハハハッ。」
「そうね!私も。気に入ったわっ!女も度胸の時代よっ。私もケーキをもう一つ!ハハハッ。」
母も、笑い……
「睦美、度胸だけは、良いんだ。なっ。連。」
と、凜が、言い。
皆で笑う。――又、睦美の目は笑ってないが…
子供が居るだけで…こんなに明るいんだな……
と、思う。
睦美は、キラキラした顔でケーキを選んでいた。
その後、僕と凜でお風呂に入る事を話した…
「良いな……連。凛君、今度は、じいちゃんとも、入ろうな!」
父が凛に言う。
「うん。オレ、泊まりに来て、じいちゃんと、連と風呂に入りたい!男の約束だ。」
小さな小指を立てる……父は、又、目尻が下がる…
「男同時は良いわね……そうだわ!睦美さん!今度二人で温泉に行きましょうよ!――無駄に、パパのホテルが各地に有るんだから……ねっ!」
母は、拗ねたが…娘が欲しかった。と、いつも言っていたので……これも、嬉しそうだ。
「ええっ!素敵っ。温泉大好きです。うわー。楽しみっ!嬉しい。」
睦美も、すっかり、その気だ。
凜を交え…ワイワイ騒いで……夕飯を食べろだ、泊まれだと、言い出す両親を振り切り……
やっと…実家を後にした……
その足で…僕のマンションに、二人を招く…
僕の部屋は、50階のペントハウスだった。
「ねえ、連。驚かすのも……いい加減に、して欲しいんだけど……」
睦美は、終いに怒り出す。
「うわー。高いぞ!連。家が小さい!ここ、東京タワーか?うわー。」
凜は、気に入った様子で、はしゃぐ……
寿司を取り……一息、寛いで…
「おい。さっきは、クリスマスで、今は、正月か?
今日は、どうなってんだ。嬉しいぞ!」
凜が、寿司に喜び、言う。
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