最近のレストラン事情
最近は紙のメニューを置いていないレストランが増えた。時代の流れなのだろうか。
よく見かけるのはQRコードがテーブルに置いてあって、それを携帯電話で読み取って注文するスタイル。あとは、居酒屋のようなお店だとタブレットで注文するところも増えた気がする。どちらも紙のメニューと比べて利点もあれば欠点もあると思う。
一番大きな利点は、店員を呼ばなくても注文ができるので待つことなく好きなタイミングで注文できる、ということだろうか。お店側も注文を取りに行くという仕事が必要なくなるので店員もおそらく楽だし、効率的だ。さらに、物理的なメニューを印刷して管理する必要もなくなる。システムで管理できるので、注文の間違いなどの人為的なミスも減るだろう。
QRコードの場合は各自が自分の端末でメニューを見ることができるので、ひとつの紙のメニューを複数人で譲り合いながら見る、という必要がなくなる。自分のペースでゆっくり見ることができるのはメリットかもしれない。
では欠点は何か。まずQRコードを読み取れる携帯電話を持っていない人はこのシステムが全く使えない。今では大多数の人がスマホを持っているとはいえ、100%ではないので少数ながら注文ができない人が出てしまう。さらに、QRコードメニューにしろ、タブレットにしろ、ある程度のITリテラシーがないと使えない。そういう点で万人向けの注文システムではないと言える。
自分の端末上で好きなペースで注文できる、ということの裏返しになるけれど、みんなで会話をしながら一緒に食事を選ぶ、という場が少し失われるのは寂しい気がする。これは極めて個人的な意見かもしれない。でも複数人で食事をする場合は、メニュー選びを一緒にする、というところから食事体験が始まっていると思うので、私にとってはわりと大事な点だ。
同じような観点の問題として、お店の人とのやりとりがなくなる、ということが起きる。今までの方式だと、注文を取りにきたお店の人と必ず一定の会話が発生する。そこで例えばおすすめを聞いたり、わからない料理について質問したり、というやりとりがあって、それを元に何を注文するか決めることも多い。また、そこでの会話自体を楽しむ人もいると思う。手元の端末上で注文が完結してしまうと、この対話そのものが失われてしまうのが私としては少し残念だ。
少し前に一人旅で離島へ行った。一人旅なので当然ごはんも一人で食べたのだけれど、何しろ小さい島なので夕飯は基本的にどこかのお店を予約しないと食べられない。比較的最近できたレストランを見つけ、旅行前に予約しておいた。観光シーズンではない時期の平日とあって、予想通りお客さんは私一人だった。私だけのためにお店を開けてもらうという、ある意味とても贅沢な状況だった。このお店がQRコードから注文してください、という方式だった。確かにこれなら紙の伝票もいらないし、無駄がなくていいのかもしれない。でも客は私しかいないのだ。BGMが静かに流れる店内で、黙って携帯の画面を眺める私。黙々と調理を進めるお店の人2人。不思議な静けさの中、前菜とパスタとデザートをいただいた。
とても「今時」な体験だった。無言で食事を終え、お会計を済ませてお店を出た。余計な会話はしたくない、という人には最適な体験だったかもしれない。私もどちらかというと人見知りで余計なおしゃべりはしたくない人間だけれど、あまりにも極端に人間味の感じられない食事体験で、さすがの私も違和感を覚えた。テクノロジーの浸透が行きつく先はどこなのか?というより深い問いについて考えさせられた。
東京から遠く離れた離島でのんびりとした旅を楽しんでいたら、思いがけずIT技術の進歩を目の当たりにして、人類の未来に想いを馳せることになった。これも旅の醍醐味なのかもしれない。
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