連載・君をみつけるために 第五章:聖夜からの贈り物
過去投稿:2017/1/6
キラキラ。
これまでの自分の人生でも、こんなに煌びやかな景色にいるのは正直初めてだ。公園はイルミネーションに飾られ、綺麗だった。渋谷の代々木公園は青の洞窟というイルミネーション企画に染まり、大量の青い色LEDで、幻想的な風景が広がっていた。
そこで彼女を待っていた、まるで恋人のようだ。すると、向こうから彼女がやってきた。お気に入りのダッフルコートに中は赤いタートルネックと黒いスカートをはいていた。いつも甘えた彼女じゃなくて大人な女性の恰好だった。
「待った?」
「あんまり待ってない」
「良いのに、そういう常套句は言わなくても」
「普通に迷ったんだよね。渋谷はわからんわー」
「なんだよ、普通に迷ってたのか……ちょっと残念」
「そういえば、僕はここに来るだけでいいって言ってたけど、何をするの? お店の用意もいいんでしょ? なんかそれじゃ、僕がお礼されてるみたいだけど」
そう言って苦笑いすると、彼女は笑顔で答えた。
「大丈夫。ちゃんと用意できてるし、クリスマスイブに一緒にいれることが、一番のお礼だから」
「……え?」
「じゃ、行こっか?」
「お、おう。てか、どこに」
「渋谷エクセルホテル東急だよ」
「は?」
彼女は俺の手を握り、ぐいぐいと歩き出した。人ごみをにこやかに闊歩していく彼女とそれに引っ張られる僕はとても対照的だろう。
彼女に引っ張られて着いたのは、高層ホテル。僕はホテルの真下でその高層の建物を上から下までに、見とれていると彼女はその様子を見て、含み笑いをすると言った。
「行くよ!」
「あっ、はい」
彼女に連れられて入っていく。彼女は迷うことなくエレベータを見つけて、25階を押した。ぐんぐんと上がっていくエレベータが付いた先は、とんでもない高さにある料理店。後で聞いた話だが、地上100mにあるらしい。僕と彼女はそこにあるアビエントというフレンチに入った。彼女が受付で自分の名前を言うと、ザ・紳士みたいなウェイターが席まで案内してくれた。
「あのさ、大丈夫なの」
「え、何が?」
「ほらえっと、そのお金とか」
「大丈夫、あとで訳は話すけど、私もお金払ってないしね。それよりもしゃんとして! きょどってたら恥ずかしいでしょ?」
「うっす」
渋谷だけでなく、東京の夜景を一望できる席に座り、可愛い子とおしゃれなご飯を食べる。まるで夢のような一夜だ。何をどう間違えたら、こんな展開になったのか全く見当がつかない。コース料理でやってくる、前菜にスープ、魚料理と肉料理。そのお供にはワイン。本当に最高の夜だ。至福の時間が彼女の笑顔とともに去って行く。僕はこんなにも楽しくていいのかという背徳感の裏で楽しんでいた。食事が終わると、ウェイターがやってきた。
「近衛様、こちらがお部屋のカギになります。ごゆっくりお過ごしください」
「ええ、ありがとう。とてもおいしかったわ」
「ありがとうございます」
ウェイターが去って行き、僕と彼女も離席した。僕は少し早足で、エレベータに行って下へのボタンを押そうと思った。細やかなエスコートで少しでもお返しがしたくて、エレベータに入って一階のボタンを押そうとすると、
「あ、違うよ!」
彼女は押そうとする俺の右手を止めた。
「え?」
「こっち!」
彼女は23階へのボタンを押した。たった2階分降りただけでついてしまった。そこにはsweet roomと書かれた部屋があった。流石の彼女もためらいはあったみたいで何度か鍵番号と部屋番号を確認してから、その部屋の鍵を開けて入って行った。僕も唖然としながら、入っていくと大きな部屋があった。窓から見る景色は絶景で夜景がきれいだった。彼女と一緒に大きな窓から外を見ていた。振り返り、窓際のテーブルには金属製のバケツ(本当はシャンパンクーラーと呼ぶらしい)に冷やされたシャンパンが入っていることに気が付いた。またその近くに紙が置いてあった。そこには誰かの字で「素敵な一晩を」と書いてあった。
「近衛さん、これは?」
「なに、どれ?」
シャンパンクーラーと置手紙を見ると、彼女は言った。
「私の好きなシャンパン……お母さんったら」
「お母さん!?」
「そ! 実はね、このホテルはお母さんからのプレゼントなの。なんか、クリスマスに遊ぶ予定は入ったんだけど、どこで何しようかなって言ったら、私がそんなことを言ったの初めてだからか、盛り上がっちゃって、こんなことまで全部セッティングしてくれたの」
「マジかすげぇな」
彼女は恥ずかしそうに言った。
「ねぇ、澪君こっちの部屋も見ようよ」
ドアがあって、そこを超えるとベッドルームがあった。
「うわ、すっごく広いベッドだな」
ベッドはいわゆるキングサイズ? みたいなのが二つ並んでいた。僕がベッドの近くに立って、それを眺めていると後ろからまた名前を呼ばれた。
「澪君」
「うん?」
振り返ると、そこには彼女の唇があった。彼女は僕を抱きしめて、僕の唇に唇を押しあてた。僕は驚きのあまりそのままベッドに倒れ込んだ。急いで、彼女の肩をもって、距離をとった。
「お、おい」
「ごめんね、でも我慢できなくて。あなたがこういう強引なの、あんまり好きじゃないのは知ってる。でも、大好きだからキスくらい許して」
「近衛さん! でも、こういうのは……!」
「だから、綾子って呼んで」
彼女は制止する僕の手を払いのけて、もう一度キスをした。そのまま、数分はいたと思う。それから、突然彼女は距離をとった。そして、彼女は肩に回した手をほどき僕から離れて立ち上がった。
「この先は、また今度。今日じゃないときね。私だって軽い女な訳じゃないから」
「え、あ、うん?」
「それとも期待しちゃった? まあ大学一年生だもんね!」
彼女がいつも茶目っ気で冷やかしてきた。少し安心した。
「向こうで、シャンパン呑もうよ!」
「あ、ちょっと待って、どうしてこんなに僕を……」
「その話はまた今度にしたいなー。今日はこの雰囲気とあなたとだけの時間を楽しみたいから」
「あ、ごめん」
まだ唇に彼女の感触が残っていた。俺と彼女はテーブルから綺麗な夜景を眺めながら、学校のことを話した。彼女がいとおしく思えた。彼女の仕草や言動すべてが気になった。もしかして、僕はこの女性を好きになったのかもしれない……そんな気がした。
写真:ワオキツネザルが映画のマダガスカルを見てから好き