連載・君をみつけるために 第四章:部活後の発見
過去投稿:2017/1/6
「整列!」
主将がそう叫ぶと、数少ない部員は全員一直線に整列した。
「正座」
という言葉ともに、みな一斉に正座をした。
「正面に礼」
「お互いに礼」
二回の礼のあと、その後、主将は大きな決意を付けたように言った。
「今年度の練習をこれで終わりにします。ありがとうございました」
部員が口をそろえて言った。
「「「「「「「「「「した」」」」」」」」」」
今日は今年の主将の代最後の練習だった。監督の先生も来ており、僕や仲さんにとっては先輩で主将にとっては後輩の方々が主将と幹部にケーキと花束を贈っていた。僕と彼女はそのほほえましい様子を見ていた。一通りのねぎらいの言葉が終わると、次期主将の先輩に包丁を渡されて、先輩が主将に送ったケーキを切るように言われた。
ケーキを丁寧に切った僕は包丁を洗いに洗面台にむかった。洗っていると、突然肩をたたかれた。
「よっ」
「仲さん、どうしたの? 先にケーキ食べちゃいなよ」
「うーん、いやさ一年生の片一方が先にムシャムシャ食べるのはね……」
「そっか、確かにそうかも。にしても、今日でオフかー」
「だね……」
彼女はなんか寂しそうだった。
「どうかした?」
「いやさ……今日、男子は監督と飲み会に行くよね?」
「さぁ? まあでも多分」
「そっかそっか」
とても彼女が寂しい顔をしたような気がした。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもないんだ、ごめん」
やっぱりその顔に不安があった。そこで、予定を変えることにした。そのほうがいいと思ったから。
「やっぱり監督と飲みに行く感じじゃ、ないや。俺は帰るわ。でも、今日は飯いらないって言っちゃったし、どうする? ついでだしここで二人だけだけど同学会やろうか?」
彼女は嬉しそうな顔してくれた。そして、悩むことなくすぐに言った。
「うん、やろ! 一年会!」
二人で飲みに行くのは初めてだった。買い出しのついでで、一緒に飯を食べるとかはあってもお酒が入るのは初めてだった。少し時間がたったら、かなり彼女は酔っぱらった。ちなみにそれまではほとんど話していない。すると、泣きながら話し出した。
「わたひね、あの人と実は付き合い始めらの」
「太田だよね? おお、そうだったのか。知らなかった、おめでとう」
「でもへ、あの人たら、付き合っへるころ、全部ないほにして欲しいって言っはの!」
「ないほってなんだよ。呂律が回ってなさすぎ、水頼もうか?」
「いらはい! 水はいらはい! ないほ・ないほだって、内緒」
「ああなるほど、内緒ね。で?」
この後、彼女は愚痴を延々話し出した。内緒にしようなんておかしい。っていうところから始まり、彼が俺が言った通り浮気をしているっぽいこと、すぐにヤリたがること、それはもう大量の愚痴を話し出した。まだ付き合って一か月程度のはずなのにその量はすごかった。一通り話し終わると、彼女はテーブルに寄りかかって話さなくなっていた。彼女の目元の真下あたりに小さな水たまりができた。生気がなく彼女は呟いた。
「ああ、なんであんな人を好きになってしまったんだろ……」
僕は彼女の背中をさすって上げることしかできなかった。涙をポロポロ流し続ける彼女はどこか儚げで、正直綺麗だった。
「ハハハ」
「なんだよー、人の不幸がそんなに面白いかよー」
「いや、違うよ。いやでもちょっと思ったことがあって、言わないけどさ」
すると、彼女は涙でくしゃくしゃの顔をもたげて、僕を睨んで言った。正直、かなり怖かった。
「言えよ、気になるだろ」
「はい」
「で?」
「いや、可愛いなって思って。いつもの君と全然違うし、君のキャラになくて、面白いなって思って」
「普通に照れるんだけど、でも結局面白がってるじゃねーか」
「ごめん」
その後、彼女は酔いつぶれて寝てしまった。結局、終電の一時間前まで寝かしたままにしておいた。その後、起こして連れて行こうとしたが、動かなかったため背負って帰ることにした。すこしゲスイ話をすると、胸が背中に当たってちょっと恥ずかしかった。背負っていると彼女は話しかけてきた。
「ごめんね、ありがと」
「いや、別にいいよ」
「あーあ、あの糞野郎! 正直、まだ好きだぞ! 私の馬鹿野郎!」
彼女の大声はむなしく商店街に響いた。
「すっきりするまで話せた?」
「うん。後決めたの、私はあいつと別れる! こんな話に四時間も付き合ってくれてありがとね」
「まあ、最後の一時間くらいは君は寝てたけどね」
「あーあ、もっと楽な恋愛したかった! 私も彼もお互いに大好きみたいなそんな恋愛」
「それなー」
「楠本君が歩美を好きにならなかったらよかったのに」
「どういうことだよ」
俺が笑いながら言うと彼女も笑いながら言った。
「フフフ、楠本君みたいな一途な人と恋愛できるなら、あなたのことを好きになって、もしかしたら付き合ってたかもしれないから、私はあなたが好きで『友達として』、に変わったのは歩美が好きだってわかってからだもん」
「え?」
彼女の突然のカミングアウトに驚きを隠せなかった。
「それってどういう?」
「おーい」
自分の言葉だけが残った。そしたら、すやすやと音がしてきてしまった。本当に気疲れていたんだと思う。僕は彼女を背負いながら、二人の使う電車がわかれる明大前まで送った。明大前につくと、彼女は「バイバイ」の一言で去って行ってしまった。そのあと、そっと独り言が出た。
「まるでドラマのようだ」
やっぱり、女性とはわからないと思った。
写真:ウツボカズラ系の食虫植物。こういうの結構好き(中二病)
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