見出し画像

憂鬱でなければ、仕事じゃない

僕は死ぬまでに、一度でいいから仕事をしてみたい人がいる。それは幻冬舎の社長、見城徹さんだ。

冒頭の文章を見城さんが読んだら「そんなことを言ってちゃダメ。本当に一緒に仕事をしたいと思っているなら、そのために必要なことを全部やるんだよ。今すぐに」と怒るだろう。

このnoteのタイトルにもさせてもらった「憂鬱でなければ、仕事じゃない」は見城さんの言葉で、同名の書籍も出ている。
タイトルからも分かるようにかなりマッチョな内容だ。僕は心が折れそうなときに何度も読み返している。おそらく、僕の人生で最も繰り返し読んだ本だ。

**

僕は新卒でマンションディベロッパーに入社した。3年目くらいのときにPM(プロジェクトマネージャー)を任され、とある物件の責任者になった。
ちなみに僕が優秀だから若くしてPMになったわけではなく(むしろあんまり結果は出してなかった)、若手に大きな仕事を任せる会社なのだ。

PMの仕事は多岐にわたる。物件のコンセプト決め、パンフレットや広告の制作、モデルルームのデザイン決め、契約書まわりの整備など。

あまり大きな声で言えないが、忙しすぎて「残業230時間」という、(おそらく)当時の会社のギネスを記録した。しかし当時は自ら嬉々として働いていたのだから、今考えると恐ろしい。まぁそういう年頃だったのだろう。

とはいえ、なかなかしんどかった。睡眠時間も短いし、自分がやっていることが正解かよくわからんし、関係者はみんな年上で大体ピリついているし。

そんな毎日を送っていたある日、心身ともに限界を迎えた僕は、なにかしら理由をつけて(覚えていない)定例ミーティングをエスケープした。

ぽっかり空いた時間はオフィスから離れたいと思い、目的地を決めずに電車に乗った。とはいえ、大量の仕事が待っているのでそう遠くまで行くことはできず、3つ先の駅で降りた。

「さてどうするか」と思っていたら、駅前に本屋があったのでふらっと立ち寄った。そこで見つけたのが『憂鬱でなければ、仕事じゃない』だ。タイトルに惹かれて即購入し、喫茶店で読むことにした。

文字通り無心で読んだ。1文字1文字が心に刺さる。できないことだらけで自分にがっかりしていた僕に響く言葉ばかりだった。特にこのくだり。

憂鬱でなければ、仕事じゃない
(中略)
僕は、朝起きると、必ず手帳を開く。自分が今、抱えている仕事を確認するためだ。そして、憂鬱なことが三つ以上ないと、かえって不安になる。  ふつう人は、憂鬱なこと、つまり辛いことや苦しいことを避ける。だからこそ、あえてそちらへ向かえば、結果はついてくるのだ。  楽な仕事など、大した成果は得られない。憂鬱こそが、黄金を生む。

見城徹、藤田晋著:憂鬱でなければ、仕事じゃない (講談社+α文庫)

そうか。今めちゃくちゃ憂鬱だけど、そうじゃないと結果なんて出ないんだ。憂鬱なことは常にあるけど、それは決して悪いことではないんだと思えた。

この本のおかげでモチベーションも上がり、マンションの売れ行きも好調だった……と言いたいところだが、人生なかなかうまくいかないもので、僕がはじめてPMを担当した物件は赤字に終わった。いろいろ言い訳はあるが、ひとえに僕の力不足だった。

が、なんとかPMとして初めから終わりまで見届けられたのは、この本のおかげだと思う。この本を読んでいなければ、途中で心が折れてPMを降りていただろう。

その物件が終わってからも「つらくなったら読み返そう」と思いパソコンの横に置いていた。その後も「憂鬱でなければ、仕事じゃない」と自分に言い聞かせて、自分を追い込んでいった。

それはマンションディベロッパーを退社し、人材メディアを運営している会社へ転職したあとも同じだった。「今まさに憂鬱だけど、これは成長できるチャンスなんだ。耐えねば」と自分に言い聞かせた。

しかし元々たいしてストイックな性格ではないので、限界がきた。ハードワークに耐えられず心が折れ、僕は2社目を逃げるようにして辞めた。今思うと、自分を追い込みすぎたことも心が折れた原因のひとつだった。

**

そんな2社目をドロップアウトした経験から、今では見城さんの言葉にいつも従うのではなく、たま〜に意識するくらいにしている。

今でもこの本は僕のバイブルになっているが、劇薬でもあるので適度な距離感を保っている。僕にとってはそれくらいが、ちょうどよかったみたいだ。
例えるならレッドブル。毎日飲むと身体にガタがくるけど、たま〜〜に飲むくらいならいい(と僕は思っている)。

というわけで、クリスマスにこんなストイックな本を紹介するとは思わなかったが、劇薬がほしい人はぜひ読んでみてほしい。たしか文庫化もされているので、割と安く買えると思う。



いいなと思ったら応援しよう!