空色♡Birthday Card の歌詞考察
どこまでも続く同じ空の下で、見上げた景色に想いを描く
恋を諦め夢を追いかける事を選んだ少女の、深い愛と決意を歌った曲
ミリシタで行われた公演MILLION THE@TER SEASONにて、チーム「LOVERS HEART」を締めくくる曲として「空色♡Birthday Card」が実装されました。LOVERS HEARTらしく恋心や愛情といったテーマを押さえつつも、しっとりとした曲調や歌詞で表現された切ないラブソングとなっています。
今回、一人のミリオンライブのP、もといファンとしてこの曲の歌詞に込められた奥深い思いや表現力に感銘を受け、考察というには拙いかもしれませんが思うところを書き起こしてみました。歌詞含め音楽関係は素人同然の自分ですが、この曲が好きだという同志と共感・共有できればと思います。当然勝手な解釈を多分に含むため、あまり信じすぎないように軽い気持ちで見ていただけると助かります。
曲の詳細
空色♡ Birthday Card
作詞:辻 純更
作曲・編曲:藤原彩豊
歌:LOVERS HEART
最高の曲を仕上げてくださった皆様に感謝。
曲全体として
歌詞を順に見ていく前に、この曲全体のテーマについて話したいと思う。この曲のあらすじは、
夢を叶えるために恋を諦めた女の子が、
別れた恋人の誕生日と共に彼への愛情を思い出すが、
最後には決意の表れとして元恋人への愛情に区切りをつける
といった、恋人と別れた女の子の視点から描かれる、彼女の持つ優しさや愛情、そしてそれに相反するといってもよい強さを表現した曲となっている。
こう書くといつまでも過去の恋を引きずった、うじうじした女の子がイメージに浮かぶかもしれないが、それとはむしろ真逆の想いを歌った曲で、彼女の強さ、優しさ、そして切なさが絶妙に入り混じった生き様が見られる所にこの曲の魅力があると思う。
この話は恋人と別れて数週間から数か月後(おそらく1年未満)の元恋人の誕生日での出来事である。恋人とのやり取りを想起させる歌詞はいくつかあるが、過去や未来を描いた話ではない。女の子が今もなお抱いている元恋人への想いの深さと、その気持ちを胸に夢に向かって進む強さが曲全体を通して描かれている。
この曲は、女の子が元恋人への気持ちを整理して前に進むための曲なのだ。
曲名について
曲名を直接言い換えるならば、「遠く離れた場所から君へ届けたい気持ち」だろうか。
この曲において「空」は、様々な思いを描くキャンバスのような物だといえる。よく創作物などで「同じ空の下」という表現があるように、「どんなに遠く離れていても、私たちは同じ空の下にいる」といって、離れた人たちの心を結びつけるような場所として扱われる事がある。この曲では、どこまでも続く空に乗せることで、離れた元恋人に想いが届くことを願っている。
そして、「Birthday Card」とは実際の物ではなく、ここでは「思いを乗せる物」といえるだろう。これもまたキャンバスのように心にある気持ちを自由に描けるようなもので、キャンバス ≒ Birthday Card ≒ 空 となる。
つまり空色♡Birthday Card とは空のようにどこまでも広がる、想いを描く場所の事だ。彼女はそんなどこまでも広がる場所に様々な思いを乗せているから、もう少し踏み込んで「離れた人に抱いている想いそのもの」という解釈もできるかと思う。この曲のタイトルは、実際に届くことはない女の子の気持ちを表現すると共に、その壁を乗り越えるほどの想いの強さを含んでいるのだ。
詳しくは、これから歌詞を順に見ていきながら説明していく。
1番Aメロ
1番では全体的に前向きな気持ちを歌っているこの曲だが、ここでは別れたばかりの暗い気持ちが少し現れている。状況としては少し曖昧で、この時点で読み取れるのは「女の子の不安な気持ち」と「何かの記念日を見つけた」ことだけであり、恋人と別れた事や丸い印のついた日付が恋人の誕生日である事はこの先分かって来ることである。
あえてタイトルにもある「誕生日」というフレーズをここで用いなかったり、恋人と別れた状況を説明しない事で、偶然見つけた過去の記念日から忘れかけていた感情をに思い出し始める女の子の心境が見事に表現されている。
曖昧な状況が徐々に明かされていくことで、女の子が持つ想いの深さ・柔らかさ・身近さが感じ取れるようで、曲と共に女の子の気持ちまで入り込んでくるようだ。
ここではあえて、女の子が想いを馳せる事のきっかけとなったふとした瞬間"のみ"が曲の最初に描かれており、小説のような物語の始まりを感じさせる書き出しも、この曲の魅力ではないだろうか。
「遥かきみへ」というフレーズから、想い人とは距離が離れてしまった事が予測できる。
「空に溶ける」というのは「気持ちが空に溶けるように広く染みわたっていく」という意味だろう。空を通して広がっていった気持ちが、同じ空の下にいる彼に届くようなイメージだ。このような表現は1番サビ終わり等にも使われており、曲全体を通しての彼女の気持ちのあり方を示している。
女の子は遠く離れた彼に対し直接言葉を届ける事はできないが、それでもなんとなく届けたい気持ちを抱いている。
1番Bメロ
ここで初めて、女の子が恋人と別れたという事実が発覚する。しかし、ネガティブな印象ではなく、むしろお互いが自分自身の道を進めるように願いつつ彼の幸せを願うという、女の子の深い優しさが見て取れる。
"友達"と強調されているのは、恋人を強く否定する意味に他ならない。サビに入るまではなんとなしに彼女の明るい気持ちが歌われていたのにも関わらず、最後の「友達」という単語だけでこれまでの想いが一転して切なさや哀愁を含み始め、彼女の持つ悲しさが突然顔を出す。しかし、これは過去を引きずる事をやめた彼女の強い決意の現れでもあり、彼女には進むべき未来があるのである。
1番サビ
別れた相手にも関わらず依然「好き」だと言える深い愛情、そして「いいかな」という別れた事実を気にした相手への思いやりの気持ちなど、ここでも彼女の優しさが大きく表れている。
「世界中の」というのがそのままの意味で海外へ飛び立ってしまったのかは分からないが、どんなに離れても届けたいという思いが彼女にはあるという事だろう。
切手は、手紙や葉書などの郵便物を届けてもらうサービスを利用する為に必要になるものだ。では女の子は元恋人に対して手紙を送ったのだろうか?
答えはNoだろう。もし彼女が実際に手紙を送ったのだとしたら、「四角い窓の景色を切手にして」という歌詞の説明がつかない。特定の景色を切手にすることに、果たして特別な意味があるだろうか…?
「四角い窓の景色」とは何の事だろう。これは後でわかる事なのだが、2人が別れる原因として遠くに行ってしまったのは、女の子の方なのだ。つまり、四角い窓の景色とは、女の子が離別する際に新幹線や飛行機の中から見た景色の可能性がある。あるいは、引っ越した先の家から見える景色かもしれない。いずれにせよ、恋人と別れた(ここでは距離的な側面が強い)という事実を想起させるような、彼女にとって全く新しい景色の事なのだ。
そのような景色は別れを思い出させる物であり、決して本当に届けたい想いではない。しかし、別れる辛さと共に刻み込まれたその景色は気持ちを伝える際にどうしても伝わってしまう。「四角い窓の景色」とは、手紙の隅に張り付けた切手のような小さな思い出として、伝える必要が無くても伝わってしまうようなものなのだと考えられるだろうか。
あるいは、こういう考え方もできる。切手とは、手紙を送るための手段である。つまり、彼女にとって想いを伝える手段が「四角い窓の景色」なのだ。1番Aメロの「空に溶ける」やサビ終わり(後述)の「届け きみへと続く青」等から考えられることなのだが、女の子は想いを空に乗せるように遠く離れた元恋人に届けようとしている。もちろん、現実的な話をすれば実際に想いが通じるわけではない。同じ空の下にいるのだから気持ちは通じあうよね、というニュアンスを込めているのだ。
窓から空を見上げるとき、空の中に広がる景色と共に、広い空の下にいる事を実感する。どこまでも広がる空を強く認識する事で初めて、届くはずもない気持ちが遠く離れた彼へ伝わるイメージができる。そういった実感が気持ちが通じ合うという事であり、想いが届くという事なのであれば、それを実感させてくれる「景色」は想いを届ける為の手段であり、手紙にとっての切手なのだと言えるだろう。
長くなってしまったが、彼女にとって想いを馳せるときは、新しい景色が共にあるものなのだろう。彼女の複雑な感情とそれに至るまでの経緯がこの歌詞には描かれている。
彼女の優しさがぎゅっと詰まった一節。果たして、ある人物に対して、ましてや一度別れた人に対して、ここまでの愛を包み隠さず抱けるものだろうか?
「もう大丈夫だよ」「もう平気だよ」は1番Aメロでも登場したフレーズで、彼女が別れた寂しさを紛らわすために言い聞かせていた言葉である。これは、彼に向けた言葉だろうか?
彼女は自分の気持ちに区別がついていないのかもしれない。実際に届けたい訳ではない気持ちが彼女の中だけで膨らんでいき、やがて大きくなりすぎた想いは空に混じるように隠すことができなくなっていく。その結果、彼女の伝えたい想い・本当の想いの線引きが曖昧になっているのではないだろうか。彼女自身も、伝えたいのかそうでないのか分かってないのかもしれない。
あるいは、別れを決意した言葉なのかもしれない。ありがとうはこの曲の締めくくりの言葉だ。そのありがとうの想いを乗せて、貴方を忘れて独り立ちしますという意志をこの言葉に乗せているのかもしれない。詳しくはラスサビの項目で語りたいと思う。
ここまでの考察で何度か話した通り、彼女は想いを空に乗せて届けようといている。Birthday Card とあるが、実際にカードを送るわけではない。想いを綴る媒体として、バースデーカードのように空に想いを描いて気持ちを伝えようとしているのだ。これは切手の考察からも繋がる上に、続く歌詞からもそれが分かる。
君へと続く青とは、まさしく空の事だ。どこまでも広がる空に想いを乗せて、「届け」と遠く離れた人へ気持ちが届くことを願っている。
「青」はやはり空色よりもはっきりとした強い色という印象が感じられる。今いる彼女の場所から、元恋人の方に向かって真っすぐ伸びていくような、でも実際は放射線状に伸びていく青空の下での、広大な世界でのはっきりとした強い想いがうかがえる。
実際に彼女の気持ちが届くことはない。それでも彼女は元恋人への感謝や愛情を感じている。届かないけれど確かに胸に抱いた強い想いこそが、空に広がる”青”なのだ。
2番Aメロ
別れる原因がここで初めて明らかになる。女の子には叶えたい夢があり、そのためには恋人と別れる必要があったのだ。恋人への深い愛情を示してきた彼女が優先した夢は様々なものが考えられるが、やはりアイドルマスターの曲という事もあって、彼女はアイドルを目指したと考えるのが自然だろう。
皆に夢を届けるアイドルが恋人を持ってはいけないという風潮は確かにある。彼女の目指すアイドルにとって恋人の存在は邪魔なものであり、夢を優先した彼女は恋人と別れる事に決めたのだ。恋よりアイドルを優先するのは不器用だ、と言って、そういう選択をとったのは仕方がない事だと自分に言いきかせている。
他のどんなものも犠牲にしてアイドルを目指す彼女の姿は、まさしく我々の心を奪ってきたアイドルマスターのアイドルが持つ輝きではないだろうか。彼女の恋心の裏には、こんなにも強いアイドルへの想いが隠れていたのだ。
飛行機雲のキリトリ線は、彼女と彼の心を別つ仕切りのような物だ。彼女の想いはたとえ離れても空が続く限りその下では繋がっていた。しかし、空にかかる飛行機雲が空を分けているのを見て、まるで届けようとしている気持ち遮る障壁のようなものに見えたのだろう。彼女にとって別れたその日は、彼との心の間に明確に壁ができていたのだ。
ついでに、キリトリ線はハガキなどから連想できるもので、切手に続いて郵便物になぞらえられている。やはり広がる空の中に存在する風景が、彼女にとっての心の現れなのだろう。
キリトリ線は、夢を追いかける強い意志を持ちながら、相手の事を思いやれる優しい気持ちを併せ持つ、彼女の残酷な代償である。
2番Bメロ
恋人に別れを告げたことを謝る彼女だったが、自分の夢を信じ、後ろめたい気持ちを言葉にはしなくなった。
「最後の約束」について、その詳細は分からない。しかし、”恋人として”最後の約束という事だろう。後の歌詞でもお互いが会う事はもう無いだろうと触れており、曖昧な関係は続けていかないという決意が感じられる。
見上げるのは、自分の想いが伝わる場所でもある空だろう。つまり、空を見上げる行為は、自分の気持ちと向き合うという事だ。恋人への後ろめたさ・夢をあきらめたくない気持ち、彼女がもつ全てを認めて、新しく旅立ちにでようという意志が見える。
2番サビ
「生まれた日は泣いたってね 誕生日は何度も笑って」…この歌詞から得られるメッセージはいくつかある。誕生日はめでたいものだが、生まれた日だけは泣くものである。いわれて見ればそうだなとも思える事だが、元恋人の誕生日をなんとなしに気づくことになった女の子と、誕生日のあり方に気づいた曲を聞く人の境遇が少し重なりあうような気がしないだろうか?(…これは少し考えすぎかもしれない。)
さらに、もう一つ重要な解釈がある。このフレーズは、誕生日という日によって、涙の始まりとそれ以降の笑顔の日々を繋げているのだ。生まれた最初の日は泣いても、おめでたいという気持ちはずっと変わらない。それ以降も一年に一度巡ってくる、楽しい記念日であるのだ。これを彼女の境遇に重ねるならば、「別れたその日は泣いて(泣かせて)しまったけれど、アイドルという夢を追いかける気持ちは変わらないから、貴方の事を思い続けるよ」という意味にとれる。
つまりこの歌詞には、ふと気づいた誕生日を純粋な気持ちで祝う彼女の優しさと、悲しい気持ちを切り替えて変わらない夢を追いかける彼女の決意の強さが同時に潜んでいるのだ。
さて、消印とは、切手やキリトリ線に続いてまたもや郵便関係のフレーズであるが、平たく言うと郵便物が届いたという証明である。つまり、彼女は飛行機雲という空に浮かぶ景色を見て、想いが届いたのだとなんとなく思ったのだ。
消印は、本来は切手の上に押印・署名されることが多い。彼女の想いをそれらになぞらえて表現するなら、「窓の景色に映して送った自分の想い(切手)は、かつては彼女と彼の気持ちを別つ壁に見えた飛行機雲(キリトリ線)を見ると、なんだか想いが届いたような証(消印)にさえ見えるよ」となる。
空をメッセージカードとして想いを切手や消印等の様々な物にたとえた、彼女が持つ伝えたい想いの強さ・でも伝えられないもどかしさを表現した素晴らしい表現方法だ。
相手からのメッセージじゃなく、単なる届け出の証明でる消印であるあたり、空に気持ちを乗せるという、言ってしまえばひとりよがりな行為が生み出す不確実さ・不安定さが表現されており、それもまた2人が別れたという切なさが際立っている。
やはり1番と同じく、彼女の強い優しさが表れている。「きみがきみで嬉しい」とは、この話が数ある恋愛の中の別れ話という訳ではなく、彼女にとって彼は本当に大切なたった一人の人であった事を言っている。それを諦めたという事は、彼女の夢にかける思いの強さが一層際立つ。
「偶然に会えたら」というフレーズは、「もう会う事は叶わないけれどもし会えたらいいね」という明るい話ではなくそのむしろ逆で、「私たちが会う事は二度とない」という意趣の裏返しの表現ではないかと思う。
そもそもなぜ彼女は想いを伝える為にこのようなもどかしい思いをしているのだろうか?偶然に会えたらというが、実際に手紙を送るなり、電話をするなりといった手段があるはずだ。彼女がそうしないのは、出来ないからではなく、やってはいけない事だからなのだと思う。
2番のBメロに戻ると「最後の約束」というフレーズがある。そこではどんな約束かわからなかったが、「もう二度と連絡を取らない」という約束であれば、辻褄が合わないだろうか。このような連絡手段を直接的に絶つ約束でなくても、「お互いの事をきれいさっぱり忘れる」だったり「それまでの関係はなかったことにする」などの内容も考えられる。いずれにせよ、そのように2人が意図的に連絡を絶ったのであれば、彼女の抱くもどかしい感情にも納得がいく。
そんな約束をしなければならなかったのも、ひとえに彼女の抱く夢への強さ故だろう。恋が彼女の夢を阻害するものであるなら、そういった手段で関係に区切りをつけた可能性は高い。
「偶然」という単語は、彼女の弱さの表れだ。彼女が夢に集中するなら、本来は偶然であったとしても、出会わない方が良いのだ。偶然は、彼との約束を打ち破るものだ。それでも彼女がこのような言葉を思ってしまうのは、偶然を言い訳にしてでも会いたいと思ってしまう程、彼への愛が強いからなのだろう。彼女の弱さともいえる優しさが垣間見える節である。
1番で見せた強い想いとは対照的に、少し消極的になっている。「今は」と言っているので一見想いが伝えられる日がいつか来るようにも見受けられるが、「いつか偶然に会えたら」とも先に歌っている。いつか来る「偶然」を願って、今はまだ耐えていようという、これもまた彼女の弱さの表れと見るべきだろう。「そっと」というのは、約束を破ることになる偶然を願っていることの後ろめたさなのだろうか、それとも彼女の優しい気持ちの表れなのだろうか。
1番Aメロと同じ為省略。
(Farとふわが韻を踏んでて気持ちいい)
Dメロ
「ひとつずつ」は多分願いにかかっているもので、歳を取るごとにという意味であろうか。どれだけ誕生日が来ようとも彼の幸せを願っており、彼女はどこにいようが、彼の誕生日のたびに抱く彼への想いを胸に、幸せを願っていくのだ。
カレンダーをめくるという事は、当然月が替わるという事で(日めくりではないはず)、彼の誕生月からは外れる。それでも彼女は変わらず想い続けるのだろう。ここでは誕生日に送る「Birthday Card」ではなく「Message」となっており、誕生日に限らずどんな時でも届けたい想いがある事を言っている。
願いとあるが、1番Bメロにもあるように、女の子の元恋人に対する幸せの事だろう。また、「(明日へ)明日へ」は一日一日を思わせる表現で、「ひとつずつ」とは一日ごとにという意味かもしれない。そうなると、誕生日に限らず彼には毎日幸せに過ごしてほしいと彼女は言っている訳で、彼女の持つ想いの強さ・優しさは計り知れない。
ラスサビ
1番サビと同じ為省略。
「指先でありがとう」とあるが、空は彼女の想いを乗せる場所である。彼女が空にありがとうの文字を書いたという事は、その想いが同じ空の下にいる彼の下へ届いてほしいという気持ちの現れに他ならない。
指先で書くという事は筆で文字を連ねることに対応する。これまでの彼女は想いを景色という曖昧なものに形を変えて空に描いてきており、文字を書くという行為はそれだけはっきりとした想いであるということである。彼女にとって、「ありがとう」という気持ちが最も強く、彼に一番伝えたい言葉なのであろう。1番サビでもありがとうの気持ちが表れており、2番サビに至っては会った時に伝えたい言葉がありがとうであるとも言っている。彼女が彼に対して一番強く、一番鮮明に感じている想いが「ありがとう」なのだ。
この曲はありがとうという言葉で締めくくられる。どこまでも続く青い空を見上げて、どこかにいる想い人に届けたい言葉を、指先で彼女は描いた。空に描いた文字が、溶けるように広がり彼のもとに届いてほしいと願うのは、それだけ彼女にとって想いが強い言葉だからだろう。しかし、ありがとうという言葉は一種の区切りのようにも捉えることが出来る。
「今まで愛しい日々をありがとう」
「君に恋をしてよかった」
「もう大丈夫だよ、もう平気だよ」
彼女がそれまでの日々に感謝を伝えると同時に、もう会えないことを受け入れる為に、ありがとうを空に残したのだと考えられる。それは彼女の優しさでもあり、強さでもあるのだろう。
この歌は、夢を追いかけ、恋人との決別を選んだ少女の想いを、切なくも強く描いた歌なのである。
終わりに
ここまで駄文に付き合っていただきありがとうございました。
結構女の子の悲しい気持ちを多めに解説することになりましたが、改めて曲を聴きなおすとやはり、女の子の彼への愛情や前向きさを感じ取れて、優しい気持ちになるので、ポジティブな気持ちで聴くのがいいのかもしれません。
曲調はバラードでとてもしっとりしていながら、前に進んでいこうという明るい気持ちが伝わってきます。それでも隠し切れない寂しさや不安だったりというのが、曲調に上手く表れており、やはりそこがこの曲の魅力かなと思います。
ご存じの通り、この曲はミリオンの誰かをモデルにしたような曲ではなく、歌の主人公である女の子の気持ちを借りて歌う曲となっております。こういった曲は、そのアイドルにしか出せない色をだして歌い上げてくれるので、アイドルの数だけ新しい曲になります。その分生まれる解釈も増え、湧き上がる感情も全く違うものになるので、聞いていて本当に楽しいしミリオンライブのアイドルの良さが存分に味わえるところだと感じます。
今回の歌のメンバーであるLOVERS HEARTでは、バラードだったり恋愛曲だったりというのを今まであまり歌ってこなかったアイドルも多くいるので、そういった所もうれしい所ですね。
逆に歌がアイドルの事を鮮明に語っている曲もあり、もちろんそれはそれでよいのですが、歌に合わせてアイドルがどう表現していくかをこの曲では見られるので、やはりミリオンは良いなと思わされます。
ふと思ったことなのですが、この曲のテーマとしてもう一つ「アイドルの輝き」というものがあるように思います。他のいろんなものを犠牲にしても、夢を追いかけてアイドルとして輝きたいという思いの強さは、アイドルマスターという作品を通して描かれてきたものです。
厳密には歌詞中でアイドルの夢があるとはいってはいないのですが、夢を追いかけるという事はどんな事でも敬われるべきものです。アイドルというものは、数ある夢の放つ輝きの一つとして存在し、夢を追いかける事の尊さを描いている事には変わりないでしょう。
女の子は恋を犠牲にしたと言ってきましたが、元恋人への想いまでは犠牲になっていない事は大切なところです。夢を追いかける為に関係を断ち切ることは、それまでの思い出をなかったことにしたり、これからの気持ちに陰りをつけるようなものでもないのです。恋人として過ごしてきた思い出や、彼への愛情を抱くことが、これからの彼女を支えるものとなっているのです。
『劇場版 THE IDOLM@STER 輝きの向こう側へ!』の話とも重なる部分がないでしょうか。春香は、今自分がアイドルとしていられるのは、今まで自分と関わってきた全ての人たちのおかげで、765プロのみんなが居なければ私はここにいない、とその時の自分を評価しました。そして、可奈を含むバックダンサーであったミリオンメンバーと共に歩む決意をし、誰一人として手放さない事を選んだのです。
彼との思い出は、女の子にとってはきっととても大切なもので、それまでの彼女を作ってきたものです。彼へのそれまでの、そしてこれからの愛情は決して無駄なものではなく、むしろこれからの彼女を支える大切ものの一部となるのです。
(一応補足しておくと、恋人と別れるという事は、誰かを手放すということ
とは全く別だと思われます。恋人と別れる事は夢を追いかける為の決別で、誰かを手放すという事は誰かの夢を諦めるという事であり、この2つはむしろ真逆の事を指します。)
一人も手放すことなく歩んできたこの道がミリオンライブのアイドル達の輝きだと称するならば、自身をそれまで連れてきてくれた元恋人との思い出を手放さずに夢を追いかける彼女の様は、まさにアイドルの輝きといえるのではないでしょうか。この曲は、ミリオンライブのアイドルの輝きをテーマとした曲なのかもしれないのです。
…ちょっと考えすぎな気もしてきましたが、そういったアイドルの持つ輝きに匹敵するほどの強さ・優しさを、この曲の気持ちを紡ぐ女の子から強く感じたのです。
ここまでいろいろ考察してきておいてなんですが、ここまで全部自分の独自解釈であり、作詞家の辻純更様が違うと言えば違うので、MOR等で早く辻先生から答えが聞きたい所ですね。
当たり前ですが辻純更様へのリスペクトが最優先であり、ここまでの考察が全然違うものだった場合、過ちを認め顔面真っ赤にして穴掘って埋まります。
あまり辻先生のすごさについては語れませんでしたが、別れた女の子の気持ちをテーマでここまでの考察をさせてくれる辻純更は本当にすごい人です。
彼女のある日の出来事と、徐々に明かされていく彼女の境遇が、落ち着いたメロディーの始まりから語られ、サビに入ると同時に彼女の深い愛情が爆発します。彼女が抱いていた夢への想いの強さは2番で初めて明かされるところであり、彼女が抱く想いの正体が徐々に明かされる事となります。
正直まったく語り切れないのですが、それを書こうとすると考察ではなくただの自分語りになるのでここでは我慢しようと思います。すげえいい曲なんだけどな・・・
こんな素敵な歌詞を書いてくださった辻純更様には本当に感謝です。
辻先生はミリオンライブだと他に『My Evolution』『ダイヤモンド・クラリティ』『ショコラブル*イブ』を書いています。どれも歌詞が心に響く最高の曲たちなので、これからもミリオンで曲をぜひ書いてほしいところです。
さて、ちょろっと書いて終わる予定だった考察が死ぬほど長くなってしまいました。もっと簡潔に説明するべきなのかもしれませんが、それをするにはこの曲の歌詞の持つ意味が深すぎた、という事にしておきます。少女の沢山の想いが折り重なって出来たこの曲の素晴らしさが、私の拙い考察で少しでも伝わったならば幸いです。
この曲の制作に携わった関係者の皆様、
ここまで読んでくださった皆様、
ありがとうございました。