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ヒッチハイク旅 家の前から北海道編。(1)


ある夏に僕は北海道で二週間の無賃労働をするためにとにかく北へ向かっていた。

一ミリでも先に、タダで、進みたかった。

なぜなら現地までの交通費が支給されないからだ。

そして僕は金欠だった。

だから家の目の前でスケッチブックを掲げて、ヒッチハイクを始めた。

もしこの時の僕に助言できるならこう言いたい。

「お金がないならお給料も交通費も出るところでバイトをしなさい」。

しかし若さに理屈など通用しない。

友人に誘われ、広い空と限りない大地に囲まれた夏の日々をともに夢見て、その友人がドタキャンしても僕には行かないという選択肢はなかったのだ。

このハードモードの夏休みを送る上での困難は金銭問題だけではなかった。

時間も足りなかったのだ。

当時大学生だった僕は後半の学期を休学しようと考えていた。

その休学の申請に伴って、大学教授との面談がセッティングされていたのだ。

到着予定日の前々日に。

ちなみにこの日にセッティングしたのは僕だ。

致命的なスケジューリング能力。

そういったわけで長野県にいた僕は翌々日に帯広にいなければいけなかった。

面談は確かお昼に行われ、1時間後には終了した。

(この時面接してくれた教授もかっこいいおとなだった。Vol 2.はこの人にしよう。)

明後日の深夜につくとしても、残された時間は約2日半。

いくらスケジューリング能力が低い僕でも、明後日の予定くらいまでなら立てられる。

まずはグーグルマップで最短時間を調べよう。

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ふむふむ、約20時間か。

2日半=(24×2+12)時間=60時間。

ということは、(60-20)時間=40時間が余るわけか。

なんだ、思ったより時間があるじゃないか。

北海道も少し観光できそうだ。

というわけで、ベトナムで知り合った北海道の友人に連絡を取った。

「明後日くらいに北海道着くから遊ぼうよ!」

友人は快く僕の誘いを受け入れてくれ、札幌で落ち合うことにした。

ヒッチハイクで行くことは伝え忘れていた。だが、ちゃんと予定の時刻に札幌につけば問題はない。

面談を終えた僕はまず家に帰りバックパックを背負い、家の前の路上に出て威勢よくスケッチブックを掲げた。

だが、ここで現実的な問題に直面する。

家の前には車がほとんど通らない。

住宅地にある細い路地なので、この付近の住人しか出入りしないのだ。

さすがにこれでは日が暮れると思い、一つ先の車通りの比較的多い道に出た。

といっても所詮長野のただの車道だ。車通りが多いわけではない。

通りすがりのおばあちゃんと会話をしながら30分ほどが経過していた。

基本的に人はしばらくの間変化や結果が出ないと不安になる。

未来を想像してしまうからだ。

この先の30分も、1時間も、何時間も車が来なくて、目的地に着けないんじゃないか。

そもそもバスや電車じゃないんだ。誰かが乗せてくれる保証なんてどこにもない。

そんな不安はどこにだってある。

今に始まったことじゃない。

人生いつでもそんなものだ。

今に集中して、なぜうまくいかないのか考えて、仮説を立てて体当たりしていく。

それしかすることはない。

なんてかっこつけて考えていると、ある車が目の前、というか少し先で止まってドライバーが中から手招きをしている。

どうやら乗せてくれるみたいだ。

なにもしなくても助けてもらえることもある。これも人生。

急いで駆け付けドライバーに挨拶をする。

うっすらとある笑い皺に優しさがにじみ出る若い女性だった。

「さっき通りすぎたんだけど、一周してまた戻ってきたんだ!まだいたら乗せてあげようと思って。」

彼女は子供を学校に送る途中で、助手席には息子が座っていた。

少し恥ずかしがりだったのか、目は合わせてくれなかったが名前を教えてくれたので、僕も名乗りつつ簡単に自己紹介をした。

ひとまず最寄りの駅に向かってもらうことにして、雑談に花が咲く。

「そのリュック10キロもあるんだー。うちの下の子より少し重いくらいかな。」

なんて彼女は言っていたのを聞いて、世のお母さんはこんな重いものを背負っているのかと驚きとともに尊敬の念を抱いた。

また、彼女は子供を送り届けたあとに働きに出るらしい。そのあとも夜は異居酒屋で働くこともあるようだ。

きっと誰かの幸せのために頑張って働いているんだろう。そんな生活の中でも見知らぬ他人を車に乗せてくれるやさしさに本当に頭が下がる気持ちだった。

授業料を出してもらって、好き勝手生きている自分が恥ずかしくなってきた。

僕の話に大きくうなずいたり笑ってくれる気遣いのお影でとても心地よい時間が流れた。

そうこうしているうちに駅に着いた。

お礼をいい、彼女の働くお店にいくことを約束して、車を降りた。

次の道を探さなければいけない。

ヒッチハイクでの長距離移動のカギは、高速道路に入ることだ。

一回高速道路に入ってしまえば、ほぼ目的地の方向に移動する車に高確率で遭遇することができる。

パチンコで言えば確変みたいなものだ。

なので、ヒッチハイクの実質上の最大の難関は高速道路に入るまでということになる。

しかしながら、ある条件が揃うと禁じ手を使いこの難関をスルーすることができる。

それは駅からSA、PAの徒歩での到達。

あまり知られてはいないが調べてみるとこのような駅を見つけることができる。

先ほど降りた駅から、この闇の道へ通ずる駅へは数駅。

これを使ってしまえばSAに直行だ。

ヒッチハイクの旅は終わったといっても過言ではない。あとはベルトコンベアーの上の部品よろしく、ただ北に流されていけばいいのだ。

しかし、このような技を使ってなおヒッチハイカーと胸を張って言えるだろうか。

答えは否。

だが問題はない。

そもそもただ金欠という理由でヒッチハイクをしている僕にそんなプライドはない。

なんの迷いもなく目的の駅へと直行したのだった。

だが地獄はまだ始まってもいなかったのだ。

後編へつづく。




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