【ブルアカ】考察:各学園のモチーフについて(トリニティ編)
3 トリニティ総合学園について
《トリニティ総合学園》
モチーフ:聖書と悪魔の記述を除く、キリスト教
神話
結論から言います。トリニティ総合学園のモチーフは、イギリスモチーフでも、バチカンモチーフでもなく、キリスト教の神話です。
「聖書を除く」という記述が気になった方もいらっしゃると思います。ですがまずは、国ではなく神話を基準とすべきと考えた理由から、説明していきたいと思います。
1. グレゴリオの存在
トリニティ総合学園のスチルとして重要なものの一つに、ティーパーティの2人が対峙するこちらがあります。
もちろん、セイアがいないティーパーティという点でも重要ですが、世界観的には背景の時計塔が特に重要です。
この時計塔は、現実でビッグベン(エリザベス・タワー)と呼ばれている、英国国会議事堂の時計塔に酷似しています。つまり、どう見てもイギリスです。
また、「ティーパーティ」という名称や、生徒の紅茶好きを強調する描写も、紅茶の国とも呼ばれるイギリス的です。
では、トリニティ総合学園のモチーフはイギリスなのでしょうか?
そう結論づける大きな障害となるのが、グレゴリオの存在です。
前の記事で書いたことをおさらいしましょう。グレゴリオとは、大抵、グレゴリウス1世のことを指します。
グレゴリウス1世は四世紀ごろのローマ教皇で、カトリックの四大教父の1人です。教父とは賢くて偉い神学者のことで、その中でも特にすごかったのが四大教父でした。
ラテン教会の四大教父は
・ヒエロニムス
・アンブロジウス
・グレゴリウス1世
・アウグスティヌス
とされていて、その全員が聖人として尊敬されています。
その中でも、グレゴリウス1世は事実上最初の教皇であり、ローマ教皇の地位を確固たるものにした、とてもすごい聖人です。
現代のイギリス国教会の礎になったのも、グレゴリウス1世です。
実は、6世紀の時点で、イギリスにもキリスト教は広がっています。しかし、その多くはアリウス派(アリウス分校の元ネタ、異端)であり、また従来のケルト神話と融合したケルト系キリスト教まで生まれていました。
そこで、グレゴリウス1世は部下のカンタベリーのアウグストゥスをイギリスに派遣します。
グレゴリウス1世は、布教を強引に進めるのではなく、在来のケルト系キリスト教を尊重しつつ、ゆっくりと広げていくという手段を取りました。これが功を奏したのかはわかりませんが、最終的には、イギリスにもカトリックが広がり、アリウス派は駆逐されたのでした。
このあとなんやかんやあって16世紀ごろにイギリス国教会が誕生しますが、それは割愛します。
重要なのは、グレゴリウス1世がイギリス国教会の歴史において、非常に大事な人物であることです。
前の記事で結論づけた通り、グレゴリオはグレゴリウス1世と見せかけたグレゴリオ聖歌モチーフのキャラクターだと考えられます。もしも、イギリスがトリニティ総合学園のモチーフであれば、グレゴリウス1世という超重要人物の枠を、名前がついてるだけで特に関係ない聖歌に使うでしょうか?
否定するに足るわけではありませんが、気になるところではあると思います。
そんな折にやってきたのが、隠されし遺産を求めて~トリニティの課外活動~でした。
地中海のレモン
このイベントで注目すべきは、なんといってもレモンです。
レモンは寒さに弱い植物で、緯度が高い場所ではうまく育てられないことが知られています。ヨーロッパでは、地中海性気候のイタリアやスペインなど、暖かい地域での栽培が盛んです。日本では、広島県の瀬戸内産レモンが有名ですね。
そう、レモンは、イギリスでは育たないのです!
もちろん、イギリスでレモンが食べられていないわけではありません。イギリス生まれの甘酸っぱいクリーム、レモンカードは、現在も各国で愛されています。マクベスにも登場するデザート、ポセットだってあります。
でも、レモンは、イギリスでは育たないのです!
イギリスでないと考えると、隠されし遺産を求めて~トリニティの課外活動~の舞台はどこにあたるのでしょうか。
私は、これがイタリアの離島であると考えます。
ヨーロッパの離島で、レモンが有名なところと言えば、まずシチリア島と見て間違いないでしょう。日本のスーパーなどでも、シチリアレモンを使ったお菓子やレモネードが売っていますよね。
シチリア島は歴史的に非常に重要な島です。というのも、さまざまな文化圏の交錯する位置にあり、いろんな陣営の人々に征服される歴史を辿ってきたからです。
ギリシア、ローマ、イスラム、フランス……ありとあらゆる陣営に占領されたシチリア島には、当然ながら数多くの遺跡があります。もちろん、交通の要衝として灯台もたくさんあるので、隠されし遺産を求めての舞台にかなり近いのではないでしょうか。
その上で「イタリアの離島」としているのは、ボスキャラクター「フラヴィア」の存在によります。
フラヴィアは聖人フラヴィア・ドミティラがモチーフであると推測されます。聖ドミティラは、ローマ皇帝ウェスパシアヌスの孫にあたるローマ貴族の女性です。まだキリスト教迫害が強かったローマで、それでも信仰を貫いたので、ポンツァ島に追放されて斬首刑により殉教しました。
そのポンツァ島というのが、シチリア島と同じイタリアの離島である、というわけです。
ローマのあるイタリアは、かのネロ皇帝などの存在もあり、殉教者の聖人が多いです。離島に流刑されたキリスト教徒も少なからずいるため、シスターフッド管理であることを踏まえ、流刑された聖人たちの島をひっくるめて、イタリアの離島と考えたのでした。
3. では、トリニティはどこなのか?
さて、以上により、トリニティ総合学園には、少なくともイギリスとイタリアという2カ国の地域がモチーフとして出現していることが分かりました。
注目すべきは、イギリスもイタリアも、イギリスにはケルト神話とドルイド教、イタリアにはローマ神話とウェスタの処女など、キリスト教以外の在来宗教が存在していたことです。
日本モチーフの百鬼夜行連合学園が、日本の歴史に強い影響を与えた仏教を廃し、完全に日本神話や神道などの在来宗教をモチーフとしていることを考えると、トリニティ総合学園がイギリスやイタリアをモチーフにしているとは考えられません。
では、何をモチーフにしていれば自然なのでしょうか?
それに該当するものこそが、「聖書の記述と悪魔を除くキリスト教神話」なのです。
4. キリスト教神話
この記事におけるキリスト教神話とは、民俗学的側面から見たときの、キリスト教の神話・伝説・寓話・口承を指します。
神話学や比較神話学における、「神話と見たときのキリスト教」であって、聖書を架空のものとみなす「キリスト神話説」ではないことに注意してください。
例えば、聖書の「洪水伝説」は他の様々な神話でも見られるモチーフです。洪水を船に乗って生き延びるノアが、他の神話ではウトナピシュティムやアトラ・ハシースとして登場することは有名です。
ただし、その聖書のモチーフは、前の記事でも書いたように、連邦生徒会やD.U.、名もなき神の司祭など、もっとブルアカの根幹となる設定に使われているようです。
実際、直接聖書にまつわると考えられる設定は、トリニティ総合学園には出てきていません。ヒエロニムス・三大天使・アリウス派・「パテル」「フィリウス」「サンクトゥス」などの用語は、実は聖書に出てこないのです。
では、何に出てくるのかというと、それはやはり、「聖書の記述以外のキリスト教神話」になります。
例えば、三大天使の思想は、「ディオニュシオス文書群」と呼ばれるアレオパゴスのディオニシオが書いた……と見せかけて実はその偽物が書いていた神学文書から来ています。
このような、よく分からないが慣例上そういうことになっている神話・伝説は、キリスト教にたくさんあります。
ただし、それはキリスト教の悪いところではありません。むしろすごいところです。
キリスト教は広まっていくにつれ、たくさんの在来神話・哲学思想と融合していきました。先のディオニュシオス文書群も、キリスト教がギリシアのプラトニズムと融合して生まれたものです。
「黄金伝説(レゲンダ・アウレア)」などの聖人伝により聖人の存在が周知され、火を盗むトリックスターの神話と融合して、聖人が火をもたらす民話が生まれたり。カトリックの諸聖人の日が在来の儀式と融合して死者の日になったり。そのような、変質したカトリックをも、フォーク・カトリシズムと呼んで許容しているからこそ、キリスト教神話は大きく成長したのでした。
逆説的ではありますが、だからこそ、トリニティ総合学園は「総合」的なのであり、たくさんの派閥がまとまったマンモス校なのではないでしょうか。
結論
以上により、トリニティ総合学園のモチーフは聖書と悪魔の記述を除く、キリスト教神話である、と考えます。
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