日々の中で 3

「ねえ、家に着いて、直ぐに眠れる様に…お風呂に入らない?凜、僕の家のお風呂、楽しいよ!泡がブクブクってね。」
僕は、睦美の負担を減らす為の提案をした。
「良いねっ!入りなよ。凜。私もその後、入る!」
睦美は、喜んだ…
「おい。デカいか?連。」 凜は、訊く。
「まあ、大きいよね……」 僕は、訳が分からず……
「よし!今日は、皆で入るぞ!なっ。睦美!」
え……えーっ!駄目、駄目!ヤバいよ……僕。
勿論。睦美が、断るだろうから……
「そうだね!私、使い方、解らなきゃ嫌だし。」
……そう?
「ぼ…僕。入れてくるね!」
自分で落ち着く為に……慌ててお風呂に向かう……
突然、降って沸いた災難…?に……
凜が、一緒だし……大丈夫だ。落ち着け!
ブツブツ独り言を唱えた……
ゆっくりと、部屋に戻り……
「入ったよー!ハハハッ。」 意味も無く、笑う。
「行こうぜっ!連。――睦美も、早く!」
「はいはい!ハハハッ。」
睦美も、笑ったが…意味は……?
凜と僕は、先に入り……
「おい!凄いぞっ。む…睦美!大変だ!凄いぞっ。早く、来いよ!大変だ!」
凜は、パニック状態だ……
「えーっ!どうしたの?行くよー!」
睦美が、入って来た。――うわー。綺麗だ……
「綺麗だ……」 僕は、思わず、口に出す……
「うわー。本当に、綺麗だ……!夜景が見えるよ!しかも、ジャグジーだっ!ハハハッ。」
いや……睦美の事だよ……?
凜は、泡の出口に夢中だ…
僕の視線に、睦美が、気付き……
照れ臭そうに下を向く……
「綺麗だ……睦美。」 僕は、睦美に言った。
「ハハ。有難う。」 と、笑う。
「り…凛。僕達が先に洗おうよ。睦美は、ゆっくり入ってねっ!」
凜と先に済ませ……睦美と変わった。
凜と遊びながら…チラチラと睦美を見る……
ヤバいよ……抱きたい……
「おい。連。オレは忙しいから……睦美は、連が、洗えよ?なっ。」
凜が、遊んでいたいらしく…言った…
この状態で……? いや、睦美は、断るさっ!
「じゃあ、連。お願いねっ!」
えーっ!……さようですか……
「はい!」 思わず、敬語で答えた……
無心で、無心で……と、ゴシゴシ洗った……
「ちょ…ちょっと!痛いよ。連!」
睦美から、苦情が出た……
「あ、ああ。ゴメンね。」
言い。凜をチラッと見た。
まだ、遊んでいるな……睦美の耳元で…
「僕、かなり、ヤバいよ……」 と、囁く。
睦美も、振り向き……「私、だって!ヤバいよ!」
やはり、囁く。
暫く…無言の状態が、続き。――
「ハハハッ。ハハハッ。」 二人で笑ってしまう。
ハッとして、凜が……
「おい!何だ?オレも混ぜろよっ!」
と、怒り出す。
「何でも無いよ、凛。余りにも睦美が、綺麗で笑ったんだよ。僕。」
僕は、言ったが……
「おい。連。綺麗だと、笑うのか?変わってるな?」
言われてしまう。
「ハハハッ。変わってるね!連。」
睦美も、笑い……バシッと僕を叩いた……えーっ?
風呂上がりに、ジュースとビールを飲み。
凜をソファーで、寝かせた。――二人になり……
僕は、キスをする……睦美も、返した…
甘いムードは、又の機会だ……僕は訊く……
「ねえ、睦美。一応、全部見たけど……何処に住むか決まった?」
「うん。私はね。凜にも訊くけど……私は、連の実家に住みたい!凜に、沢山の人と暮らさせてあげたいの……あっ!ご両親、嫌がるかな……?凜、ウルサいしねえ……。」
僕は、一番、意外な選択に戸惑い……
「ねえ、睦美。――気を……遣ってるなら、良いんだよ。最終的には、そうなるんだ…まだ、二人共、元気だし……」
一応、訊いた。
「違うよ。私、そっちの生活に慣れるのに、一番、良いと思うから。――連は?嫌だ?」
睦美も、訊く。
「いや、僕は、良いけど……」
「ねえ、連。お父さんのホテルと、会社ってさ…?ほら、お披露目会も有るから……どの位?」
睦美が、怖そうに訊く。
「ああ……ホテルが、海外も併せると…30位。会社はね…7かな?子会社を併せると…12位か。」
僕は、答えた……
睦美は、首を激しく振り……
「言っておいてよっ!日本一お金持ちだってさっ!」
怒り出す……
「ハハハッ。日本一、お金持ちじゃないよー。せめて、10本の指って所さ。」
「バカッ!10本でも、20本でも。同じだよっ!」
まだ、怒る、睦美に……
「ああ、睦美。指のサイズを教えて!婚約指輪と、結婚指輪さ。」
僕は、訊いた……
「本当は…要らないって言いたいけど……これから、パーティーに、呼ばれたりするでしょ?私は、何も持ってないし……凜も勿論、無い。ドレスに着物も…アクセサリーに、靴、バック……無限にお金が掛かる……ゴメンね。……」
僕は、又、同じ過ちをやったんだな……
自分で何でもやってきた、睦美が、お金が掛かる事で、人に頼るがどれ程、苦痛か……
考えも、しないで…
婚約指輪を渡す自己満足の事しか思わなかった……凜の時と同じだよ……
僕は、なんて…傲慢で、お目出たい人間なんだ!
この事こそが、僕から、睦美に言い。
安心させるべきだったんだ。
僕は、泣けた……
「え………えーっ!どうしたの?連?え…」
睦美が、驚く…
「謝るのは、僕だ……僕から話す事だったんだ……」
僕は、言う。
「やだー!それは、仕方が無い事。連の日々の中には、私達とは違う世界が有るんだからさ!でもね。連。連だから、私は、言えたの。」
睦美は、続け……
「贅沢じゃない。これは、贅沢。って、普段から、言える。連だから、私は、必要な物だけは、買ってねっ。て、言えたんだよ!」
睦美は、明るく笑い……
「ハハハッ。沢山、買うから、覚悟してねっ!」
と、言った。
「ハハハッ。怖いなー!なんてね。――あのさ。言いづらいんだけど……」
と、僕は、ためらい……
「余り、心配は、無い。きっと……今頃ね。実家はデパートから、山の様な荷物だよ。――睦美と、凜の物でね……」
溜息を付き続ける…
「はぁ…。悪く思わないで欲しいんだけど……あの、テンションからだと、殆どの物は、揃ってるよ……既にね…はぁ……」
僕は、難しい顔になり……
「でね……睦美が、贅沢だと思う物も有るし、趣味じゃ無い物も有ると思うんだ…そうしたら…言って欲しい……難しいけど……是非、そうして。」
と、言い。
「この先、ずっとの事だから……言って欲しい。」
と、締めくくった……
睦美は…
「ご好意だからね……難しい…ね…でも、言うよ。私も、思うよ。ずっとの事だからね!――私じゃなくて…凜が、言ったりしてっ!ハハハッ。」
と、笑う。
「それなんだよ……特に、凜には甘いと思うんだ。けどさ…睦美。何所のお宅も、じいちゃん、ばあちゃん、が、孫には、甘いよ。」――言い。
「僕は、甘やかされる事も、成長期には、必要な事だと、思うんだ。自分は……ただ、ただ、愛されてる。って気持ちがね。」
と、続けた。
「大丈夫、解ってる。しかも…私が、厳しいから、調度、良いよ。それで…私は……連に甘やかして、貰うよっ!ハハハッ。」
睦美は、言った……可愛すぎる……
「私ね。連が、動物園で、凜を叱った時――この人が、凜の父親なら…なんて。考えちゃってさ。自分で、困ってた!ハハ。凄いね…本当に、なった!」
と、付け加えた……
「僕は……睦美に、甘いと思うよ。一人で、頑張って来たのが解るから…これからは、僕に、うーんと、甘えて欲しい……」
僕は、睦美に又、キスをした。
が…甘いムードは、又、だってば……
「睦美の実家だけど、そのままにしようね。古い所は直して……たまには、家族水入らずで…泊まりに行こうよ!」
僕は、又、提案した。
「私は、嬉しい……けど、贅沢だね…」
睦美は、言った。
「いや、睦美にとっては実家。凜も、お父さん、お母さんと過ごした場所だ。――何より、僕達のスタート地点じゃない?そこを残すのが贅沢?」
僕は、訊く。
「……幸せ者だ。私。有難う。連!」
睦美が喜んでくれる……
「ちなみに、凜に、訊いてからだけど…僕の両親はきっと、喜ぶよ。――騒がしい位にね。子供部屋を別に建てると言い出すかも…ハハハッ。」
僕は、半分本当に、やりそうだと……
「あれ以上っ?――私の実家よりも大きな部屋になりそうで……怖いね?ハハハッ。」
睦美……鋭いよ……はぁ……
「でも、さっきのデパートの荷物の話し、もし本当になったら、嬉しいなー!安心、出来る。」
「きっと。明日辺り、電話が来るよ……遊びに来ないか?ってね。ハハ。――睦美、凜にさ。何処に住みたい?って訊き方をしてね?僕の実家は?って訊くと、凜は、良いぞ。って言いそうだからね……本人に決めて欲しいんだ。」
僕は、続け……
「意見が違ったら、又、話し合おう。ねっ?」
と、訊く。
「凜も幸せ者だ。解ったよ。そうする!」
僕達は、沢山の話しをして……
明日又、電話をする約束をした。
ハイヤーを呼び、凜を下までおんぶして行き。
睦美達は、自宅に帰った。

翌日は、睦美から、早くに電話が入った……
朝食の席で、凜が言ったそうだ……
「おい。睦美、オレ、早く連と暮らしたいぞ。じいちゃん、ばあちゃんも、一緒が良いな!オレは!」
訊くまでもなかったよ……と、話す。
僕は、その旨を、両親に後で伝え様としたが……
案の定、先に電話が掛って来る……
「母さんがウルサくてな……次は、いつ来るか、訊けと騒ぐんだ……いつ…凜は、来る?」
父は、自分も凜に会いたい事が、在り在りと解る様な訊き方をした。
僕は、ただの孫馬鹿になっている、両親に言う……
「父さん、母さんにも伝えて、――僕からの、クリスマスプレゼントだよ。」
と、勿体振り……
「何だ?一体……クリスマスに来るのか?」
と、訊く父に。
「睦美と、凜が、その家で、じいちゃんと、ばあちゃんと、暮らしたいってさっ!――引っ越して行くから宜しくねっ!ハハハッ。」
と、僕が言った……
父は、黙ってから……
「か…母さん、ちょっと来なさい!聞き間違いだといけないし……母さんも、直接、連からプレゼントを貰いなさい!」
と、聞こえ……母さんに、変わった。
僕は、又、
「母さん、僕からの、クリスマスプレゼントだよ。睦美と、凜が、おじいちゃんとおばあちゃんとその家で一緒に、暮らしたいってよ!ハハハッ。」
と、繰り返す。
「パパっ!素敵っ!ハハハッ。素敵!」
「ああ!やったな母さん、ハハハッ。」
「連チャン!今まで中で、最高のプレゼントよっ!今日?今日、引っ越して来る?」
と、言い出した……
「ま…待ってよ!睦美の仕事の関係も有るし……訊いてからだけど…急ぐからさ…」
僕は、焦って言う。
「二人の気が変わったら困るわっ!本当に、急いでね!仕事してる場合じゃないわよっ。連チャン!」
いや……仕事は、しないとね……?
「解ってる。解ったよ!直ぐに電話で、訊くよ!」
僕は、無理矢理、電話を切り。
仕方なく、もう、仕事中で有ろう、睦美に、電話を掛けた……
「もしもし、睦美?仕事中ゴメンね。」
と、僕は、謝る……
「ハハハッ。良いんだよ!今、退職したからね。荷物片付けてるんだよ。」
僕は……唖然とした……。
いやいや、普通は、一ヶ月前だろ?
今、退職って……?……何?
黙っている僕に、睦美は……
「いやね。事務の手は、足りてるんだよ。私が、凜を引き取ってから、無理矢理、トラックから、移動させて貰ったからさっ。――で、用事は?」
と、アッサリ言った。
僕は、母さん達が喜び、興奮して、今日、引っ越してくるのか?と……騒いだ事を話した。
睦美は、嬉しそうに……
「良かったー!凜も喜ぶよ。どうせ……私の実家は残すんだから、必要最低限を持って……今日から行こうよ!」
今度は、簡単に、言う。
え…えーっ!待ってよ……!
「いや、ぼ…僕が、無理だし……凜の幼稚園も…」
僕は、又、睦美にも、焦らされ……言う。
「凜の幼稚園には、送って貰う。名字の事も、話すしねっ!で…連のマンションと、私の実家の荷物は、休みの日を使いながらでも、徐々にやろう!で……」
睦美は、考え……
「あっ!お互い、冷蔵庫の物は、持とうね!勿体ないから!」
と、突然、リアルな事を言い出す……
女性陣のパワーに、押されそうだな……
「そうだね……」 僕は、呟き……
「そう!思い立ったが吉日!明日…後悔したく無いから、私!――凜も喜ぶぞー!」
この一連の言葉には、僕も……弱い……
「はぁ……了解っ!実家に電話するよ。――母が気勢を上げるだろうなー!ハハハッ。はぁ…」
と、遂に諦めた。
「うん。宜しくね!あーっ!忙しい!車で迎えに来てねっ!じゃあ。」
今度は、僕が…電話を切られた……
「もーっ!仕事にならないよっ!全く、どーなってるんだよ……」
ブツブツ、大きな独り言を言い…電話を掛ける……
又、案の定だが…母が大騒ぎで喜び……
「さすがね!睦美さん。大好きよっ。ハハハッ。」
と、上機嫌だ。
父も喜ぶだろう?凜も喜ぶよな?
母と睦美は、既に喜んでいるだろ?
困ってるのは……僕だけか……
もう、良いや!どうにでもなれ!
僕は、やけ気味に、急いで仕事を片付ける……

早めに、仕事を終え、先ずは、自宅で準備をして、冷蔵庫の中を殻にする……睦美に、怒られるのが嫌だから……
父の回した車に、荷物を積み…睦美の家に向かう…
睦美達の荷物を積み……実家に向かった…
実家に着くと……
凜が、「ばあちゃん!」と、母に飛び付く。
母が、「凜ちゃん、いらっしゃい!」 抱きしめた。
「お母さん、突然、スミマセン…」 睦美が言った。
「なに言ってるの!こんな突然なら、大歓迎よー!でね…こっちも、突然で悪いけど……これから、着替えて…パパのホテルに行きたいのよ……」
母が正装をしているので、可笑しいと思ったが…
「どうしたの?」 僕は、訊いた。
「全く!パパがねっ。銀座の方に呼ばれて行ったのよ。自分だけ、夕飯に参加出来ないのを拗ねてね!皆、ホテルで夕食をしてくれって!すっかり、拗ねてるから、可哀想に、なっちゃって……解ったって言ったのよ!良いかしら?睦美さん?」
「オレ、じいちゃんのホテルに行きたいぞ!」
凜が、代わりに答えた……
「まあ、嬉しいわっ!ハハハッ。」
「あの……でも、服が……」
睦美が言った。
「あのね。睦美さん……余分な事だって解ってるけどね。私、どーしても、我慢出来なくて……取り敢えず、家にちょっと、入って。」
と、母は招き入れ、凜と手を繋ぎ歩いて行く……
「ねっ?買ったんだよ!全く……僕、怒られるのは嫌だから、初めに言うよ!驚かないでよね、睦美。――服の量にねっ!」
僕は、言い。睦美の手を引く。
「え……?」 睦美は、取り敢えず、歩いた。
「連チャン、二階の一番大きな部屋にしたわよ!来てねっ?」
母は、凜と先に行きながら、声を掛ける。
「はーい。」 答えた。
二階の部屋から……
「む…睦美!大変だ!凄いぞ。は…早く来い!」
又、パニック状態の凜の声だ……
「え……?」
睦美は、僕を見る……僕は、肩をあげ首を傾げた。
「あぁ、言っておいて良かった……」 
と、呟きながら…
「どうぞ。」 睦美を部屋に入れる。
母が……
「いや……見出したら、迷ったのよ!だって、どれも、睦美さんや凜ちゃんに、似合いそうで……取り敢えず、やっと、これだけに、絞ったわ……」
と、言い訳をする。
「こんな、事だと、思ったよ。」
睦美は、二つのドレッサー一杯のスーツやドレスに度肝を抜かれ……
凜は、「ばあちゃん、オレの選んでくれっ!」
と、母を喜ばせる。
「まあ!ばあちゃんが選んで良いの?凜ちゃん!」
と、大興奮だ。
僕は、立ち尽くす、睦美を促し……
「言いたい事は、山の様に有るだろけど…ここは、父の為に服を選んで、くれないか?」
と、声を掛けるが……聞いていなかった……
睦美は、突然、大きな声で……
「お母さんっ!」 と、言い。
凜の服選びをしていた母が、驚いて振り向くと……
「凜より先に、私のを選んで!私、訳が分からないよ…支度に時間が、掛かるし……こんなに……沢山で…」
と、言った。
「まあ!睦美さんのも、私が?選んで良いの?嬉しいわっ!――実はね。一番似合いそうで…初めに選んだのはねっ。」
と、大はしゃぎで、走って来る……
「おい。睦美!オレがばあちゃんに……」
苦情を言う凜を止め、僕は……
「凜。男だろう?男はレディーファーストだよ。」
と、言い……説明する。
「そうか…レディーファーストだな。連。オレ、待つよっ。睦美の次だ!」
と、納得する。
睦美は、母のチョイスを気に入って……
「素敵!お母さん。有難う!」 と、母に抱き付く。
「ハハハッ。嬉しいわっ。――後は、メイドがやるから…お隣の部屋でね!」
と、メイドを呼び、睦美を頼んだ。
「さて、凜ちゃんも、着替えましょ!――あら、連チャン。貴方も早くねっ。」
大張り切りの母を苦笑して…
「はいはい。」 と、着替えに掛かる。
男の支度は整い……部屋で待つと……
「やっぱりねっ!素敵よ、睦美さん!ハハハッ。」
母の声がして…睦美を伴い入ってきた……
僕は、美しさに、言葉に詰まっていた…
「変?かな……」
照れ臭そうに……睦美が訊く。
「おい。睦美、今までで、一番、綺麗だぞ!」
凜が先に褒めた……
「凜もカッコいい!……立派になってる!」
「おう。ばあちゃんに、選んで貰ったんだ!」
凜は、ご満悦の様子だ……
僕は……まだ、ボーッとしていて…
「あ…ゴメンね…見取れちゃって…睦美、綺麗だ…」
言う。
「あら!ご馳走様!連チャン。」
母が、冷やかし……
「ハハハッ。」 皆で、笑った……意味の解らない凜まで、笑ってた……ハハ。
「さーっ!行きましょう。」 母が、言うと……
「待って下さい……あの…お食事のマナーが……」
睦美は、言い掛けた……
「大丈夫よ。凜ちゃんも、居るから、ビュッフェにしたわ!――沢山、食べましょうねっ。勿体ないから!ハハハッ。」
母が、笑う。
「ええ!沢山食べます!勿体ないから!ハハハッ。」
睦美も、安心したのか……笑い…
「凜!楽しいねー!」 と、言った。

僕達は、車でホテルに向かう……
ホテルに着き……
「こ…ここ、本当に、じいちゃんのか?」
凜が、母に訊く。
「そうよ……そうだけどね。凜ちゃん、ホテルで、働く皆の物なの。パパだけの物じゃないのよ。」
母は、僕の幼い頃から、言って聞かせた事を、凜にも言う。
「ふーん。じいちゃんは、偉いけど……皆のなんだな?」
凜は、解ったのかな……?
「そう、皆のお陰で、パパのホテルが有るのを忘れちゃいけないのよ。」
母が、又、言い聞かせる。
「……凜、良ーく、おばあちゃんのお話しを覚えておくんだよ。」
睦美は、深く頷き言った。
父が、慌てて、出て来た……実に珍しい……
いつもは、どっしりと構えているのにな。
余程、凜に、会うのが楽しみだったと、みえる……
凜が、走って行き……
「じいちゃん!」 と、抱き付いた。
父は、大喜びで、抱き上げ……
「凜君。いらっしゃい!じいちゃん、待ってたよ!」
と、凜の頬に顔を擦り寄せる……
目尻が……口元まで、下がりそうだ…
支配人、マネージャーや従業員達が、見慣れぬ父の姿に驚いている……ハハ。
「私の孫の、凜だ。」
訊かれもしない事を言って歩く。
「こんにちは!凜だ。」 凜が、手を振り……言い…
無邪気さに、皆が、手を振り…笑顔になる…
凜は、大物だな…僕は、モジモジ隠れていたのに…
「うん。やっぱり。凜ちゃんは、大物の器ね!――連チャンとは、大違い!」
母が、良い辛い事を言い出す……
「スミマセン…自由で……全く……」
睦美が、ブツブツと、謝り…困る。
「睦美さん、綺麗だね!やはり、美人は、何を着ても似合うなー、連。ハハハッ。」
と、父が、今度は、睦美を皆に……
「ウチの愚息には、勿体ない。嫁の睦美だ。」
と、自慢して歩いた。
睦美は、嬉しそうに……笑顔で、挨拶をして行く…
「やっぱりね。睦美さんも、大物だわっ!ハハハッ」
母も、自慢気に着いて行く。
僕は、苦笑しながら…後から、歩いた。
ビュッフェに着くと……
「じ…じいちゃん!何かの、祝いか?凄いな。」
凜が、豪華なメニューに…目を輝かせる……
「ハハハッ。凜君。沢山、食べよう。じいちゃんも腹ペコだよ。」
父が、言う…
「ハングリーだろ!」
凜の言葉に、少し驚き……
「凄いな。連。ウチの孫は、英語を話すぞ!ハハハッ。凄いぞ。」
と、自慢気に笑う。
僕は、その、孫馬鹿加減に……愉快になった!
「ハハハッ。僕が教えたんだよ。」
自慢気に、言う。
「覚えた。凜君。が、凄い!ハハハッ。」
もう……何も言うまい……ハハ。
「さあ、食べましょう。」 母が、言い。
睦美が……
「私もハングリー。お母さん、お勧めは?教えて下さい!迷って朝になっちゃうわ。ハハ。」
と、言う。
母が、大喜びで……
「こっち、こっち、この……」
と、睦美を案内して行く……
父は、やはり、自慢気に……凜の手を引き、子供に好まれそうな物を凜に、訊きながら食べさせる。
行く先々で、知人に…声を掛けられる。
母や父は、嫁自慢、孫自慢に……余念が無い。
僕は、好きにさせ…ポツポツと、食べながら……
生まれて初めて…親孝行が、出来たかも……?
クリスマスプレゼントを貰ったのは…
僕の家族かも知れないな……なんて、感謝し…
僕も、やはり、凜と睦美を自慢に思ったんだ。
睦美が、興奮に顔を薄ら赤くしながら……
「連。美味しい!楽しい!夢みたいっ。」
僕に、言った。
「ハハハッ。楽しくて、良かった。――もっとも…一番、楽しんでるのは……父と母だけどね!」
と、僕も言い……
「本当に、綺麗だよ。睦美……自慢の嫁さんだ。」
睦美に、微笑み掛ける……
「シンデレラに、なった気分!……醒めないよね?夢じゃ無いよね?」
と、不安気になる……
「ああ、残念ながら…… 一生、醒めないね!」
と、僕は、睦美の肩を抱く。
「しかし……連の予想通り!――凄い、量の服だったね!私、驚いてさ……」
言う。睦美に……僕は、首を振り。
「僕の予想の半分以下だったよ。遠慮したんだと思う。――明日には、デパートに連れて行かれるよ。きっとね!覚悟してね。ご苦労様。ハハハッ。」
笑い、言った。
「……嘘でしょ?あれ以上……?」
と、睦美が、呆れる。そして…
「私…お母さんが、凜に話してくれた、言葉を聞いて……本当に、この両親と、住みたい!って…連の実家を選んで正解だ!って…つくづく思った。」
と、僕に微笑み掛けた…
「睦美、凛も…日々の中で学ぶんだよ。――僕も、親孝行出来て、最高だよ!有難う。」
僕も、微笑み返す。
何処かの……奥様が…凜に、話し掛ける……
「お爺様が、立派な方で自慢ね!僕?」
と……凛は……
「じいちゃんは、偉いけど……皆のお陰で、じいちゃんのホテルが有るんだぞ。なっ。ばあちゃん!」
と、母に振り…答える。
父が、今度は……凄い、驚き……
「う…ウチの孫は、最高だっ!ハハハッ。」
凛を……高く、高く持ち上げる…
「ハハハッ。じいちゃん、危ないだろう!ハハハッ」
凜が、はしゃぎ、笑う。
母と睦美は、同じ仕草で……深く、頷いていた…
ブラブラと、皆で、父と凜の後を行く。と……
ケーキのコーナーで、可愛らしいドレスを着た、小さな女の子が、ケーキを選んでいた……
「さあ、凜君も、選んで良いんだよ!」
言う。父に……凜が…
「じいちゃん!レディーファーストだぜっ!」
と、偉そうに言った。
これには、睦美や母も、勿論。父も驚き……
「なっ。連。レディーファーストだよな。」
僕にも、凛は、言う。
「そうだよ。凜。それで、良いんだ。ハハハッ。」
父が……僕を見て……
「良い。父親だ。連。――初めて、見直した!」
と、微妙に褒めた。
母も……「初めて、連チャンを偉いと、思ったわ…」
と、益々、微妙に褒めた。
「これが……日々の中で、学ぶ事……なんだ…」
睦美は…そっと、呟いていた……
僕は……皆とは、逆に…
凜の前で、下手な事は出来ないな…
と、緊張感を持ったんだ……
凛には、人に響く素敵な事だけを伝えたいと……

帰りの車の中で……
凜が……
「じいちゃん、ばあちゃん、連の家の風呂は、凄いんだ!ブクブクで、大きいぞ。」
と、言い出した……
父は、得たりと、言う顔をして…
「凜君。じいちゃんのウチの風呂はもっと凄いぞ。連の家の倍以上は有る!」
と、張り合う……呆れた…
「やっぱりね……」
睦美が、呟く。
「えーっ!凄いなっ!オレ、楽しみだ!じいちゃん一緒に、入るだろ?」
と、父をデレデレにする。
やはり、デレて……
「勿論さっ!じいちゃん、楽しみだ!」
と、言う。
母は、負けては、いけないと……
「凜ちゃん、プールも有るのよ!ばあちゃん、いつも、泳ぐのよ!」
と、凜の答えを促す……
「やっぱり……」 睦美が、又、呟く。
「えーっ!おい。家にプールも有るのか!えーっ!オレ、ばあちゃんに、混ぜて貰う。一緒に、泳ぎたい!良いか?」
凜が、母の誘導尋問に乗った……
「勿論!ばあちゃん、楽しみだ!ハハハッ。」
と、ご満悦の様子だ。
「あの…私も混ぜて下さい!――美味しい物を食べ過ぎて……太りそうなんで……」
睦美が訊き…
「勿論よ!そう思ってね!部屋に水着も用意して有るわ!楽しみ!――連チャンも楽しみね。水着!ハハハッ。」
母が、お茶目な事を言い出した……
「そ…そうだね。ハハ。」
僕は、正直……楽しみだった……ハハ。
家に着き……
「じゃあ、お風呂に入るか…凜君。」
父が、誘い。二人は行った。
「母さん。睦美と二階で片付けてるよ。」
と、声を掛け……睦美と二階に行く。
「ここが、私達の部屋なの?」
睦美が、訊いた。
「そうだよ。狭い?そこに、一応、お風呂も有るし、トイレはそっちね。ベッドは、キングサイズより、大きいから……余裕だよね?」
僕は、睦美に説明をした…
「はぁー。下手なマンションより、大きいよね……」
睦美は、色々、開けて見回した。
「そこのドアを開けると、隣の部屋に繋がってるから…凜が、大きくなったら使えるし…。ねっ。」
僕は、睦美に寄って行き、キスをする。
「ドレスのチャックおろして…連。」
睦美が、言う。
「ああ…」 僕は、チャックをおろして……
背中にキスをした……
睦美と抱き合い……キスを交わし……
ベッドに倒れ込んだ……ドレスを脱がせ……
「おい。睦美!大変だぞ!睦美!偉い事だ!」
凜の声が聞こえ……
「凛坊ちゃん、お待ち下さい!凛坊ちゃん!」
追い掛けて……メイドの声がする。
僕達は、慌てて、起き上がり……
睦美は、ドレスをドレッサーに掛けてる、振りをするし…
僕は、膝の上にバックを置き……中をゴソゴソ掻き回している、振りをして……
自分自身……を落ち着かせる。
ガシャっと扉が開き……
バスタオルを持ち、凛を追い掛けて来たメイドと凜が、入ってきた……
「し…失礼致しました。――凛坊ちゃんの髪を乾かさないと……」
と、メイドが頭を下げた。
「おい。凄いぞ。睦美!幼稚園のプールより、デカい風呂だ!凄いぞ!――連と入って来いよ!オレ、ばあちゃんと、お茶してるから!」
と、興奮して言う。
お茶してる。って……母さん……
「凛坊ちゃん。先ずは、お髪を乾かさないと…」
メイドが…困って言う。
「君が、凜のお世話係かい?」
僕は、訊く。
「はい。不慣れですが…宜しくお願い致します!」
若いメイドが、顔を赤くしながら言った。
「宜しくお願い致します。――大変でしょうが…」
と、着替えを終えた、睦美が頭を下げた。
「凛、この人が、これから、凜の事を面倒見てくれるからな。良く言う事を聞いて。ねっ。」
僕は、凜に、言い聞かせる。
「おい。オレは、凜だ。――名前は?」
凛は、メイドに訊く。
「はい。花です。凛坊ちゃん。」
と、メイドが、答えた。
「花か……。うん。解ったぞ。連。オレ、花の言う事を聞く。なっ!」
凛は、僕と花を見て言った。
「じゃあ、睦美、お風呂に入ろうよ!」
僕は、睦美に言う。
「え…お母さんより、先に……?」
睦美が、躊躇した……
「ああ、あの人、朝風呂なんだ。気にしないで。じゃあ、僕達は、風呂に行くから、凜の事、宜しく」
僕は、花に言い。――睦美を誘う。
「畏まりました。」 花が言い……
「おい。睦美!マジで、腰抜かすなよ!本当に、凄いからな!風呂。ハハハッ。」
凜が、騒ぐ……
「腰抜かす……ハハハッ。」 花が笑った。
「笑い事じゃ無いぞ。花っ!オレ、びびったもん!」
と、凜が、目を丸くして言う。
「全く!聞かなかったら、厳しく叱ってね!花ちゃん!宜しく。ハハハッ。」
と、睦美は、言い。――僕達は、風呂に向かった…
一階で、睦美が、母に声を掛けに行く……
父も居て……「ああ、睦美さん、凜君は、凄いね!何でも自分で、出来る!――背中をね、洗って貰ったよ。ハハハッ。」 ご満悦の様子だ…
「パパったら、ズルいんだから!私、これから、凜ちゃんと、お茶するから……睦美さん、気疲れしたでしょう?慣れない事、ばかりで……ゆっくりと、入ってね!」
母が、睦美を気遣う。
睦美は…父に……
「お父さん、ゆっくり入れなかったんじゃ……凛、騒がしいから…スミマセン。――」 言い。
母の方を向き……首を振りながら……
「お母さん、気疲れなんて…私、嬉しくて、楽しくて!美味しくて……幸せでした。――ゆっくりと、入らせて頂きます。凛を宜しくお願い致します。」
と、言って……頭を下げた。
今度は、父が、首を振り……
「もう、家族なんだ。宜しくお願い致します。――なんて…言わんで良いんだよ。凜が、自慢で仕方ないんだ。母さんも私もね!ハハハッ。」
「こんなに、幸せなのは、連の小さな時、以来かしらね……パパ!――孫は、子供より、可愛いって人からは、聞いてたけど……予想以上だわ。本当に、目の中に入れても痛くないかも!ハハハッ。」
母も、言い。笑った。
「天国の姉と義兄に……聞かせたいです。――凛は、こんなにも、愛されて幸せに、暮らしてるって……私……私。」
睦美が、泣き出した…僕は、睦美の肩を抱き……
「睦美と暮らしてた時から、凛は、愛されていたじゃないか。――人数が増えただけだよ。――甘やかされる。人数がねっ。ハハハッ。」
と……
「おい!花に乾かして貰ったぞ!」
「お待ち下さい!凛坊ちゃん。危ないです!走らないで……ハハハッ。」
賑やかに、凜と花が入って来た……
「ほら、ここにも……凜に、甘いのが居るよ!」
僕が花を見て言う。
「ハハハッ。」
睦美も皆も、笑った。
「おい。楽しそうだな?オレと花も混ぜろ!――睦美、まだ入って無いのかっ!早く、入れ!凄いんだから!こーんなだぞ!」
大きく手を広げて……
「なっ!じいちゃん!」
と、父と母の間に割って入った。
「ああ!凄いんだから、早く入りなさい。ハハハッ」
父が、凜の頭を撫でながら、笑う。
「はい。じゃあ、凄いの見てくるね!凜。ハハハッ」
睦美と僕は、風呂に向かった……
「……やっぱり……」
睦美は、何回目かの呟きをした。
僕が睦美の裸を見ている事にも……気が付かない…
「いや……世の中には、こんな暮らしをしている人が、存在するんだね……このお風呂に毎日入れるだけでも、連と、結婚して良かったよ。私。」
終いには、真顔で失礼な事まで言い出したよ……
「有難う。」 僕は、嫌味を言った。
「ハハハッ。冗談だよー。連。」
いや……どーだかな……?
僕は、そよそよと風呂の中を、睦美に近寄り……
睦美を後ろから抱っこした。
睦美が振り返り……僕にキスをする。
「続きは……又ね。ゆっくりと、ベッドで…」
「そう…遠く無いかもね……「じいちゃんと、ばあちゃんと、寝るよ!オレ。」って、今にも言いそうだもん。凜!ハハハッ。」
「ハハハッ。言いそう!楽しみに、しようね!」
「うん。楽しみにしてる。僕。」
と、睦美に、キスをした……

次の日、僕も、付き添い。――連を幼稚園に送る。
凛は……運転手に…
「お早う。オレ、凜だ。――何回も会ってるな?名前は?」 と、訊く。
「はい。凜坊ちゃん。寺田です。」
運転手の寺田は、微笑み、答えた。
「うん。寺田だな。解った。」
凛は、頷き……言う。
幼稚園に着き……
「行って来ます!寺田。又、後でなっ!ハハハッ。」
と、寺田に手を振る。
「ハハハッ。行ってらっしゃいませ。凛坊ちゃん。」
寺田も手を振った。
睦美が…苦笑して…
「スミマセン……」 言うと……
「いえいえ、実に、利発で可愛らしいです。凛坊ちゃんは。旦那様が、ご執心なのが良く解ります。」
と、頭を下げた……
又、凛信者が、増えたな……僕は思った。
幼稚園では…先生方や園児の親が、リムジンから降りた凜に、驚いたが……
「お早うございまーす!」 
凛は、普通に入って行った。
僕達は、事務室に行き、結婚に伴い…苗字が変わる事を話した……
園長先生は…
「あの…二階堂さんって……あの…二階堂グループの……?」 と、言った。
「ああ、父の会社です。ご存知ですか。」
と、僕は言った。
「はぁ……勿論。存じておりますが……このまま、この園に、通われる…?と……?」
睦美が…
「ええ、義父と義母とも、そうしよう。と、話しまして……」
言った。
「はぁ……。私立の有名幼稚園で無く……?」
園長先生は…唖然として言う。
「関係無いです。父や僕の会社と、凛は、関係無いんです。――今まで通り、普通の園生活を送らせて下さい。何も他の子と変わりは無いんです。」
僕は、言い……睦美も。
「私も、そんなの、知らないで結婚したんですよ。戸惑も有りました。でも!本当に、普通の家族で、驚いた。」
睦美は、続け……
「園長先生は……企業人としての、義父の事をご存知かもしれませんが……私は、知らなかったので。家では、ただの孫馬鹿だから。ハハハッ。会えば驚きますよ!きっと。」
睦美が笑い……僕も……
「普通の家の、孫馬鹿な、じいちゃんと、ばあちゃんです。ハハハッ。」 笑った。
園長先生も、気が楽になったらしく……
「ハハハッ。解りました。特別扱いはしません。――今度、運動会で、お会いするのが楽しみです。孫馬鹿の二階堂さんを見られるのが!ハハハッ。」
と、笑う。
話しを終え……遊んでいる凜に……
「じゃあ、凜。後で、寺田を寄越すからね。」
と、言う。
「うん。後でなっ!連。睦美も、後でなっ!」
凜が、手を振り……車に向かい……
「寺田ー!後でなっ!」
と、叫んで、寺田を驚かせた……ハハ。

お披露目のパーティーが、開かれ……
僕は、タキシード、睦美は、シンプルなウエディングドレスを着た……
凛も、白のタキシードをいっちょ前に着こなし……父に抱かれ、連れ回されて……
母は、睦美にずっと付き添っていた。
やはり……中には……
「睦美さん、どちらの大学をご卒業かしら?」
などと…古臭い事を言出す、輩もいる……
「私、大学は出ておりません。大型のトラックに乗っていたんです。」
睦美は、臆すること無く答える。
母が…
「ウチの嫁は、よそ様より、カッコ良いんですの!ハハハッ?」
と、笑い飛ばす。
「坊ちゃんは、どちらの幼稚舎に?」
訊く、何処ぞの輩に……凛は……
「若葉幼稚園のリス組だ。」 と、答える。
父は…
「ウチの孫は、くだらない私立などに、興味が無いんでね。ハハハッ。」
と、笑い飛ばす。
全ては、この調子で……無事…?パーティーは終わった。
一ヶ月後には、幼稚園の運動会が有り。
忙しい、父に……凜が……
「じいちゃんは…忙しいから、無理だろ?連が、言ってたぞ。」
と、言い……父は…
「なにっ!行くに決まっとる!どうせ、凜君の学芸会中に…仕事などしておれん!私は、行くぞ!」
と、僕に食って掛かる……
「ハハハッ。良かったね!凜。」
呆れて……言う。
「お母さんも、勿論。行けますよね?」
睦美が、訊いた。
「ええ!スポーツウエアーを新調してみたわっ!」
母さん……貴方は見るだけですが……
「えーっ!じゃあ、私も買おう!ハハハッ。」
いや…睦美、お前も見るだけだよ……
「じゃあ、私も、母さん。準備してくれ。」
父さんまでか……
「あら!連だけ、仲間外れは、いけないよね?準備するよ。」
睦美が、言い出した……もう、勝手にしてよ。
「ああ。」 僕は、諦めた…どうせ、聞きやしない…
「良かったぞ。じいちゃんと、ばあちゃんと、やるのが有るんだ。オレ、諦めてたから、嬉しいよ!」
凜が、言った。
「凛、僕と、睦美じゃ無くて?……両親と、じゃ無くて?じいちゃん達なの?」
僕は、驚いて訊く。
「うん。親よりも、楽しみで、来るからだって……先生が、言ってたぞ。」
凜が、答え……父が……
「ハハハッ。今の時代の園は、粋な計らいをしよるな!うーん。良く考えている。」
と、妙に納得する。
「今までは…?」 睦美に訊いた。
「全ー部、一人で、参加してたのよ。勿論。両親のもね!そういう人も居るし……」
睦美は、言う。
「えーっ!両親のも、有るの?」
僕は、驚いて、訊いた。
「あのねー。お遊戯意外に、小さい子供達が出来る事は、少ないでしょ?殆ど、参加型だよ。」
肩を竦め答えた。
「よし!今年からは、安心して、任せなさい!睦美さん。なあ、母さん?」
大張り切りの父が、言う。
「勿論よ!誰にも、負けないわよ。凜ちゃん!」
母は、合戦にでも、出向く勢いだ……
何……?スポーツウエアー必要じゃないかっ!
「嬉しいぞ!オレ。睦美、嬉しいなっ!」
凛は、ハイテンションになる。
「やったね!凜。ハハハッ。楽しみです。」
睦美も、ハイテンションだ……
当日。――
「行ってくるぞ!寺田!又、後でなっ!」
凜が、声を掛け……全員で、車を降りる……
「行ってらっしゃいませ。凛坊ちゃん!」
寺田が、手を振った……すっかり、凜のペースだ…
運動会が、始まり……遊戯が行われると……
園長先生が、父の横に来た……
「見て下さい!ウチの凜が、一番、上手い!」
と、父が、言う。
「……ハハハッ。本当だわ……」
園長先生が、笑い、睦美に言う。
「ハハハッ。でしょ?」
睦美は、笑う。
その後も、他の祖父母達と、張り合い、泥だらけになって遊ぶ父と母や、僕達夫婦を見ていて……
園長先生が……僕と睦美に…
「私、恥ずかしいわ…世間の評価に惑わされて、別の目で見たりして……御免なさいね。」
と、頭を下げ……
「企業が、大きくなったのは、二階堂さんの人徳ね。きっと。奥様も素敵な方。――凜君が、以前と、何も変わらない理由が、よくわかる!」
と、言った。
睦美は、自慢そうに言う……
「ねっ。素敵な、両親で……この人も、そうなんです。偉ぶらなくて……だから、何も、知らないで、結婚しちゃった。ハハハッ」
と、笑う。
「本当に、良い勉強をさせて頂いたわ!ハハハッ。」
園長先生も、笑った。

それから、二年が過ぎ……
「オギャーオギャー!」
「おい。連。生まれたぞ!生まれた!」
「ああ、凜!お兄ちゃんだな。行こう!」
「おめでとう御座います。可愛い。男の子ですよ。」
医師が、言う。
「連。抱いて見て。――凛も来て。」
睦美が、言い。
「あ…有難う。睦美!有難う。」
僕は、泣いて……我が子を抱いた。
「ほら、お兄ちゃんだよ。」 と、凛を見せる。
「うわー。小さいな。小さいよ…連。」
と、凛は、怖々と手に、触れた……
僕は、両親に、出産を知らせた。
勿論。大喜びだ!――睦美に、宜しくと言った。
名前を「善」  と、名付けた。
凛は、今年から、小学校だ。
近所の普通の小学校に、入学した。
幸せな月日が流れ……
「凛兄ちゃん!ブレックファーストだじょっ!早くしろよ。オレ、ハングリーだ。」
善が言う。
「ハハハッ。善。オレも、ハングリーだぞ。行こうぜっ!」
凛は、答えた。
二人で手を繋ぎ、部屋に入る。
「お早う。凛、善。」 父が言う。
「あーっ!お早う。じいちゃん!今日は、一緒に、食べれるんだ!やった!」
凜が、父に抱き着いた。
「ハハハッ。凛、重くなったなー!」 父が、笑う。
「お早う!じいちゃん、善も、善も。」
善が、手を伸ばす。
「ちょっと……おじいちゃんが、大変でしょ?席に着きなさい。」
睦美に、叱られる。
「ば…ばあちゃん…!凛兄ちゃんが…ママが……」
善が、母に泣き付く……
「はいはい。大丈夫よ。善ちゃん。」
母が、善を、抱っこした。
善は、泣き虫で……少し、気が弱い……
「又、だよ!おい。善、男の子は、泣いちゃ駄目だぞ!強くて、優しくなきゃ……モテないぞ!」
凜が、偉そうに言う……モテないぞ…って……
「ハハハッ。じゃあ、凛は、モテるな?」
僕が、訊く。
「……まあね…」 凜が、小さく答え……
「ハハハッ!」 全員で、爆笑する…善も、笑った。
「は…花!オレは、お兄ちゃんだからな。自分で、出来る、善を頼むなっ。」
話しを反らす為、凜が花に言う……
「ハハ。畏まりました。凜坊ちゃん。――」
花は、苦笑し……善の方に行く。
賑やかな、変わらぬ毎日は続いていた…
変わった事と言えば……睦美かな?
睦美は、すっかり母と仲良しで…影響も有り。
茶道、華道、英語、フランス語と、お習い事に目覚め……本来の頑張り屋も、手伝い……
メキメキ上達している。――必要だからじゃ無く…自分がやりたいのだ。
と、言われ……僕は、好きにさせている。
たまの、週末には、睦美の実家に家族四人で、泊まりに行くが…換気を終える夕方頃には……
「あーっ!一人だと大変!お母さん!助けてー!」 睦美が、言い。
「おい。じいちゃん、今日、アメリカから、帰るって言ってたな!――オレ、じいちゃんに、会いたいぞ。じいちゃんも、なっ。」 凜が言う。
「ばあちゃん…どこ?ばあちゃんは……」
善が、泣きそうになり……
僕は、「……」――寺田を呼ぶ……
すっかり、…六人家族だ……
僕は、嬉しい反面、誰も僕の事を言ったり、頼ったりしない事が不満で……拗ねていた。
そんな、僕を見ていた睦美は……
「この幸せが有るのは、連のお陰だね。――今夜は……凜と善を、お父さんと、お母さんに、任せて……」 と、僕の耳元で……
「二人で寝ようか……ハハ。」 と、囁く……
僕の喜ばせ方をすっかり、心得ているなっ……!
と、思いつつ……
「えぇ……そおー……だね。」
と、モジモジ、デレる……嫁馬鹿な僕だった。

白いドレスに身を包み……緊張顔の真紀に、睦美は言う……
「大丈夫よ。真紀さん。――おばあちゃんと、私に任せておけば、怖い物無しよっ!――凛も着いてるじゃない!リラックス!」
バシッと真紀の背中を叩く。
「あっ。ハハハッ。そうですね!カッコつけても…これまでの人間ですもん。私!ハハ。」
凛は、26歳になり、真紀さんと結婚をした。
今日は、その、お披露目会だ……
動物園で、出会い……一週間で、結婚を決めた。
真紀さんは、施設で育ち…魚市場に勤める女性だった。――やはり、凛を取り巻く家族を知らず……
結婚が、決まってから……唖然としたらしい……
まだまだ、古い考えの、輩は存在する…
「真紀さんは…どちらのご令嬢?――大学は何所かしら?」
決まり文句を、投げ掛ける……
「私、施設で育ちました。大学は出ておりません。魚河岸で、働いていたんです。」
真紀は、臆さず答える。
「ハハハッ。ウチの嫁は、よそ様より、威勢が良いんですの!」
睦美が笑い飛ばす……
「ウチの孫は、何処ぞの令嬢なんかに、興味が無いものでね。ハハハッ。」
母が、締めくくった。
真紀は、近寄った凜に……
「凛……私、凜に逢えたのもだけど…凜の家族に逢えた事を心から感謝する!――素敵な、家族を有難う。」
と、言い。涙ぐんだ。
「真紀……そう言ってくれて…有難うなっ。――オレの…自慢の家族なんだ。ハハハッ。」
凛は、真紀の肩を抱き……笑って言った。
睦美が、僕に寄り……
「連。懐かしいな……真紀さん。私と同じだねっ…なんか、――昨日の事の様に思い出すよ!ハハ。」
と、懐かしみ言う。
僕は…驚き……
「睦美の時、母さんも、同じ事言った。ハハハッ。」
と、笑い、睦美の肩を抱く。
真紀さんの、たっての希望で……凜夫婦は……
僕の実家に住む事になった。
一人増え、益々賑やかな、二階堂家になるだろう…
そう。善は……と、言えば……
「引き続きまして…二階堂善様より、――凜兄ちゃん、結婚おめでとう!アジアの地より……」
そう。何故か、アジアにハマり……
放浪の長旅に出ている……
今、何所に居るやら……次は…国際結婚とか……
昔、僕の真っ暗な心に――突然飛び込んで来た…
睦美と、凜。……僕達は、日々の中で、学び、喜び、楽しんで……家族になり……又、家族が増え。愛する人の居る事に、幸せを感じるのだろう……
過ぎゆく、日々の中で。――







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