MPHのmJOHNSNOW日記

自己紹介

私は国内のSPHを修了してから、現在所属している研究機関で精神保健の研究を始めました。実はSPHに進学したのは40代後半のことです。長年メンタルヘルスに関する仕事を続けてきましたが、より専門性の高い知識やスキルを身につけることで、仕事の質を高めたいと思ったのが進学を決めた大きな理由です。

新卒で民間企業に就職し、摂食障害の方の治療支援、大学生のメンタルヘルス支援、企業でのメンタルヘルス研修など、一貫してメンタルヘルスにかかわる業務を担当してきました。実は大学では地理学を専攻していて、当初はアルバイトで働いていた地理関連の企業にそのまま就職する予定でした。しかし、学生時代にメンタルヘルスで悩む友人や知人が多く、休学、退学してその後音信不通になってしまうなどを経験し、メンタルヘルスへの問題意識が強く残っていました。ちょうど大学卒業のタイミングで、私が以前から興味を持っていたメンタルヘルス関連の事業を行う会社が新卒採用を開始するという情報を得て、急遽採用試験を受けました。そして幸運にも1期生として入社することができました。

それ以来、非医療職ながら会社で教育支援を受け、約20年間にわたってメンタルヘルス領域の仕事に携わってきました。こうした経験を積む中で、顧客やクライアントにとってもっと満足度の高い仕事をするには、より深い専門性が必要だと感じるようになり、SPHへ進学しました。私がSPHへの進学を心に決めたのは、そこの教員でいらした先生が説明会で「SPHには、自分も地域住民の一人であることの自覚がある人に来てほしい。」という一言があったからです。私はそのお言葉を、よりよい公衆衛生対策を行うには対策をされる対象者をよく理解し、その立場で考えられることが大切であるという事をおっしゃったのだと解釈しています。それまでは、非医療職である自分が公衆衛生を学ぶことに意味があるのかと逡巡していましたが、そのお言葉を聞き、一地域住民の自分の視点は、もしかしたら見過ごされてしまう重要な研究の切り口を拾い上げることができるかもしれないと思いました。その先生には在学中にも「公衆衛生を行うのに医療職であるかないかは関係ない。ゆっくり進んでいけばいい。」とお言葉をかけていただきました。余談ですが、ちなみにその先生はmJOHNSNOWでも講義される予定の佐々木先生です。実際、非医療職の立場でしかも仕事をしながらSPHの講義についていくのは大変でしたが、佐々木先生のお言葉のおかげで乗り切ることができたと心から感謝しています。SPHでは研究に初めて本格的に取り組み、「データを使ってまだわかっていないことを明らかにする」プロセスに面白さを感じました。そしてそのまま研究を続ける道を選びました。

mJOHNSNOWに入会した理由

私がmJOHNSNOWに入会した一番の理由は、「メンタルヘルスの問題から“取り残されてしまう”人を可視化するために、自分の研究で因果推論を使えるようになりたい」と強く思ったからです。SPHで因果推論の手法を学び、観察データから因果関係を推論するアプローチの魅力に気づきました。さらにボストン大学の芝先生や京都大学の井上先生のブログや論文を読み進めるうちに、因果推論の関心が私の中で一気に広がり、特に「効果修飾」に焦点をあてる論文に深く感銘を受けました。

効果修飾とは、ある特定の要因で層別すると、同じ暴露や介入でもその効果が層によって異なる、という考え方です。私がメンタルヘルスの研究をする中でいつもモヤモヤしていることがありました。それは、「ある介入が効果的とされている一方で、その介入が効かない(あるいは逆効果になる)人はどうなるのか」ということです。例えば、休職者を対象とした介入プログラムで、復職に成功する人が増えたとします。これは一見「効果があった」と言えますが、中には復職できない人もいるわけです。こうした“取り残されてしまう”人々がいるのか、いる場合どのような要因が関与しているのか、それは公衆衛生上どのような問題を生じさせるのかなどをきちんと研究で明らかにしないと、国民全体のメンタルヘルスの向上にはつながらないのではないかと考えていました。

だからこそ因果推論における「効果修飾」は、私がメンタルヘルスの現場で常に抱いていたモヤモヤを解決するカギなのではないかと思いました。とはいえ所属する研究室には、因果推論に詳しい指導者や先輩がいませんでした。そのため、書籍やインターネット上で因果推論に特化した研究者のウェブサイトを読んだり、セミナーに参加するなどして独学していたのですが、それらは理論的な内容がメインのものが多く、解析を実践するセミナーでも理論を理解していることが前提になっており、私には難解で実際にどのように研究に適用すればいいのかいまひとつ掴みきれませんでした。そんなときに、mJOHNSNOWが立ち上がると聞きました。それまでもmJOHNSNOWが開催していた有料セミナーに何度か参加していました。mJOHNSNOWのセミナーは、受講者のニーズを丁寧に汲み取り、学んだ翌日から使えることを意識して構成されており、他とは一味違うと感じていました。そのため、ここで提供される学びの場であれば、因果推論を実践できるようになると考え、すぐに入会申し込みをしました。

mJOHNSNOWに入会して感じたこと

私がmJOHNSNOWで得られて一番ありがたかったことを一言で表現すると「安心感」だと思います。具体的には以下の通りです。

1.コンテンツの質

私の思うmJOHNSNOWのコンテンツの特徴の一つに、「学習者のニーズに合ったものを提供し、さらに専門家が内容を保証してくれる」という点があります。初学者が因果推論を用いた研究論文を書けるようになるまでに必要な手順や知識をきちんと整理し、かつ「学んだらすぐ使える」ように設計されているように感じます。

因果推論で最初につまずくことが多い基礎理論も、初心者が置いてきぼりにならないようにかみ砕かれた内容で、段階的に学べるよう工夫されています。加えて、mJOHNSNOWに在籍する疫学専門家だけでなく、外部の統計家など複数の専門家が共同でコンテンツを整備しているため、内容の正確性や最新性も高いと感じました。こうしたコンテンツの質が「ここで提供されたものをきちんと学んで身につけていけば確実に因果推論を自分のものにできる」という安心感につながっています。

2.質問のしやすさ

私が今まで抱えていた大きな悩みは「質問のしにくさ」でした。セミナーに参加し、質問をすると「こんなことも分からないのか」という反応をされているように感じ(ただし、自分ができないという気持ちの強さから被害妄想でそう感じていた可能性も否めません)、恥ずかしさからさらに質問しづらくなってしまうことがありました。また、因果推論を学ぶ人が周りにおらず、そもそも困ったときにすぐに質問できる相手がいないという状況でもありました。そのため、せっかくセミナーに参加しても理解できた、身についたと思えるものがあまりありませんでした。

しかしmJOHNSNOWでは、どんな些細な疑問でもフラットに受け止めてくれます。さらに、Slackを通じて質問を投稿すれば、因果推論に関することはもちろん、解析コードの書き方、スライドを作るツールに関する些細な質問に対しても、スタッフの方、フェローの方、外部の専門家の方、誰に質問しても否定的な態度を取られることなく、ほぼ必ず誰かが解決の糸口となる回答を返してくれるのも心強いです。こうした風土は、学習が停滞するリスクを下げるだけでなく、質問した側も安心して学習を続けられる大きな原動力になっています。

3.非医療職としての居場所

研究業界は医療職の方が多数派であることが多く、私のような非医療職だと、相手にされていない感があり、どうしても疎外感を覚えることが多くありました。ところがmJOHNSNOWでは、非医療職の仲間が実は少なくないうえ、医療職のフェローもフラットに接してくれます。そのため「ここなら自分も居て良い」という安心感が得られています。

また、因果推論に興味を持つ仲間が想像以上に多く在籍しており、それぞれのゴールを共有し合えることも大きなモチベーションです。Slackでのコミュニケーションを通じてお互いの学びを支え合う、励まし合うことで、孤独感を感じにくい環境が築かれています。スタッフの方が積極的にフォローしてくれて、フェロー同士の交流が自然発生的に生まれやすいのも魅力の一つです。それに加え、24時間のオンライン自習室を整備していただいていることにも大変助けられています。独学をしていた時は、内容の難しさもあり継続的に勉強を続けることに心理的な困難を感じていましたが、オンライン自習室で他の方が頑張っているのを見ると、自分も頑張らなければと前向きな気持ちになれます。おかげで、勉強に継続して集中して取り組めるようになりました。

4.価格面

これまで因果推論を学ぶために、いろいろなセミナーや講習に参加してきましたが、その費用は決して安くありませんでした。理論を学ぶことがメインのセミナーや講座でも、決して低額とは言えないものが多かったです。その点mJOHNSNOWは、定額制で継続的に多彩なコンテンツが提供されるため、大変コストパフォーマンスが高いと感じています。日常生活を維持しながら支払い続けられる負担感の低さで、この質の学習環境が得られるというのは本当に安心でありがたいことだと思います。

mJOHNSNOWへ期待すること

おそらく今後も、因果推論は多方面で活用が広がっていくと思います。医療職・非医療職問わず、複雑な社会問題を解決していくために「どのような介入が、どの背景条件で、どの程度効果があるのか」を示す方法論はますます重要性を増すと思います。mJOHNSNOWには、私のように医療職のバックグラウンドがないため、飛び込むことを躊躇しているけれども研究に関心・興味ある方がどんどん入ってきて、多様な仲間が集まってくることを期待しています。また、今は臨床系の疫学に関するコンテンツが中心ですが、社会疫学など様々な疫学分野のコンテンツやコミュニティーが増えることも期待しています。

これからの目標

私がmJOHNSNOWに入会してからの経験を振り返ると、「初学者でも実践的に学べる設計が整っている」「自分の疑問を解消できる場がある」「同じ志をもつ仲間がいる」ことが、因果推論を習得するうえで大きな助けになることを実感しています。また、医療職・非医療職の枠を超えて、互いの知識や経験を補い合いながら学習できる環境で多角的な知識、視点を得られることも大変刺激になっています。そのようなmJOHNSNOWで学んだことを活かして、私は以下の三つの目標を達成したいと考えています。

1.効果修飾を明らかにできる手法を身につける
ただ介入の「平均的な効果」を見るだけではなく、どんな背景や条件で効果が変わるのかをしっかりと示せる研究者になりたいという願いがあります。メンタルヘルス領域で取り残されがちな方たちの特性を明らかにするには、効果修飾の視点が欠かせないと感じています。

2.因果推論を教えられる人材になる
私は「できる=教えられる」と定義しています。自分が身につけた知識やスキルを誰かに分かりやすく説明し、因果推論に携わる人を増やすことに微力でも貢献したいと考えています。特に非医療職だからこそ、医療者とは異なる視点で因果推論を捉えるアプローチを他者に提供できるのではないかと考えています。

3.システマティックレビュー&メタアナリシス(SR&MA)を教えられるようになる
因果推論とSR&MAは、エビデンスを総合的に評価するうえでセットで役立つ領域だと思っています。研究成果を網羅的かつ定量的に統合していく手法を身につけ、それを誰かに教えられるレベルにまで昇華させたいです。

最終的には「年間10本の因果推論を用いた論文と1本のSR&MAを筆頭著者として安定的に出版する」ことを目標に掲げています。研究分野はもちろんメンタルヘルスが中心ですが、必要とされる要素技術(統計、疫学、学術的文章作法など)をトータルで強化し、研究者としての生産性を高めたいと考えています。引き続きmJOHNSNOWで学びを深め、因果推論に関する研究をより充実させるとともに、いつかは自分が得た知見を教える立場になりたいと強く思っています。ここでの学びを通じて、自分らしい研究の道を切り開き、公衆衛生の発展に貢献できる一員になりたいと思います。


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