サマチャレ2021 夏の雑記
KEK(高エネルギー加速器研究所)が大学3年生、高専生を対象に毎年開催しているサマーチャレンジというイベントがある。今年は第15回目で、コロナの影響により講義パートはオンライン開催、実習パートは対面で行うため来年の春に延期となった。4日間の講義や交流を通して感じたことは人それぞれだろうが、楽しくて短かったということは皆一致していると思う。このまま時間が経ってしまうと色々と忘れてしまうので、記憶の新しいうちに多少書き残しておこうと思った。ここから先は私が一人で行う感想戦である。
参加にあたって
参加申し込み時に選考があり、それを通過した学生が参加できる仕組みになっている。多くの学生さんが「自分がなぜ通ったのか、どこで判断されたのかわからない」と言っていた。過去のサマチャレ参加者の感想本を読む機会があったのだが「通るとは思っていなかった」という記述が多かった。受かったらラッキーくらいの気持ちで挑むのがいいのだろう。提出課題は数時間で書き上げたと言っていた強者もいたし、私なんかはどうしても参加したかったので教授に何度も見てもらって推敲を重ねている。メールが届いたときは、文字通り飛び跳ねて喜んだ記憶がある。
講義パートの感想
私の普段の大学の講義風景では、授業中に質問が飛ぶことは一切ない。授業後に黒板の方へ出てきて質問をしている学生を1, 2名見かける程度である。サマチャレの講義では授業の途中に質問をする時間が設けられていて、飛び交う質問の数も多かった。比較的わかりやすい授業は質問が多く、難しくて何がわからないのかわからない(私がです)ような授業は質問が少なかった印象だった。また、よく質問をする顔ぶれがそこそこ固定されていて、zoomの表示名や写真を何度も見るので記憶に残りやすかった。
私はといえば、質問はしたものの、物理や数式をあまり理解できていないため、中学生や高校生でもできるであろう低レベルな質問をかなり投げてしまった。自分が少し背伸びして理解できることを確実に持って帰るというのが今回の目標だったので、そこは達成できたのだが、春の演習までにはもう少し頭が良くなっていたいと思う。また、当たり前だが、ちゃんと意識を向けていないと質問が思いつかない。そういうときに、周りの人がハイレベルな質問をしたり、細かい部分まで気にして話を聞いているのだなということが質問内容から伝わってくると、わからないことに圧倒されてぼーっとしてる場合じゃないなと奮い立たされることが何度かあった。
講義内容は大きく分けて、宇宙、原子核、素粒子、加速器があり、実験系または理論系の先生に講演をして頂いた。講義の内容は、大学の講義レベルの話や、よく知られている宇宙の話から始まって、だんだん難しくなっていく感じだった。どれも(私の)大学の講義では聞けないような話で、自分が何に興味があるのか、それぞれの分野はどう違うのか、どういう雰囲気なのかを十分に感じることができた。大学3年生という進路に悩む時期にこういう機会があるのは、本当に有り難かった。
参加者は素粒子大好き人間ばかりなのかと思っていたのだが、全くそうではなく、もちろん物理学科や機械系が大半ではあるが、生物や化学、地学の方もいた。「授業は何が一番面白かった?」と聞いてみたところ、答えが人によってばらばらだったので驚いた。これは、みんな素粒子大好き人間だと思っていた私が悪い。(ただし、初日にあった村山先生の特別講義は、面白かったと答えた人が多かった。)科学を志す、特に宇宙が好きな人々が全国から集まって、私の分野や興味とはまた違った話をその人たちから聞けるのは、すごく楽しい。
いかにして交流をするか
zoomでの自己紹介会は、想定の2倍の時間に延びた。それでも、自己紹介と質問の時間を合わせて1人3分程度であり、各人としっかり交流できたとはいえなかったため、slackやspatial chatなるもので、空き時間に自主的に話をしにいくということが必要になった。まあ、対面でも話すのは苦手なので、これはどちらが良かったのかは私にはわからない。ただ、顔を合わせる機会がないので、自分から積極的に交流しようと思っていないと、知り合いを作ることすらできなくなってしまうだろうことは容易に想像がついた。今は、交流部屋でよく見かける方の名前ならなんとなく覚えたと思う。
キャリアビルディングでは、経歴が様々で、国内や海外で活躍されている先生方に様々な質問に答えて頂いた。これも想定の2倍の時間に延びたが、こちらはむしろお腹いっぱい話を聞けるくらいがちょうど良かった。私は全力でメモを取っていたのだが、対面だったら恥ずかしくてそんなに書けなかったかもしれない。
講義と交流会の全体を通して、zoomでは学生側のリアクションがほぼ見えなかったので、先生方と学生間の交流という点では寂しさを感じてしまったし、先生方も話しづらかったのではないかと思う。参加している学生さんたちにも、先生方にも、ぜひ春に対面でお会いしたい。
最後に 私の中でのサマチャレの位置付け
私は、物理が苦手である。物理も数学も苦手だけど、中学生の時に素粒子のことがもっと知りたいと思って、その想いを引きずってここまで歩いてきた。途中で何度も足を止めたし、何もかも楽しくなくて天井ばかり眺めていた時期もあった。そんな私が、ずっと憧れていたサマチャレに参加できたことは、私にとって大きな節目であった。これは、応援してくれた家族と友人のおかげだ。本当に感謝したい。
こんなにたくさんの、素粒子や宇宙を専門とする先生方にお会いしたのは初めてで、研究の世界が自分のすぐそばにあるように感じられた。物理に対して抱いていたネガティブな感情を忘れた、非常にわくわくした4日間であった。と同時に、自分の興味の原点を思い出して、姿勢を正されたような、ベクトルを戻されたような感覚だった。宇宙が好きな仲間がたくさんいて話ができたことも、大きな刺激となった。彼らが私の知らない活動をしているのを聞いて、自分の行動力やリサーチ不足を反省したりした。研究者の方々から受け取ったメッセージは人によって様々だったと思う。私の場合は、研究者は皆本当にやりたいことをやっているのだと、そして、自分のやりたいことがどうしてもやりたいなら、何がなんでもやれと、そう言われている気がした。(ただし、健康とお金と生活は疎かにしてはいけない、とも仰っていた。大事!)
夏の講義は、本当に短かった。最後の講義が終わったとき、それは一陣の風のように、私の背中から吹き抜けて、前方に去っていこうとしているのを感じた。物理とはこれから長い付き合い(戦い)になるだろうが、あとから振り返った時、サマチャレは確実にひとつの区切りになっていると思う。
また春に、笑って皆と会えるように、これから数ヶ月を準備期間と思って、自分のできる最大限の努力をしなければなと思う。
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最後までお読みいただきありがとうございました。個人情報や漏らしてはいけない範囲についてはかなり気を使って書いたつもりですが、何かありましたらすぐにお知らせください。