見出し画像

場面緘黙のナレーター

【場面緘黙症】ってご存知ですか?
学校などの特定の場所で、話すことができなくなる症状のことです。不安感や恐怖感が原因のことが多いと言われています。

場面緘黙症の教え子

教員時代に場面緘黙症の子を担任しました。
その子は本当に表情が豊かで、特に目がくるくると動いてとっても可愛い子でした。

入学以来一度も学校のお友だちの前では話したことがありません。
2学期の終わりに差し掛かった頃には
私と2人のときには「はい」と小さな声で返事をしてくれたり、「ふふっ」と笑い声を聞かせてくれたりしました。

基本的に学校生活のコミュニケーションは、筆談でした。

発表会で希望した役割は‥

秋の学習発表会、その子は当然のように
楽器演奏のメンバーに入っていました。

‥でもなんだか浮かない表情。
気になったので、こっそりその子に聞きました。
「‥本当は、何がやりたいの?」

するとその子は台本を持ってきて、
頷きながら指をさしました。
そこにあった文字は
【ナレーター】

話せないから、ナレーターは無理じゃないかな。と、まず思いました。
周りで見ていた子たちも、
「え!?ナレーター?!」と戸惑っていました。

でもその子のまっすぐな目。
これは本気だと感じました。

そこで、クラスのみんなとその子と方法を考えました。

その子は学校では話せないけれど、お家ではよく喋る子だとお家の人が言っていたのを思い出しました。
お家の人に協力してもらって、その子のナレーションを音声データにとってきてもらうことにしました。

教室に響く声

初めてその子の声が教室に響く日。
音源の再生ボタンを押したとき、教室の時が止まったようでした。

‥‥

透き通る声。
ハキハキと、堂々とした口調。

鳥肌がたちました。

「うぉー!すごーいっ!」
クラスの子どもたちからも自然と拍手がおこりました。

その子は、とても恥ずかしそうに
けれど
すごく嬉しそうにこちらを見ていました。

話せないから、ナレーターは無理。
そう思っていたのは周りだけでした。

方法を探せば、みんなの協力があれば、
チャレンジできる!ということを教えてもらった出来事です。

その後も、その子は学校では話しませんでした。コミュニケーションは、やはり筆談です。

でも変わったことがあります。
それは、自分の意見を言う(というか書く)ようになったことです。

それまでは友達から何か聞かれたら、(うん)と頷くことがほとんどでしたが
(ううん)と首を横に振って、ミニノートにしっかりと自分の気持ちを書くことが増えました。

周りの子も、その子を見る目が変わったように感じました。

今でも「ごんぎつね」の話を読むと
あの時のあの子の透き通る声と、感激を思い出します。

最後まで読んでくださってありがとうございました!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集