走らなかったメロス
メロスは激おこした。
必ず無知蒙昧の王を殺害しなきゃ!と奮起した。メロスは全く政治がわからぬ。まるでチンプンカンプンだ。
メロスはただの村人だ。笛を吹き羊と遊んでばっかりの無職のろくでなしだが悪に関しては敏感な面倒くさいやつだ。
村を飛び出し30キロ離れた市にタクシーで乗り付けた。
メロスには父も母もなく恋人もいない。しかも童貞だ。妹が1人いるが器量の悪さから結婚できずにいた。
そんな妹を嫁に貰ってくれる物好きがいたもんだからメロスは歓喜した。
「こ、これで念願の一人暮らしが!」
こんな遠くの街までやってきたのは注文していた裏DVDを局止めにしておいたからだ。
メロスには竹馬の友があった。
その名もセリヌンティウスというキラキラネームの男だった。
ストーンアートの店をやっている。今風にストーンアートなんて言ってるが昔風に言えば墓石屋だ。
久しく会っていないから逢いに行き冷やかすのが唯一楽しみであった。
しかし街の様子が何やらおかしい。
まるで世紀末だ。近くを歩いていた爺を脅迫するとすぐに白状した。
「王は人を殺します。」
「なぜ殺すのだ!?」
「汚物は消毒だって言うんです。」
「なぬーっ!?」
メロスは単純な男だった。自分が汚物だと罵られた気分になって腹立たしくなりナイフ片手に城に突撃したのだ。
結構いろんな面倒な手続きをして暴君ディオニスの前に膝を着く。
「なぜ殺すのだ!?」
「税金を滞納してるからだ。そのくせ生活保護をよこせという。だから殺す。」
ディオニスはまるで世紀末覇者のように額に深いシワが刻まれていた。
「何のための税金だ!?自分の生活を守るためか!職の無いものから搾り取って何が平和か!」
「黙れ!下賤の者!お前も処刑だ!」
「ぬほぅ!?そいつは待ってくれ!妹の結婚式に出たいんだ!それまで待ってほしい。三日目には戻ってくる。そうだな、この街にセリヌンティウスなんて奴がある。私の親友だ。彼を人質にして私が帰って来なかったら煮るなり焼くなり好きにすればいい!」
「え?そんな無関係な人を巻き込んでもいいのか?」
「構いません!私が困っているときに助けてくれるのが友達として当然の事!」
「いやいや、なんか言い分がおかしい!」
翌日、セリヌンティウスは城に召し捕られてメロスと対面した。
「よう!久しぶり!」
「ちっ!またてめぇか!早く金返せ!」
セリヌンティウスはいつまでも働かないメロスに多額の借金をしていた。
「まぁ、今度返すから…でな、なんでこうなったかというと…かくかくしかじか…」
メロスは事情を話す。
するとセリヌンティウスは想定外なくらい激怒した。
「てめぇ、ふざけんな!俺を勝手に担保にするんじゃねぇ!俺は昨日まで妻と慎ましく生活してたのになんでお前の勝手に付き合わされるんだ!冗談はヨシ子さんだぜ!!」
「ぶぉはっはっはっはっ!冗談はヨシ子さんだって…ぶふーっ!!」
暴君ディオニスは大笑いした。
こうしてメロスは村に戻り妹の結婚式に出席し、二次会三次会と盛り上がった。
「妹よ、私はまた市に戻らねばならぬ。」
「なぜ?兄さん。」
「暴虐な王に友を人質に取られてしまい、それを救いに行かねばならぬ。私は嘘をつきたくない。天地神明に誓って嘘ではない。お前の兄さんは勇者だったと誇りをもっていい。」
そして、婿である義弟の肩に手をかける。
婿は市で複数の飲食店を営む資産家だった。
「妹を頼む!」
「кёйжзнмиеевпзд!」
「ナニ人だよっ!?」
こうしてメロスは結婚式場を後にして鼻歌交じりにダラダラと歩いた。
途中に疲れて鬱になり、岩に腰掛けていると3人の男達が襲いかかってきた。
「なんじゃぁっ!?お前ら!!」
「王の命令でお前を足止めしろと!」
「バカっ!バラすんじゃねぇよ!」
「ぬおぉぉ!たぁぁぁ!とぉぉぉ!!」
メロスは強かった!三人をあっという間に殺害してしまった。
三年ばかり通信教育で柔術を習っていたのだ。
結局予定よりも早く城に着いた。
「まだ早いな…そうだ!いかにも苦労してやってきたという感じに演出しよう!」
メロスは衣服を脱ぎ捨て全裸になった。
その頃セリヌンティウスは苛々していた。
「くっそー!あいつ遅いな!よくよく考えてみれば時間を守った事ねぇじゃないか!!」
「何?それは本当か!?」
「ああ!付き合っていた頃からな…。」
セリヌンティウスは目を細める。
「な、なんと…お前たちはそんな関係だったのか!?」
ディオニスは興味深そうに身を乗り出す。
「ああ、俺達は愛し合っていたんだ。それなのにあいつは嘘をついた!俺の他に男がいたんだ。」
「なんて酷い…」
ディオニスが大粒の涙を流す。意外と涙脆かった。
そして、時間を過ぎてからメロスが全裸で登場した!
「ここ、こんにちわ。そこで男達に襲われて…」
「くそーっ!!またか!!また俺を裏切ったのか!!」
セリヌンティウスの拳がメロスの顔面にえぐり込むようにねじ込まれた。
「ざまぁwww」
ディオニスは満面の笑顔で拍手を送った。