鏡映左右反転現象を知るには絶好の一冊。
この本の素晴らしさは、多幡達夫によるamazonの書評にある通りだ。
この本を読んで、自分の記事の至らなさと、実験心理学が気づいてきたものの大きさや確かさを実感した。
以下にいくつかの印象的な部分を記すが、引用部分だけでなく、本全体を通じて具体例や説明があってわかりやすくかつ説得的に論じてある。
まず、
左右反転感を抱かない場合
についてである。
続いて、左右反転感を抱かない例として、顔を化粧する場合、バックミラーを見る場合、などがあげられる。ここに至って筆者は初めて、左右反転感を抱かない場合、そして広義の鏡像問題の重要性を知るに至った。
そうして、
共用座標系と固有的座標系の選択
についてこう説明する。
なるほど、こういうふうに、鏡を見る意図により、座標系が選択されているという説明は納得感がある。
子供が方向概念を獲得する順序性と年齢差について記載し、左右反転感が
心理的要因
であることを決定的に示してくれる。
回り込みが、身体だけでなく、もっと広い範囲
であることも、厚みのある説明で違和感なく受け入れられた。
ここでは、印象的な内容として、筆者がこの本を読んで初めて納得できた点を述べたが、物理と心理のバランスもよく、吉村が長年取り組んできた「逆さ眼鏡実験」の成果と相まって、完成度高く読みごたえがある。
鏡映左右反転の現象・問題の複雑さのため、一直線じゃない読みにくさを感じるかもしれないが、本格的に謎と付き合いたいなら、この本という感じである。
心的反転(mental inversion)
筆者(私)は、「鏡映左右反転の物理と心理」を書いた際、人は心的に反転する能力をもたないとして書いたが、吉村の本を読んでいると、人には、空間回転だけでなく心的反転の能力さえある気がしてきた。
これを読んだ後、筆者はあごひげを剃ったが、前後方向にとくに支障なく髭剃りを動かしていた。回転はしてないが、心的に反転しているような気になった。
筆者のキーポイント(記事)について
一応、筆者の記事も宣伝しておくと、我田引水になるが、キーポイント1~は、吉村を読んでもなおわかりやすく正確な内容だったと思う。
実は、私たちが物を上向きに見てるから左右反転するという狐につままれたような答えはそれなりに的を得ているということだ。
その他の本
なお、多幡も書いているとおり、
高野陽太郎「鏡の中のミステリー」(岩波科学ライブラリー、1997)
は、いわゆる鏡映左右反転の謎の解明がいかに複雑・混乱しているかを知るのにはいい。
また、
高野陽太郎『鏡映反転――紀元前からの難問を解く』岩波書店( 2015)
は、刺激的で、多くの人にこの問題を自分も考えてみようと思わせてくれるような本である。
ただし、もし、本当に鏡映左右反転現象の広がりや解決をきちんと把握・理解したいなら、この
吉村浩一『鏡の中の左利き―鏡像反転の謎』ナカニシヤ出版 (2004)
を奨める。
初版:2023/08/10