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子の福祉を犠牲して共働きを推奨している日本
共働きが推奨されている現在において、誰もがオープンに言いたがらない本音を述べてみようと思う。日本で夫婦ともにフルタイムで働き、子供を育てる場合は子の福祉を犠牲にしなければ成り立たない。出産後にフルタイムを諦めるワーママが多いのは、自分のキャリアと子の福祉がトレイドオフになっている現状に耐えられなくなる人が多いからだと思う。
子の福祉
基本的な考え方として、子が健やかな成長を遂げるために、できるだけ悪影響を与えまいとするのが子の福祉の概念である。私は三歳児神話の信者でもないし、外部の力を借りて子育てをするのが悪いとは思わない。しかし現在の日本においては、夫婦がフルタイムで働く前提の社会構造にはなっていないため子供が悪影響を受けることが多い。離婚の際に父母が親権を争った場合、子供と過ごす時間が多い方が子の福祉を尊重できると考えられている。
家庭で過ごす時間が少なすぎる
保護者が共にフルタイムで働いている場合、乳幼児の頃から子供は長時間保育園に預けられることになる。これは日本特有の長時間労働、都心集中型ビジネスモデル、長時間の通勤時間が原因だと考える。
法定労働時間は、1日8時間週40時間である。残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間であり、超えることができるのは、年間6か月までである。仮に残業時間0だとしても(正社員で残業0の社員を見たことがないが)長時間保育園に預けることがデフォルトとなる。
そして、首都圏にある多くの企業は東京23区内に密集している。不動産が高騰している現状において、職場からドアtoドアで30分圏内に居住できるワーママは非常に少ない。首都圏だと平均通勤時間は、1時間〜1時間半であるらしい。関西圏だと、30分〜60分が平均通勤時間である。
時短勤務を申請しているワーママの場合、職場から1時間以内の場所に住むことが出来れば午前9時ー午後5時の8時間保育にすることができる。しかし職場から遠い場所に住んでいたり、フルタイムで勤務すると、午前8時-午後6時の10時間保育になる。これが、小学校になると(時短勤務ができないことが多いので)午前8時前後に自宅を出発し、帰宅は午後6時以降となる。
小さい頃から保育園に行かせると、協調性が身につくと自分に言い聞かせて後ろめたさを払拭する保護者も多いが、乳児に協調性は不要である。Socializing(社会性)とは、1日10時間以上も親と離れて保育士がギリギリの人数で保育している環境から身につけるものだとは思わない。
教育に投資しない国
先進国において、日本の公的な支出の中で教育費が占める割合は8%とOECDに加盟する36か国で低い。
国の配置基準は、0歳児3人に対して保育士1人、1~2歳児6人に対して保育士1人である。保育士はプロではあるが、3人の0歳児のケアを同時にすることは出来ないため自宅保育のように泣いたらすぐに抱っこしてもらえる環境ではない。
2021年3月に改正義務教育標準法が可決され、現在の小学校の1クラスあたりの児童数の上限は35人である。教員一人が35人の子供を指導・管理・確認するには無理があり十分に目が行き届いている状況とは言い難い。学童はさらに悲惨な状況にあり、狭い教室に子供がギュウギュウに押し込められており放課後児童支援員は常に足りない状況にある。
保育園では、泣いてもすぐに抱っこしてもらえない、眠たくても静かな場所で眠れない、温度調整や空調管理なども自宅と同様ではない、免疫力が十分でない間は頻繁に病気になる、など乳幼児にとっては可哀想な環境である。
小学校では、教員一人が35人の子供を指導するため、授業を回し安全を確保するのが精一杯の状況である。すし詰め状態の学童保育では、学校から帰った子供がゆっくりとリラックスできる環境ではない。
子供の健康が犠牲になる
日本では、有給制度は存在するがいつでも気軽に休める職場は限られている。ジョブ型雇用であれば、自分が休めば自分が挽回すれば良い。しかし、メンバーシップ型雇用においては、自分が休めば他のメンバーが補填しなければいけない。子供の体調がよほど悪くならなければ、気軽に休めない環境である。私も経験済みなのだが、子供の体調に少しでも異変がある段階で休ませれば(熱はないが元気がない、鼻が詰まっている、目がとろんとしているなど)悪化しないことが多い。しかし、保護者がフルタイムで働いていれば保育園や小学校が預かれない状況になるまでは、休ませないことが多い。その結果、子供の体調も悪化するし周囲にも感染をばら撒くことになり迷惑をかける。
そして、フルタイムで勤務すると食事生活が疎かになる。諸外国のように、手頃な価格のハウスキーパーサービスが充実していないため、家事を全て外注することが難しい。最近は作り置きサービスなどもあるが、1時間2500円〜から最低依頼は3時間からが多い。週1で来てもらうと、材料費+7500円✖️4となり食費だけで90000円くらいになる。現実的に多いのは、惣菜やテイクアウト、冷食のルーチンだろう。旬の食材を楽しみ、健康的な食事を作るという時間がフルタイム勤務のワーママにはない。その結果、バランスの良い食事習慣が身につかなかったり栄養が偏り情緒が安定しなくなったりする。
子供の基礎学力が犠牲になる
日本では、親のフォロー前提で子供の学力を維持している。小学校へ入学するまでに、読み書きと簡単な計算をマスターさせておくことが推奨されている。最近では、これに英語学習が加わった。幼少期からの習い事も年々加速しており、習い事をしていない未就学児はいないのではないだろうか。小学校へ入学すれば、保護者が子供をフォローする前提で宿題が出され、子供の忘れ物などにも気を配らなければいけない。
小学生低学年の間は、親の関与が前提の宿題が出されるため、親が毎日サポートできないと子どもが不利益を被る。例えば、音読の宿題の場合、保護者が側で音読を聞いて、読み方の間違いや句読点での間の取り方などを確認し、保護者確認サインをする。音読に一回付き合えば、20分前後はかかりそうだ。それにプラスして、漢字の書取り練習、計算ドリルなどのチェックもするとなると1日40分以上は子供の学習サポートに費やすことになる。面倒くさくても低学年の間に基礎学習を定着させなければ、中学年以降から理解できなくなる。その結果、中学校に上がる頃には上位の高校への進学へ絶望的になり、大学受験まで影響する。新卒採用において、王道ルートに乗れなければ、人生においての選択が狭まる。
制度を変えずに共働きを推奨しないで欲しい
現在の日本では、共働きを推奨するにも関わらず企業体制も教育環境も変わっていない。現在の働き方は、女性が家事・育児を主に負担する前提で男性社員に労働をさせている。子の福祉においては、保護者のどちらかがフルタイムで子育てにコミットできる(ようは専業主婦)環境を前提とした制度である。学校教育においては、保護者に多大な負担を強いる構成となっている。現在の社会構造においては、子供の保護者2人がフルタイムで働きながら健全に成長できる環境であるとは思えない。