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ゆるゆる感想文:ある母の物語 - アンデルセン童話集 2 (岩波少年文庫 大畑末吉訳)

アンデルセンは、本当に偉大で読み終わった後に考えこんでしまう。
特にこの「ある母の物語」は、何回読んでも、読んだ後に胸は詰まって頭は空っぽに重くなる。大人になって改めて、原文を読むと涙さえ出てくる。

【「ある母の物語」の内容を超要約すると】

死神に病気の子どもを連れ去られた母親が、さんざんたる苦難と痛みを乗り越え、愛する我が子を探して死神の家までやってくる。そして、母親は、我が子の命をどうか助けてほしいと死神に懇願する。

色々あって、死神は2人の子どもの未来を井戸に写して母親に見せる。そこには、超しあわせな未来と、この上なく苦しくて恐ろしい未来がある。そして、そのどちらかが、その母親の子どもの未来なのだが、どちらなのかはわからない。結局、母親は子どもの運命を死神に授けるという話。

何が不幸で、何が幸せか。最終的に人生がどうなるのか。
私たちはいつもわからない。

死は恐ろしいものなのか、救済なのか
死は苦しみなのか、癒しなのか

幸せとはなにか
かわいそうって何だろう

虐待をうけて生きる子どもと、
両親にめいいっぱい愛されて短命で亡くなる子どもは、どちらが幸せ?どちらがかわいそう?
そもそも、生きながらえた先のこの世の中は、
快適に平和に生きられる環境があるのか?

母親にとって子どもを失うことは、不幸と悲しみでしかない。
しかし、この場合において、子ども自身の人生はどうだろう。
死神は母親に言う「どちらも神の御心だ」

死神は忌まわしい存在か、魂の救済者か?
死神と天使の違いは何か?見た目?
それも色々な人間たちが勝手に想像したものを様々な形で表現した姿でしかない。

そんなことを、アンデルセン童話を読むと、いつも考えている。
もちろん答えなど一生見つからない。
でも考え続けることは重要な気がする。

最近の絵本、漫画、アニメ、童話。とても平和で、正義がはっきりしていて、そしてそのいわゆる「正義の味方」的な存在が「悪いやつ」をやっつけて解決。ハッピーエンド。

メッセージも自分たちで考えるようにストーリに含ませるのではなく、はっきり台詞で言わせちゃったり。「友情が大切だ!」的なね。すごくわかりやすい。歌詞もそうだよね。「愛してるって言おう」的な。「ありがとうって言おう」的な。それって、もはやメッセージではなくて、思想の強制では?

私自身は大人になってハッピーエンドも好きだけど、でも、実際の世界や現実はそんな美しいものばかりじゃないし、いわゆる世間の「ふつう」や、世間の「優等生」や、世間の「良い子」に適合しない、できない人は少なくないと思う。

それに、ある一つの概念や思想を、それがあたかも「正しい」「当たり前」であるかのように広めていると、それに当てはまらない人にとっては、人生に光が差さないと思う。窮屈だと思う。「なぜ、自分は?」と思うんじゃないかな。

たとえば「母の愛は海より深い」
でも、実際、海より深くない母の愛に苦しんでいる子どもっていっぱいいるのでは?虐待までいかなくても、「毒親」とか。「毒親」までいかなくても母との関係に苦しんだ幼少期を持つ人は意外とそこそこ沢山いるんじゃないかしら。

日本はあんまりないかもだけど(それでもある程度あると思うが)、子どもを売ったり、奉公的なものに行かせたり、労働力とみなす国だって、今もたくさんあるでしょう。日本でも、離婚して子どもを置いて新しい恋人に走る親もいるでしょう。

そこで「母の愛は海より深い」!当然でしょう!と、されると、
その「当然」に該当しない人は悲しいし、傷つくよ。
「母の愛は海より深いのに、何で私は違うの?」って、世間を恨みたくもなるかもね。「愛されないのには自分が悪い」って、自分を嫌ってしまうかもね。
ていうか、そもそも何を持って「母の愛は深い」とするんだ?
仮に母自身がすごく子どもを愛していると思っていたとしても、子どもの感じるところとは違うかもしれない。

だから、何でも「いい話」にするんじゃなくて
残酷なままの現実をお話にしているこういった名作を、変に良い話にかえないで、子どもたちにそのまま伝えていくのは大切だと個人的には思う。
(絵本とかだと「人魚姫」は泡になったところで話が終わるけど、続きも大事)

他者への共感力とか、想像力とは、そういったところから育まれるんじゃないかしら。

ドイツの民話を集めて作ったグリム童話に対し、アンデルセン童話は完全なアンデルセンのオリジナル作品。まじで尊敬しかない。
そして、アンデルセン童話では、この宗教的観念と神様への絶対的な帰依が特徴的だ。

そして、この岩波少年文庫の大畑末吉さんの翻訳が、また素晴らしい!
デンマーク語から直接翻訳しているんだけど、アンデルセンのもう一つの特徴である色彩表現の美しさや、その他の感性的な表現、情緒的な表現が、もう美しくて、いったん本を読みすすめる手が止まって、しばし休憩しないと感動で爆発しそうになる。

例:母親の子どもを表すサフランの花

つらつら取り留めなく感想を書いてしまったけれど
とりあえず、子どもにも大人にも、もう一度読むことをゴリ押ししたい一冊です。


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