その日は突然やってきた‼ 早稲田生の思い出の味メルシー休業
ワセダOBに衝撃のニュース⁉
早稲田大学（東京都新宿区）近くの老舗ラーメン店「メルシー」が、６月29日の営業をもって閉店した。
この出来事をその日の夜報じた東スポWebによると、この日来店した常連のお客さんには下記のような文面の手紙が配られたそうだ。
「ご挨拶する間もなく申し訳ございません。人手不足、後継者不足により継続が困難な状況になり、突然ですが本日をもちまして一旦店を閉めさせて頂く事になりました」
「打開策を探すつもりではありますが、何分体力に不安を感じる年齢であるのも事実でございます」
「何とかここまでやって来られましたのも、お客様に支えていただいたお陰であり、本当に心より感謝申しております。皆様の健康とご多幸をお祈り申し上げます。長い間ありがとうございました」と結んでいる。
ただ、実際は閉店ではなく、人手の問題があるようで、それが解決すれば営業を再開する予定のようだ。とはいえ、メルシーが一時期でも閉まるとなれば、ワセダ関係者には大ショックといえよう。
ふるさとのように温かく迎え入れてくれた店なのだから。
店主からの6/29の夜時点のお話です。
— 早稲田メルシー通販公式 (@waseda_merci) June 30, 2024
今回の一時閉店は、店の従業員の方の、かなり急なやむを得ない事情でのことです。
人手が確保でき次第、なるべく早い段階で再度開店できるように考えています。
という内容です。
進捗あり次第、またお伝えしていきます。#早稲田メルシー #メルシー #早稲田 pic.twitter.com/ZMIVhjYRCG
早稲田界隈はラーメン激戦地で客の奪い合いは激しい。「あのメルシーも業績不振か」と思いきや、そうではなく、人手不足、後継者不足が理由だ。
時給を上げてもなかなか働き手が集まらない。家族に後継者がいれば修行を兼ねて一緒に店を切り盛りすることができる。ただ事業規模、将来性からして、そうそう「店はお前に任す」とは言いにくい。
独特の注文方法
メルシーの創業は昭和33年（1958年）。一説によると、日本のラーメンが最もおいしかった時代とか？ 新横浜ラーメン博物館も館内は、夕焼けが照らし、ちょうどその頃の家並みが並ぶ。
早稲田界隈の学生や住民に長く愛されてきた。値段も安い。この今でさえワンコインにあと少し足せば「あ～ 食った食った」をの幸せ感を得られる。ワセダに籍を置いた者なら少なくとも一度は食べたことがあるのでは。
独特な注文の仕方がある。「もや大」はもやしそばの麺大盛りという意味。同様に「やさ大」は野菜そばの麺大盛りだ。若い学生客にとって麺大盛りは大歓迎だが、年をとってくると、その逆の「もや小」「やさ小」がありがたい。野菜の具が大盛りで麺が少ないメニューもあると、さらにありがたいのだが。
お酢を入れて食べる⁉
独特の食べ方もあり、先輩から後輩に受け継がれている。ラーメンにお酢を入れて食べる。餃子を食べる際、ラー油にお酢を入れるのは一般的だが、ラーメンにお酢を入れるというのは珍しい。
かと思いきやそうではない。ネットを見てみると、関連の記事はたくさんある。ラーメン通には「ラーメンに酢を足すとスープが引き立つ」という説があるそうだが、さっぱりしておいしそうだ。
また、血圧の上昇を抑える効果も期待できるという⁉
老舗ラーメン店の新たな挑戦
メルシーの閉店（というより一時休業）が唐突と受け止められたのは、つい最近までメディアで取り上げられ、新しい試みもしていたからだ。
人気メニューはカップ麺にも
「もや大」は同店が監修するカップ麺にもなって2024年５月にローソンで発売されている。
メルシーの味をソウルフードとしてきたOBらは、地元でも楽しめるというワケ。
メルシー監修の半生タイプのラーメン、タンメンは同店の店頭や、早大卒業生が集まるイベントなどでも販売してきた。学生街の味は、お土産としても重宝されているようである。通販もやっている。
アド街にも登場「早大生の青春メシ」
2023年11月には、テレビ東京の「出没！アド街ック天国」で「早大生の青春メシ」として、三品食堂とともに紹介されている。学生に人気というと、カレー、牛丼、とんかつ。何を食べようかと迷う。三品の名物メシは、ご飯にこれら３種類を全部乗せて一気に食う豪快なものだ。女子も食う。
心のふるさと 我らが味
ワセダで何年か過ごし、地方に戻ったOBらの中には、上京するとかつて通った店に訪れるという人が少なくない。メルシーに限らず、大学周辺にはそんな老舗店が多い。
もちろんこれはワセダに限ったことではなく、駿河台、本郷、三田などでもあるだろう。それぞれの大学に、忘れられない味があり、各自にとってその味こそがナンバーワンである。
「大学」というサービス商品の構造
各大学の学報などを見ると、OBによる「大学時代の思い出」というコラムは定番中の定番だ。
どうもそうしたコラムを読んでいると、講義よりもその他について論じているものが目立つ気がする。
・友人
・先輩後輩
・サークル活動
・キャリア指導
・就職活動
・ボランティア
・仲間との旅行
・読んだ本、見た映画など
・よく通った店
・大学周辺の街
・よく通った飲食店
・街や店の人たちとの交流
・バイト生活
・寂しい懐事情
「便益の束」としての商品
マーケティングの用語に「便益の束」というのがある。専門家の解説は難しい。筆者なりの表現をすると、１つの商品にもさまざまな便益（お客さんが求めるメリット）があり、お客さんはそれらを比較し、よく評価して購入に至るというものである。
例えば、ケーキ。食品であるから「おいしい」「小腹を満たせる」といったメリットがある。しかし、ほかにもあり、
・頑張った自分へのご褒美
・元気がない自分を励ます
・友達との会話を促進する
・お祝いの場を盛り上げる演出
・一休みして気持ちをリラックスさせる
・親しいい友達、恋人への贈り物
・見た目を楽しむ
食品である一方で、自分を鼓舞したり、人との精神的距離感を縮めたりするベネフィットを期待しての購入は多い。むしろそのほうが多いだろう。
売る側もケーキという商品の食品という属性ばかりではなく、それ以外の便益を意識した売り方の工夫が必要になってくる。
大学というサービスもそうで、講義は大学が提供する軸となる便益なのだが、それだけをもって大学というサービスの全体を構成するとするには、ユーザーである学生側の期待と比較してむずかしい。
学生の舌に記憶され、キャンパスの思い出とともに思い出す学生街の味というのも、便益を構成する重要な要素なのである。
これは筆者の実感なのだが、不思議なものでこの便益は、卒業から時間を経過するほど懐かしく思い出される。
コロナ禍での学生生活
それを思うと、2020年以降のコロナ禍の中での学生生活は気の毒だった。
入学式は中止になり、授業はオンライン。学生は学内の施設の利用も制限され、人との交流は途絶えてしまった。
自宅から離れて生活する学生は、狭いアパートの一室で孤独で不安な生活を送るようになった。それでも授業料は支払わないといけないわけで、授業料の返還を求める声が学生から上がったのは無理もない。
今後卒業する学生たちは、不本意な記憶を胸に社会に出ていくことになる。特に貸与型の奨学金（要は学生ローン）を借りてきた人は卒業後しばらくして返済が始まるだけに大変だ。
慣れ親しんだ味がなくなる喪失感
店の危機を学生が救った
個人店はいくら繁盛していても後継者不足という難題が付きまとう。早稲田界隈はコロナによる休業、後継者難で閉店の瀬戸際に立った店もあったが、学生やOBらの頑張りで持ちこたえたところもある。
「アド街」でも、その例を紹介している。
昭和25年（1950年）創業の「喫茶ぷらんたん」。コロナ禍による大学閉鎖で学生が街に来なくなり、客数が激減、閉店の危機に迫られた。そこで学生が2021年にクラウドファンディングを立ち上げたところ、卒業生らから寄付が集まり、目標500万円に対し、支援総額は750万円にのぼった。目標額は開始後１週間で達成したという。
激辛カレーの「メーヤウ」。2017年に閉店したが、３年後に場所を変えて復活した。同店の味を遺したいという卒業生の一人が前のオーナーに弟子入りして味を引き継ぎオープンに至ったそうだ。
「大学生」という期間と「学生街」
大学の学部ではだいたい22～23歳の間過ごす。入学したての頃は、まだ子供。卒業して初めて社会人として働くようになる。楽しいキャンパスライフも、そろそろ就職の準備に入ろかと思う時期、どうしたって不安が先行する。
学生の就職実績は学生獲得競争に大きく影響する。最近はどこの大学でも、キャリアサポート体制が至れり尽くせりだ。その一方で、そんな不安を理屈ではなく癒してくれるのが学生街の味ではないかと思う。
大学というサービスの主たる便益は、高品質の講義から得られる知識である。
「大学時代といえば、〇〇教授の名講義を思い出す。また聞きたい」
先生方はそう思ってもらえるよう、日々頑張っている。はずである。はずだろう。そう思いたい。
【追記】その後、東洋経済が2代目店主の小林さんから直接、これまでの経緯や今後について話を聞いている。