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旅の醍醐味

私はかなりの人見知りで知らない人とはしゃべりたくない。よく知らない人とどうしても話さなければならない状況になるといつも気まずい雰囲気になる。ところが、旅に出るとだいぶ様子が変わる。なぜか旅先ではわりと自然に社交的に振る舞える。特に海外でコミュニケーションの言語が英語だと私はけっこう別人のようにフレンドリーになって地元の人と積極的に交流する。最近は日本語でも同じことをするようになってきた。

先日、休みを取って離島へ行った。日本とは思えないような、時間も空間も流れが異次元な世界で何もしない贅沢な時間を過ごしてきた。そもそも2月はまだ休みシーズンではないし、海外からの観光客もいないし、よくわからない宣言やらが出たり解除されたりという混沌としたご時世だから観光地なのにほとんど人がいなかった。人が多いのは嫌いなので私にとっては最高な状況だったけれど、飲食や宿泊業をやっている人にとっては大問題だ。そんなことを考えながら地元の人の話を色々と聞いた。

宿には朝ごはんしかついていなかったので、夕飯の時間になると集落にある数少ない営業中のお店へ行って食事をした。最後の夜に訪れたのは民宿もやっている食堂で、その日のお客さんは私一人だった。おそらく私と同年代と思われるマスターは、私が注文した料理を作り終えると会話モードになり、様子を見ながら話しかけてきた。私も一人で暇だったので、そこから会話のキャッチボールが始まった。他にお客さんがいると私も遠慮してしまうのだけれど、誰もいなかったので心置きなく色々と語った。

話題はそれこそコロナで民宿や食堂がどういう影響を受けたかとか、離島の生活事情とか、ガソリンの値段とか、ちょうどその週末に行われた市長選挙の話とか、ウクライナのこととか、政治の話とか、営業自粛中にFBで自民党批判をひたすら発信した話とか、多岐に渡って面白かった。私にとってはその土地の人の生の声が聞けるのが何よりも楽しい。ニュースやインターネットだけではわからない本物の情報に触れることができるし、そこの場所に行かないと感じることができない地元の人の思いを垣間見ることによってこっちの視野も広がる。私はわりと好奇心の塊なので、普段の自分がいる世界とは異なる文化について知ることが何よりも楽しいし気分転換になる。

こういう交流ができるから民宿やローカルなお店はけっこう好きだ。人見知りするくせに民宿が好き、というのも少し矛盾しているかもしれないけれど、それは旅の魔法、ということにしておく。でもマスターが言うには、今の時代、民宿は流行らないそうだ。なぜか。これもマスターの言葉を借りると、最近の人の旅の形が変わってしまったから、だそうだ。今どきの人はSNSがメインの旅行をしている。SNS映えする場所へ行って写真や動画を撮り、それをシェアしていいねをもらう、それが目的だから、食事が終わったらあとは部屋にこもってひたすらSNSをやっている。その場所で写真が撮れれば満足だから旅の期間も1泊だったりと短い。そうなると地元の人と交流する時間もないし、そもそも交流することに興味がないらしい。民宿はどちらかというとそれとは対極の体験を提供する場だから、そういう観光客に対しては何もしてあげられないし、このままだと廃れていってしまう、ということだ。

けっこう的を得た分析だと思った。そしてすごく寂しい話だなぁと思った。わざわざ時間とお金をかけて知らない土地へ行くのに、その場所の文化に触れたりそこに特有の体験をせずにバーチャルなSNSの世界に浸って過ごすのはもったいない、と私なら思う。時代の流れだからある程度は仕方がないのかもしれないけれど、私はそういう流れには乗りたくないと思った。

そんなこんなで話は尽きず、結局ゴーヤやきそばとシークワーサージュースだけで2時間半も居座ってしまった。この晩の交流は今回の旅のハイライトのひとつだった気がする。次回またこの島を訪れたら必ずこの食堂にも来ようと心に誓って真っ暗な夜道を宿へと帰っていった。



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