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白夜~プロローグ~

 白夜というのは夜でも、昼間のように明るいことを言うのだと、教えてもらったのはいつだっただろうか。
 なんて、アスファルトの上に仰向けで寝転がりながらふと思った。
 残念ながら、私の視界に移るのは空の闇、ぎらつくネオンの明かりだけだが。
 白夜とは全く違う、欲望にまみれた景色だ。
 白夜の意味を教えてもらったとき、人の心みたいだな、と思ったことがある。多分、説明しても何を言っているかわからないとは思う。私ですらどう表現していいのかわからないからだ。
 ただ、強いて言えば本来は闇であるはずの夜が、反対の意味になる光のように見えるというのが、状況に合わせて仮面を付けて本心を隠してしまう人間の心によく似ている。
 何で急にこんなこと思い出したんだろう、と内心首を傾げる。道に寝転ぶのは通行人の邪魔だろうと思い、身体を起こそうとした。
 が、何故か力が入らなかった。
 頭のあたりから生暖かいものが流れ出し、急速に体温が下がっていっている気がした。
 驚いて、唯一動かせる目だけを動かし、周りを見渡すと、周囲の人はスマホのカメラをこちらに向けたりしていた。
 何故、皆私にカメラを向けているのだろうか。
 何故、起き上がれないのだろうか。
 何故、私はここにいるのだろうか。
 わけがわからないまま、強烈な眠気に襲われた。
 嗚呼、すごく眠い。一度眠って起きたらなぜこうなったか考えよう。そう思って瞼を閉じ、眠気に身を任せた。
 意識が途切れる寸前、遠くで救急車のサイレンと、良く知っているはずの男の声が聞こえた気がした。

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