
不穏な世界、芸術の力
ここ数年、世の中には不穏な空気が流れていると思う。世界中の様々な場所で変な流れが起きて、あってはならないことが現実となって、少しずつ、でも確実に生きづらい世の中になっている。
なぜだろう。新しい時代に人類がついていけないのだろうか。そもそも愚かな人類にはこれが限界なのだろうか。文明が発達してもそれを大衆が正しく使いこなせなければ物事はおかしな方向へ進んでしまう。悲しい。
あるいは、流れに乗れない私の方がおかしいのかもしれない。でも昔から私は流されるのが嫌いだから、周りに渦巻いている暗い潮流に飲み込まれることはないだろう。そんな中でどうすれば穏やかに生きていけるか、ということをよく考える。まだ答えは見つからない。
嫌な思いが溜まったときは、芸術に頼ることにしている。美術や音楽などの芸術に浸ると、ひとときの心の平穏を取り戻すことができる。人類にもまだ希望はあるかも、と思えて不信感が少しだけやわらぐ。私は昔から音楽寄りの人間だ。美術鑑賞も嫌いではないけれど、音楽の方がより直接私の感性に響いて感情が揺さぶられるので好きだ。聴くのも演奏するのも好きだけれど、演奏の方はまだまだ練習が足りない。
良い音楽を生演奏で聴くと鳥肌が立つ。あの身体が勝手に反応する感じが好きで、ひとりでコンサートに出かけたりする。コロナ禍の最中は有名なジャズピアニストが毎晩ライブ配信をしてくれて、それをリアルタイムで見るのが日課だった。流れていくたくさんコメントを見ながら素敵な音楽を聴いていると物理的には同じ場にいないのに、参加者が一体になる感覚があって音楽の力を改めて実感した。音楽は記憶とも強く結びついていて、旋律を聞いただけである時の記憶が情景やそのときの感情とともに蘇ってくることも多い。私にとっては音楽というのは人生を豊かにするもので、生きていくのに必要だ。
というわけでつい最近もお気に入りの音楽家の演奏を聴きにビルボードライブ横浜へ行ってきた。数ヶ月前に近所の駅前広場で無料の音楽祭が開催されて、そこでこの音楽家がパフォーマンスをしていた。線路脇のステージで、地元の人がたくさん集まり、電車の音と、鳥の鳴き声と、街のざわめきが入り混じった中で、素敵な音楽に夢中になった。そのとき、その場にいるすべての人がとてつもなく愛おしく感じた。音楽の魔法を体験した瞬間だった。それ以来この人の奏でる音が大好きになった。音楽によって世界は平和になるかもしれない、と本気で思えたことが嬉しかった。
芸術というのは実用的なものではない。お金のかかる贅沢品である場合も多い。生きていくための必需品ではないからそこにお金をかけるべきではない、という意見もあるかもしれない。私はこの意見には賛成しない。世の中が殺伐とすればするほど、芸術は必要なものになっていくような気がする。だから私は今までもこれからも、アートやアーティストをサポートするためにささやかながら協力していこうと思っている。