新型コロナウイルスと大気汚染
新型コロナウイルス(COVID-19)による死者数と大気汚染の関係
新型コロナウイルスと関係なくとも、大気汚染が原因で世界中で年間420万人が亡くなっている。それに加え、アメリカでは大気汚染がCOVID-19の流行を悪化させ、大気汚染がなかった場合に比べて死者が増えたという調査が進められている。大気汚染の粒子がウイルスを媒介する可能性も示唆されている。
最近の研究では、PM2.5として知られる微粒子のわずか1µg/m3の増加により、COVID-19による死者が15%増えたとされる。WHOのPM2.5の環境基準は年平均10µg/m3だが、アメリカでは12µg/m3、日本は15µg/m3である。ニューヨークではアメリカ国内でも大規模にコロナウイルスが拡大し、4月には他のどの州よりも多くの死者が出ているが、これにはニューヨークの一部では常にPM2.5の安全基準を上回っていることが関連しているのではないかと言われている。過去20年間でマンハッタンのPM2.5が1µg /m3でも下がっていれば、4月4日時点でCOVID-19による死者が248人少なかったと推測される。
大気汚染が激しい地域に住んでいた期間が長い人ほどコロナウイルスによって死亡するリスクが高いこともわかっている。アメリカの研究では、長期にわたり大気汚染が問題となっている郡に15-20年住んだ人は有意に死亡率が高くなっている。イタリアでも、国内の死者の過半数が重度の大気汚染が問題となっている北部のロンバルディアとエミリアロマーニャで確認されており、大気汚染の死者数への寄与を検討するべきだとしている。
このような関連は、大気汚染レベルが高いエリアでは呼吸器や心臓の基礎疾患のリスクが高いからではないかといわれている。また、大気汚染は免疫力も低下されるとされる。これらの大気汚染による影響により、COVID-19の重症者や死者が増加したと考えられる。
他にも、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2はPM10の粒子に乗って広がると言われている。イタリアの研究者は大気汚染粒子によってより広域に拡大している可能性を示唆している。
これらの研究はまだ精査が必要だが、これらの研究結果は、コロナウイルスの流行が拡大していないが、大気汚染を抱える地域が予防措置を取るインセンティブとなる。このような地域では、より厳しいソーシャルディスタンスを実施するなどの対策を取ることが出来る。
新型コロナウイルスと大気汚染と今後の対策
世界各地で外出の自粛や制限、空港や道路の封鎖により、空気がきれいになったと報告されている。二酸化炭素の排出量がニューヨークで5-10%、中国で25%減少したとされる。PM2.5は武漢で44%、ソウルで54%、デリーで75%減少した。呼吸器疾患や酸性雨の原因のもなる二酸化窒素の排出量がミランで40%減少し、パリでも有害な窒素酸化物が70%減少したと報告されている。ロンドンでは幹線道路や交差点における有害物質の排出が50%近く減少した。
世界中で自家用車や公共交通機関の使用が減少 (世界平均で78%減少) する中、代わりに増えているのが自転車である。単独で移動でき、かつ運動にもなる移動手段として3月にはシェアサイクルの利用が北京で150%、ニューヨークで67%増加し、主要道路でのサイクリングは52%増加した。また、フィラデルフィアでは自転車の交通量が151%上昇し、4月にはダンディーで自転車交通量94%の増加がみられた。
そのため、ベルリンやブダペスト、メキシコシティ、ニューヨーク、ダブリン、ボゴタなどで仮設の自転車レーンが設置されたり、ブライトンやボゴタ、ケルン、バンクーバー、シドニー、その他アメリカのいくつかの都市では一時的に車の往来が禁止されたりしている。
しかしこれらは一時的なもので、2008-09年の経済危機後同様、経済活動や人々の移動の再開に伴い大気汚染レベルや二酸化炭素排出量がリバウンドし、急激に増加することが懸念されている。環境のためにもコロナウイルスの第2波の影響を抑えるためにも大気汚染レベルを低く抑えておくことは重要だ。
ブダペストでは新しい一時的な自転車レーンを9月までは維持するとしている。その後も使用状況によっては長期的に残されるそうだ。
他にも、イタリアでコロナウイルスによる被害が最も大きかったロンバルディア州にあるミラノではロックダウン解除後も市内の道路35kmをサイクリングロードにするとしている。
コロンビアの都市、ボゴタでは自転車走行や歩行がしやすいように117kmの道路が車両通行止めとなった。既存の550kmの市内の自転車レーンに追加して80kmのレーンを新設した。今後も自転車をはじめとした安全でクリーンな移動手段へのアクセスを改善していくとし、コロナ禍後もこれらが主要な移動手段として残ることが期待されている。
パリ市長はすでに道路を2024年までに自転車フレンドリーにし、市内の路上駐車スペースの72%を減らすことを約束していたが、ポスト・ロックダウンプランとして、公共交通機関を使うのをためらう人のためにメトロに沿うような一時的な自転車レーンの設置などを行うことも発表されている。計画されていた常設の自転車道の建設もコロナ禍の影響を受けて早まっている。
イギリスでは、気候変動対策のために自動車の使用を抑え、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指すために、2035年以降新しいガソリン、ディーゼル、もしくはハイブリッド車の販売を禁止する。
コロナの影響は、大気汚染の改善など良いものばかりではなく、外出の制限によりCOP26などの大きな気候変動対策会議が延期・中止される、気候や環境学者がフィールドへ出て調査などを行えないなどの悪影響もみられる。喫緊の脅威であるコロナばかりに目を奪われ、気候変動問題が二の次になってしまうのも問題だ。
しかし、この自粛期間中に自らの行動を顧みた人も多かったのではないだろうか。毎日の通勤が必要ないことに気づいた人や、買いだめを通して消費を考え直した人もいるだろう。人々は必要に迫られれば行動できるということも今回の件を通して確認することが出来た。今回の学びを活かして、ウイルス同様国境に縛られない温室効果ガスや大気汚染問題の解決に動き出せることを期待している。コロナ禍中のエコフレンドリーな習慣を維持していくことが出来たら、年間420万人の死を招き、経済的な問題の原因にもなっていると言われる大気汚染を解決することは可能なのではないだろうか。4月にはすでに30ヶ国の政治家がオンラインで気候に関する会談を行い、コロナからの回復計画に気候変動への対策を盛り込むことに合意している。今後も上記のような各国のエコフレンドリーな対策が注目され、コロナ禍をチャンスに変えてグローバルな課題の解決に向けて協働していくことが期待される。
参考文献
・https://www.bbc.com/future/article/20200427-how-air-pollution-exacerbates-covid-19
・https://www.bbc.com/future/article/20200422-how-has-coronavirus-helped-the-environment
・https://www.bbc.com/future/article/20200429-are-we-witnessing-the-death-of-the-car
・https://www.bbc.com/future/article/20200326-covid-19-the-impact-of-coronavirus-on-the-environment