やはらかな存在 Snow Man宮舘涼太の花鳥風月
2020年。暗く陰鬱だったこの年の最後の最後、私はとても大きく心を揺さぶられ、いまだに忘れられずにいる。
2020年にデビューしたジャニーズのグループ・Snow Manを知っているだろうか。ダンスとアクロバットを得意とする、9人組だ。CDが随分売れているので名前を聞いたことがある方は多いだろう。あるいは、メンバーについて、少しくらいは認識している方もいるかもしれない。あぁ、高校生のダブルの子がいるよね。気象予報士の子、クイズ番組でよく見かけるかな。塩顔の美容男子がいた気がする。SASUKEに出た筋肉男子なら知ってるよ。バラエティに関西人がよく出てるなぁ。タッキーと仲の良い苦労人がいたはず。顔が良くておバカな子はわかる。もの凄いアニヲタだけは認識してるよ。
私が今日話したいのは、その誰でもない。最後のひとり。宮舘涼太くんのことだ。
Snow Manは2020年、1月末にデビューしたものの、2月のイベントから活動は停滞。3月のデビューライブ、その後に控えた海外公演も全て中止となり、ようやく10月末に実施されたデビューライブは無観客。挙句、紅白歌合戦はコロナにより出場辞退。神はどれだけ彼らに試練を与えるんだろうか。
そんな彼ら、夏に予定されていた舞台も中止になり、その代わり、映画化される運びとなった。それが「滝沢歌舞伎ZERO The Movie」だ。
毎年行われているこの舞台、”和のエンターテインメント”を謳い、殺陣や和太鼓、歌舞伎といった和の演目で魅せる(ダンスや歌もある)1幕と、笑いがふんだんに盛り込まれたお芝居の2幕で構成されている。和洋ごった煮全部乗せ!なジャニーズスタイルの舞台だ。
私は2016年から観ているが、毎年そこまで新奇性があるものでもないので、今回もさほど期待していなかった。舞台なら本人がいるが、映画にはいないし。映画館に足を運んだのも、舞台挨拶のライブビューイングというエサがあったからで、それがなければDVD発売まで観なかったかもしれない。
そんなこんなで、ようやっと観た映画「滝沢歌舞伎 ZERO The Movie」。冒頭から謎の世界観で「??」となりつつ、見慣れた演目が進む。殺陣、太鼓、歌舞伎。新曲PV的なもの。そして、1幕の最後は舞台版と同じ「花鳥風月」。
「花鳥風月」とは、出演者全員が出てきて舞う「総踊り」のような演目。舞台では1幕途中で白塗りになるため、着物姿に白塗りのメンバーが手に手にリボン的なものをなびかせ、女性ボーカルの曲に合わせて華やかに踊る。映画版の今回は化粧や衣装の縛りがないためか、本人たちは素顔に黒のシックな洋装だった。そして振付は新規だったのだが…。
この振付を踊る宮舘涼太くんが最高だった。
この振付の特徴は、柔らかさ・しなやかさ、といったところだろうか。コンテンポラリーっぽい(詳しくないので、違っていたらすみません)ダンスで、振付のYOSHIEさんのダイナミックかつ繊細で美しい表現がそこかしこにちりばめられている。歌詞にこめられた日本の四季の美しさと儚さ、そして歌い手の方の強さというか真摯さの両方が内包されていて、優しくて強くて繊細で、愛しくて切なくて心強くて…みたいな感じなのだ。
Snow Manの中で、特にダンスを取り上げられるメンバーといえば、主に3人が思い浮かぶ。
リーダーの岩本くんは、硬派で堅実、力強いダンス。
アクロバットの得意な佐久間くんは、勢いがあってダイナミックなダンス。
そして宮舘くんは、優雅で繊細、柔らかなダンスだ。
そんな宮舘くんのダンスは、この振付にマッチしていた。指先のその先まで気が配られ、丁寧で、でも凛と気高くて、曲線のひとつひとつが美しい。体上半身を下から上にパッと開けばそこだけ花びらが舞い散るようで。音を掴んだしなやかな身体とは裏腹に、強い視線がダンスにまた別の表情をつける。普段は結構どっしりとした存在感を見せる宮舘くんだが、黒い衣装が白い肌に強く映え、軽やかに舞っていた。そう、まさに「舞う」という表現がぴったりで。
それは運命だった。離れ離れになった半身を見つけたかのような、4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会ったような、前前前世から探し始めたような、まさにそんな感覚で、あたりまえのように寄り添い、宮舘くんの身体の一部がダンスになっていた。美しすぎて絶句した。映画の後半が思い出せないくらい、茫然としてしまった。
正直、30歳を越えて、あまり物事にも感動しなくなっていた。狂おしいほど心を揺さぶられるなんてことはここ数年なかった。もう一生、あの青き日々のように何かに夢中になることなんて無いと思っていた。
でもこの「花鳥風月」は違った。その後映画館に3度も通った。言っちゃ何だが、12月、私は2日に1回は徹夜し、カフェイン剤とレッドブルとモンスターで眼球をコジ開けながらマジで休みゼロで仕事をしていた。残業は300時間を越えた。その合間を縫って、3時間近くある映画を3度も見に行ったのである。正気の沙汰では無い。
でもそれくらい、宮舘涼太くんの花鳥風月は最高だったのだ。
私は元々宮舘くんのファンだ。だが、その理由がこれまで自分でもよくわからなかった。メンバー皆が仲の良いグループにおいて、比較的誰ともつるまず、自分の世界観を築き、人見知りでファン向け動画ではあまり話さず、対応は大人で、話せばとても面白い子なのだけど、それがうまく世間に見つかり切らないところもあって。でも、花鳥風月を見てわかった。私は、宮舘涼太という人の柔らかな存在感に惹かれていたのである。この世の全てを赦すようなしなやかさ。時々ふにゃりと笑うと眉尻が下がるところ。物を大切に扱うときの、端々まで丁寧さを忘れない指先。
そんな宮舘くんが美しく舞い踊った2020年の冬。
花鳥風月。これが私の、2020年マイベスト。
(追記)こんなに素晴らしい宮舘くんは、花鳥風月の間ほぼ最後列で、何度も前にいるメンバーにかぶって見えなくなり、もどかしい思いをした。可能であれば次は舞台で、爪先から頭のてっぺんまで、花鳥風月を踊る宮舘くんだけを見ていたい。
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