最も愛した雄の話
私は犬という生き物が好きだ。
とても、めちゃくちゃに、とにかく、きわめて、尋常ではなく、物凄く大好きだ。
“とても”の表現だけでもかなりの数があり、どの日本語で表現すれば私が大の犬好きであるか分かってもらえるか…
なんて考えながら文章を書いているが、こんなことを書いてる時点であゝ、こいつは面倒くさいタイプの犬好きかとお分かりであるだろう。
まさにその通りである。
生粋の犬好き。
大の字に寝っ転がって、イッヌに一斉に囲まれたい。そんな願望を常々抱いているし、街中でお散歩中の犬を見かけるとついつい頬がほころぶ。
なんでそんなに犬好きなのかというと、私がまだ3000グラム弱の赤子だった頃、赤ちゃんゴールデンレトリバーも家族となり、幼い頃から犬と過ごし、共に成長してきた人生だった。
両親は共働きで私は一人っ子。
友達のような存在でもあり、兄弟のような関係でもあり、思い返せば一人でいても寂しいと感じたことはなかった。
親のいない間、犬と二人で過ごす時間が私はとても楽しかったのだ。
ゴールデンレトリバーだけではなく、ヨークシャテリア、琉球犬、ダルメシアン、雑種など犬種に関係なく、様々なイッヌたちと一緒に過ごしてきた。
当たり前なんだけど、みんな性格もバラバラなのよ。それぞれの子たちと思い出があり、好きや可愛いに優劣を付けれることでもない。
だけど、今日はその中でも私にとって特別な存在だった“まるお”について話をしようと思う。
出会い
恩納村にある大自然のアスレチックが楽しめるフォレストアドベンチャーに初めて行った時、受付の横につながれていたのがまるおだった。
3000円以上する、そこそこいい入場料を払ったのにも関わらず、アスレチックそっちのけで白くてマルチーズのようなふわふわした犬がとにかく可愛く、ずっと犬を撫でて愛でていた。
すると受付のお兄さんが、「お姉さん犬好きなの?もし良かったらこの子連れて帰ってくれない?」と声を掛けてきた。
どうやら迷子になっていたところをお兄さんが保護し、マルチーズみたいだからまるおと名付けはしたが、犬を飼うことができないので職場に連れてきていると。
誰か大切してくれる人がいるならとは思っていたが、こんなに可愛がってくれるなら私にまるおを託したいと。
う〜ん…そう言われましても…命ですし。
どうしようかと考えたが、まるおが私を見つめるその目をみていると、責任持って世界一幸せにするかと覚悟が湧いてきた。
私はその場でまるおを飼うことに決め、そのまま自宅に連れ帰ったのだった。
チーム前田にまるおが途中加入したのだが、名前をコロコロ変えるのも可哀想なので、そのまま
まるおと呼ぶことに。
天才犬まるお
いざ、一緒に生活しはじめると、まるおの賢さにとにかく驚いた。
自宅の室内に犬用トイレを準備したが、そこで排泄をせず、お漏らしするまで何時間も排泄を我慢させてしまった。
トイレが分からないのかと思っていたが、そうではなく、室内以外のベランダや外に出ないと排泄をしないのだ。
室内では排泄をしてはいけないと前の飼い主に教育されていたのか、室内にトイレを置いても一切しないため、ベランダへ自由に行き来できるようにしたらトイレの粗相を起こすことはなかった。
散歩に行く時なんか、まるおは私のペースにあわせて歩いてくれる。
前に飼ってたダルメシアンのリンなんて私を引きずって、私が散歩させられていたのに。
基本的にリードをつけて散歩をしているが、リードがあろうとなかろうと、まるおは私の側から勝手に離れることもない。
車に乗ろうとドアを開け、乗っててと伝えると自分で車に乗り、私が来るまで車内で待ってることができる、とても賢い天才犬だった。
仕事のため、まるおのお世話を祖母に頼んだある日のこと。祖母の目を盗み、まるおは団地の5階から脱走してしまった。
まるおはとにかく私に忠実な犬で、私の母や祖母、友人やボーイフレンドなどが
「まるお!おいで〜」と声を掛けても、うんともすんとも反応せず、意図的に無視をする。
何回名前を呼ばれても絶対に反応しない。
その様子を見て私が「まるお、無視しないで呼んでるでしょ?ちゃんと行きなさい」と言うと、
嫌そうにため息をついて、呼んだほうへトボトボと仕方なさそうに向かう不思議な犬だった。
迷子の経験があるからか、私への依存性が高く、姿が見えなくなるとパニックになってしまい、団地から脱走してしまったのだろう。
3日間、寝ずに四六時中、色んなところを探したがまるおは見つからなかった。
扱いが難しい犬とわかっていたのにも関わらず、安易に祖母に預けてしまった後悔や、世界一幸せにするとまるおに約束したのに、不注意でまた迷子にさせ、寂しい思いをさせてしまったことに悔しくて涙が止まらなかった。
私がいくら泣こうが、まるおが帰ってくるわけではない。
分かっていながらも団地のベランダに出て、まるおを想い泣いていると、遠くから白いマルチーズのような犬がこちらの方向へタッタッタと走っていた。
はぁぁあぁああ?いやいやいや、嘘でしょ?と思い、目を凝らしてみると、間違いなくまるおだった。
嘘みたいな本当な話、まるおが私を逆に見つけ、自分で団地の5階まで駆け上り、何事もなかったかのように私の元へ帰ってきたのだった。
あまりにも賢すぎて、動物病院からまるおの遺伝子を残した方がいい、残したいから検査させてくれとお願いされたのでやってみると、分かったことは去勢手術済みということと、米軍基地の中で元は飼われていた犬だろうと。
米軍基地の中のチップがまるおに埋め込まれていたらしい。
沖縄を離れる前、まるおは体調を崩し、このぐらいの時期に入院をした。
沢山の思い出を残して、エンジェルちゃんになった。
まるお、あなたは幸せに過ごせたかい?
私はあなたと一緒に過ごした期間、最高に幸せだったぜ。
あれからしばらく経ったけど、いまだにまるおを思い出しては何度も泣いている。
野菜炒めを作ろうと野菜を切っていると、人参大好きなあなたは人参が床に落ちないか見張っては人参狩りをしていましたね。
私の剃り残した手足のチクチクした毛で、自分の舌磨きをしては私によく怒られていましたね。
水が苦手なのにも関わらず、私がお風呂にいる時も離れたくないから、お風呂に入ってきてまでも私のことを見張り、うんちしていようがトイレの中にも入り、いつも私の監視をしてくれていましたね。
まるお、あなたは私が愛した世界一の雄ですよ。
インナージャーニーの「グッバイ来世でまた会おう」という曲がある。
https://youtu.be/YT7I5e-Yzzk?si=XS33vu6zBlXqNxJF
この曲を聴くたび、なぜだかまるおを思い出す。
まるお、グッバイ来世でまた会おう!
約束だから!
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