【好きな歌詞語り】あなたってどこか寂しげで 街明かり照らす夜みたい
最近よく聴いている曲の中に、心を奪われたフレーズがある。
街明かり照らす夜みたい。言いたいことはわかるけどはっきりとはわからない、でもわかりづらすぎない絶妙な比喩がたまらない。透明だけどぼやけていて、雨粒越しに見る窓の外の景色のようだ。この比喩はわかりづらいな。
「あなたってどこか寂しげで」と言われなくても、街明かり照らす夜はどこか寂しげな感じがする。でも「寂しげ」にはいろんな種類がある。たとえば、あなたってどこか寂しげで 朝露に濡れた紫陽花みたい、だったらどうだろうか。その人は夜よりも朝の似合う人で、紫陽花みたいに淡くて柔らかい雰囲気なのかなあってなんとなく想像がつく。ほかにも、夏の終わりのひまわりとか、水たまりに浮かぶ落ち葉とか、寂しげな雰囲気を連想できる景はいくつもある。だからこそ、「街明かり照らす夜」を選んだことの唯一性が見えてくる。
夜を照らす街明かりではなく、街明かり照らす夜、なのも良い。前者よりも後者の方がより冷たさを感じる。
この曲は全体を通して、好きな人と都合のいい関係になることを割り切って受け入れていく気持ちを歌っているとわたしは解釈している。
今回取り上げたフレーズは歌い出しに登場し、そのあとは「今更、わり切ってしまえば 苦悩も楽でいいと思うし」「実際には一切ひとつに成れない ほんとうの意味での話だけど」と続く(この歌詞もめっちゃ良い)。ここまで読めば、恋人じゃなくてセフレとか不倫の関係にあることが想像できるけど、「あなたってどこか寂しげで 街明かり照らす夜みたい」だけでも、関係性のニュアンスは読み取れると思う。なんとなくだけど、街明かり照らす夜みたいな人って、将来性のある付き合いをしてくれなさそう。告白してもうまいこと言ってはぐらかされそうだし、すぐにどこかに行ってしまいそうな危うさもある。一緒にいても一過性の安心感しか得られなくて不安になってしまいそうだけど、朝や昼が似合う人にはない不思議な魅力があるのだろう。
一見華やかに見えるその人の中には街明かりが届かない路地裏のような部分があって、どうしてもそこに触れたくなる。寂しさを人肌で満たしてあげたくなる。踏み込んだら戻れなくなるとわかっていても、足を踏み入れたくなる。街明かり照らす夜ってたぶんそういうものなんだと思う。曖昧ながらも的確で、なんて魅惑的な比喩なんだろう。すごい。考えれば考えるほど想像がふくらんで、歌の世界に深くのめり込んでいく。この歌詞のことなら何時間でも語れそうな気がする。
人が、「この歌詞好きだなあ」と思うのはどういう瞬間なのだろうか。わたしの場合は、意識せずとも耳に入ってきたフレーズを深堀りしていくうちに好きになっていくことが多い。この歌詞やけに頭に残るなあとか、よく口ずさんでしまうなあとか、そういう気づきが好きに繋がるのだろうか。他の人の好きな歌詞も気になるし、好きだなって気付く瞬間の話も聞いてみたい。