42. 玻璃戸の梅雨
梅雨がはじまった。
らしい。
いつもより少し遅めの梅雨みたいで、私はふと思い出した。
梅雨に入ると思い出すこと。
すっかり忘れていたこと。
夏の短夜に台所でひとり こそこそとすること。
赤紫蘇の葉をちぎる。
青梅のへたをとる。
水道から流れる 透きとおった水で泳がせる。
あけた窓から、雨音と一緒に水っぽい風が流れこむ。
とても手間がかかって、正直にいうと面倒だと思ってしまう。
それでも、この手間で梅雨をぬけた後の生活がより良いものになっていく。
それがたまらなく好きなのです。
今思えば、幼い頃から梅酒や梅シロップを漬けることが好きだった。
季節を、夏を瓶の中に閉じ込めているようで。
1年前の夏。
5年前の夏。
この気怠い夏も瓶の中に閉じこめて
来年にまた思い出すことにした。
楽しみは小さいものでいいよ。
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